2020/8/16

【水野敬也】世界が生まれ変わるのを、特等席で見たい

文響社
大人気シリーズ『夢をかなえるゾウ』の最新作、『夢をかなえるゾウ4 ガネーシャと死神』(文響社)を刊行した作家の水野敬也氏。インタビュー最終話では、水野氏が挑もうとしている「新たな戦い」に迫る。

「ランクづけ」されるみじめさ

──今回の連載で、水野さんは何度も「資本主義」への反骨心を表明していますね。
水野 それは、資本主義が人類に「みじめさ」をウイルスのように運んでいるからです。
もちろん、資本主義にも素晴らしい面はたくさんあります。たとえば資本主義は人を競争させることで、成長を促します。ただ、その副作用として、人間をランクで分けていくんですね。
たとえば芸能人のCMギャラ番付にしても、ドラマに出てくる役者の1番手、2番手みたいな序列にしても、本来、等しく価値があるはずの人間に対して「ランキング」をつけるのは、「商品を売る」ということに関わってくるから。資本主義が、それを望んでいるからです。
具体例が生々しくなって恐縮ですが、たとえば街を歩いている一般の女性よりも、新垣結衣さんの方が「価値が上」だとすることによって、新垣さんの勧める商品、着ている服、ライフスタイルに価値が生まれ、それを手に入れたいと思うようになる。
ただ、そうした価値観が普及した時点で、街を歩いている一般の女性が「下」であり、価値がない、ということになってしまう
「新垣さんのようになりたい」という感情は、同時に、新垣さんではない自分に対して、「美しくない」「足りていない」と意味付けすることです。
こうして生まれたネガティブな自己像と理想像を埋めるのが「商品」です。「足りてない」から「買う」のです。
(SIphotography/Getty Images)
この価値観が日本列島を覆うことによって、本来は、年収200万円で何の悩みもなく幸せに暮らせるはずの人が、みじめな気分にさせられたりするわけです。
僕はこれまで、自分が感じたみじめさから脱出するために、「自分よりモテるやつ」や「自分より成功しているやつ」を敵だと考えて戦ってきましたが、その先に「資本主義」というラスボスがいた。
『ドラクエ3』で、やっとバラモスを倒したと思ったら、町娘から、
「バラモスなど だいまおうゾーマの てしたの ひとりに すぎませんわ」
と明かされた心境です。
そういうわけで、ここ2、3年の僕は、資本主義に照準を合わせているんです。
(Andrew Bret Wallis/Getty Images)

世界を変えるには、敵を動かす