伊賀大記 坂口茉莉子

[東京 14日 ロイター] - 日銀が実施している新型コロナオペの残高増加が一服してきた。貸出の増加ペースが鈍化してきたほか、オペを利用するための担保も少なくなってきているためだ。3カ月物国庫短期証券の利回りが上昇してきたことで、他の運用先も広がってきた。ただ、0.1%の金利がもらえるなどの「ボーナス」があるため、マイナス金利の副作用緩和を目的に、引き続き一定額は利用されるとみられている。

<初の減少>

日銀は13日に新型コロナオペを実施したが、利用残高は23.3兆円となり、前回7月22日の27.1兆円から減少した。同オペは3月から行われているが、残高の減少は初めて。5月14日に実施されたオペが8.6兆円満期を迎えたが、今回の実施額は4.9兆円となり、差し引き3.8兆円縮小した。

新型コロナオペは大きく分けて2種類あるが、社債等を担保に日銀から資金を借りるオペは、主な利用先である大手銀行の需要が一服したとみられている。同オペを利用することで、得られる0.1%の付利金利と、ゼロ金利が適用される(マイナス金利が回避できる)マクロ加算残高が2倍になるメリットを享受してきたが、需要に減速感が出てきた。

「大手銀行はマクロ加算残高の枠が十分確保できたようだ。3カ月物国庫短期証券の利回りも上昇してきており、そこで運用することもできる。利用するための担保が十分でなくなっている可能性もあり、オペの利用ペースは今後伸びにくいだろう」と、野村証券のシニア金利ストラテジスト、中島武信氏は指摘する。

このオペに利用可能な担保の残高は7月末時点で31.9兆円。前月から2.9兆円増えているが、7月だけで新型コロナオペ全体の利用額は6.3兆円増加しており、都銀などには担保上の制約がかかり始めた可能性がある。

もう1つの新型コロナオペである新たな資金供給手段を利用するには、実質無利子・無担保の融資を行う必要がある。この融資の実行額は6月の1兆円程度から7月上旬には0.8兆円程度まで鈍化。都銀の貸出も7月は前年比では伸びたが、実額(平残)では減少している。貸出の伸び悩みも新型コロナオペ鈍化の要因とみられている。

<裁定取引の需要は継続か>

ただ、新型コロナオペは引き続き一定程度、利用されるとみられている。オペを使って資金調達すれば0.1%の金利が得られるほか、ゼロ金利適用枠が拡大することで、裁定取引の機会も増え、マイナス金利の副作用を軽減することができるためだ。

金融機関が日銀にお金を預ける当座預金残高は3層構造になっている。プラス0.1%が適用される「基礎残高」、ゼロ金利が適用される「マクロ加算残高」、そしてマイナス0.1%が適用される「政策金利残高」だ。

マクロ加算残高に「余裕」を持つ金融機関は、マイナス金利で資金を調達して、ゼロ金利で運用することができるため収益が得られる。一方、マイナス金利が発生している金融機関にとっても、わずかでも小さいマイナス金利幅で資金を放出できれば、損が軽減できる。これが裁定取引だ。

「マクロ加算残高」が増えることは、こうした裁定取引の機会を増やし、マイナス金利の副作用を減らすことにつながる。実際、新型コロナオペの開始後の無担保コール翌日物金利市場では裁定取引の活発化により、レートが上昇している。

日銀が公表した業態別の日銀当座預金残高によると、6月の全体のゼロ金利適用枠は179兆7130億円と、5月から約16兆円増加した。金融機関による新型コロナオペの活用によって、ゼロ金利適用枠が増えたとみられている。

みずほ証券のマーケットアナリスト、松崎涼佑氏は、新型コロナ対応オペの本質が「マイナス金利の影響緩和策」であるとの見方を示す。無担保コール翌日物金利がマイナス圏で推移する限り、つまり「マイナス金利政策」の体裁が保たれている限りは、マイナス金利の副作用対策に重きを置くとみている。

<短中期債需給に微妙な影響>

新型コロナオペの鈍化は、短中期債の需給に微妙な影響を与える可能性がある。

オペの増加に伴って、マイナス金利が付かないマクロ加算残高が増えれば、リスクを取って利回りの低い国債を買うよりも、日銀当座預金に資金を置くことが選好されやすい可能性があった。オペが鈍化すれば、この点では短中期債の需給にプラス要因だ。

一方で新型コロナオペが鈍化すれば、担保としての短中期債需要は低下する。この点はマイナス要因となる。

今回のオペの期日は2021年2月26日。現状では新型コロナオペは来年3月末で終了される。市場では新型コロナによる影響が長期化する中、延長されるとの見方が多いが、期日が近づいてきていることも、オペの利用鈍化につながった要因とみられている。今後はオペの延長がいつ決まるかが焦点となってきそうだ。

(編集:石田仁志)