[シカゴ 14日 ロイター] - 米政府の科学者らが、健康な人に新型コロナウイルスワクチンを接種した後、意図的にコロナウイルスに感染させてワクチンの有効性を調べる「ヒトチャレンジ」臨床試験(治験)の実施を視野に、コロナウイルス株製造などへの取り組みを始めたことが、ロイターの取材で分かった。

米国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー感染症研究所(NIAID)はロイター宛の電子メールで、こうした取り組みは予備的なもので、製薬のモデルナ<MRNA.O>やファイザー<PFE.N>が現在行っている大規模な被験者を対象とした後期治験(第3相試験)に取って代わるものではないと説明した。

さらに「コロナのワクチン候補や治療法を完全に評価するためにヒトチャレンジ試験の必要性が生じた場合に備え、当機関として試験を実施する際の技術的・倫理的課題に関する調査を開始した」と明らかにした。

取り組みには、適切なコロナウイルス株の製造や、治験プロトコールの作成、治験実施に必要なリソースの特定などが含まれる。

ほとんどのワクチン治験は、故意ではない感染に依存しており、感染が起きるまでに時間がかかることがある。英アストラゼネカ<AZN.L>や米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)<JNJ.N>など一部の製薬会社はこれまでに、必要に応じてコロナワクチンのヒトチャレンジ治験を検討すると表明している。

ヒトチャレンジ治験は通常、ウイルスが広く流行していない場合に行われる。多くの科学者は、コロナ感染で病気にかかった人への「救命治療法」が存在しないため、コロナに関するヒトチャレンジ治験は倫理的に問題があると考えている。

J&Jのグローバル・ワクチン部門責任者、ヨハン・バン・フーフ氏は今週、ロイターとのインタビューで、世界中でヒトチャレンジ治験のための準備が進んでおり、同社としてもそうした流れに従っていると表明。ただ倫理的な問題が解決され、効果的な治療法が利用可能にならない限り、こうした治験は行わないとした。

ジョンズ・ホプキンズ大の公衆衛生大学院でワクチンを研究し、これまで10件以上のヒトチャレンジ治験を手掛けたアンナ・ダービン氏は、ヒトチャレンジ治験の立ち上げに9─12カ月かかり、治験会場などの調整にさらに6カ月を要すると話した。