あの急成長D2Cには、なぜ社員が一人もいないのか

2020/8/17
2019年にユーグレナグループ入りを果たしたMEJは、オリジナルのヘルスフードをオンラインで販売するヘルスケアD2C(Direct to Consumer)だ。ソーシャルメディア特化型のマーケティングに成功し、この1年で累計会員数2倍と破竹の成長を続けている。
そんなMEJは、経験豊富な外部のプロ人材をスポットで活用するプロシェアリングで、役員以外「社員ゼロ」という最先端の組織づくりに成功している。なぜ正社員を雇用せず、プロ人材を活用するのか。一社に属さないプロ人材を最大限活用するために、どのようなマネジメントが必要なのか。MEJの創業者でCEOの古賀徹氏とサーキュレーション代表の久保田雅俊氏の発言を通して、最先端の組織づくりの秘密を紐といていく。
アメリカで見た「最速成長のための組織」のかたち
古賀徹氏が経営するMEJは、オリジナルのヘルスフードをオンラインで販売するヘルスケアD2C(Direct to Consumer)だ。2019年にはユーグレナグループ入りを果たし、累計会員数はこの1年で2倍と急成長を遂げている。
その要因は、時代に合わせたソーシャルメディア特化のブランドマーケティングだ。最もマーケットインを徹底しているD2C企業の一つと言えるだろう。
驚くべきは、4人の経営ボード以外に社員はゼロだということだ。1つの企業には所属せず、さまざまな職能を高いレベルで有するハイクラスな外部人材=プロ人材25名によって構成された組織が、この急成長を支えている。
日本では異端と言えるMEJの組織体制だが、はじめからそうだったわけではない。古賀氏が今の組織をつくるきっかけとなったのが、経営のかたわらシリコンバレーでインターンとして働き、見聞を広めた経験だ。
「アメリカには日本では当たり前の新卒一括採用がない、Appleのインターン生が年収1000万、結果を出さなければlayoffされてしまうプロ社会、社長1人で世界中のフリーランスと契約しているクラウドソーシング企業……日本との違いを目の当たりにして驚きの連続でした。
また、当時アメリカでは『2030年にフリーランスのほうが多くなり、社員ではない働き方が当たり前になる』と言われていました。蓋を開けてみれば、現在のフリーランス率は35%。2030年を待たずして、その時代が来る計算です。
そのような背景もあり、世界の先端企業では『どうやって優秀なプロと接点を持つか』『いかに彼らが活躍できる環境をつくるか』を徹底して追求しています。そのことにも衝撃を受けました」(古賀氏)
もう一つの大きなきっかけとなったのが、プロシェアリング事業を展開するサーキュレーション代表の久保田雅俊氏との出会いだった。
久保田氏は、そのときのことを振り返ってこう話す。
「古賀さんは、社会に大きなインパクトを与える組織を最速でつくりたいと相談してくれました。そこで、世界で生まれた最先端の組織事例や、これからのオープンイノベーション、ギグ・エコノミーが創り出す未来についての話をしました。
たとえば、ベンチャーと大企業、あるいはベンチャーと大学というように、あくまで組織間のものだったオープンイノベーションが、これからは個人のレベルで起こっていく。さらには、Uberのようにインターネット経由で単発で仕事を請け負うギグ的な働き方がホワイトカラーの世界にも浸透していくでしょう。
イノベーションの牽引役になるのは、アメリカの『インディペンデントコントラクター』のような人々。つまり、プロのフリーランスなのです」(久保田氏)
アメリカの実情を目の当たりにしてきた古賀氏は、久保田氏の話から確信を得た。そして、すぐに「プロシェアリングを活用した組織をつくりたい。ぜひ協力してほしい」と伝えていたという。
プロ人材活用で社員ゼロへ。大胆すぎる組織変革の理由
はじめて「プロ」を導入する際の、サーキュレーションに対する古賀氏のオーダーは単純明快だった。
「『D2Cに詳しい一番優秀なマーケター』。それだけです。すると、本当に有名なD2C企業の元トップマーケターが、翌月から働きにきてくれました。30歳くらいでまだ若いものの、ベンチャーで50億の売上を作った経験があり、だからこそ知識が広範です。
広告運用からプロダクト開発、獲得した顧客の育成まで、事業全体に目を光らせてもらえたことで、MEJの急激な成長を支える土台ができあがりました。
週に2〜3日、4〜6時間の稼働で着実に成果を出すプロ人材には、それまでの社員とは別次元のパフォーマンスを実感させられました」(古賀氏)
これまでの終身雇用・年功序列を前提とした日本企業では、「就職」というより「就社」に近い「メンバーシップ型組織」が一般的で、以前のMEJもそうだった。
古賀氏は、起業が選択肢にあるような優秀な学生を新卒で採用することに力を入れていたが、それでも現場で活躍するまでの育成には相当の時間がかかったという。
では、欧米のような「ジョブ型組織」にして、必要なスキルセットに合致する人材を集めればいいのかというと、現実はそう甘くない。
ジョブ型組織では、採用ターゲットのレベルに比例して採用難易度も上がってしまうというデメリットがある。運よくヘッドハンティングできても、現職を辞めるまでに半年〜1年かかるケースも多い。つまり、時間と採用に膨大なコストがかかってしまうのだ。
日本のメンバーシップ型組織と欧米のジョブ型組織。どちらにもメリットとデメリットがある。iStock.com
「プロシェアリングなら、その領域のトップランナーが翌週からでも働きに来てくれます。また、まだまだフリーランスを活用している企業は少ないので、圧倒的に買い手市場。優秀な人材を確保するための有効な手法だと思います」(古賀氏)
プロ人材の活用に手応えを感じた古賀氏は、2つの経営方針を明確にした。
1つ目は「最速で業界No.1になること」。2つ目が、「最速成長のためにプロ人材を徹底的に活用する」ことだ。
古賀氏はその方針に則って、商品開発やCRMなど、重要な業務をどんどんプロ人材に任せていった。2年たった今、MEJは25名のプロだけで構成された「プロシェアリング型組織」となっている。
大きなターニングポイントも訪れた。ユーグレナ社とのM&Aだ。
「実はこれまでもM&Aの提案はたくさんいただきましたが、本気で共感できた会社ははじめてです。MEJには『新たなヘルスケア文化を創造する』というミッションがあるので、ユーグレナ社の『人と地球を健康にする』という考え方に強く共感しました。
また、出雲社長とお話しして、MEJの『ヘルスケアD2C No.1』というビジョンを最速で達成できるのは、ユーグレナ社しかない。我々がジョインすることで、デジタル領域での成長も加速できると感じました。
ユーグレナと一緒になれば成長が加速し、社会価値の最大化にもつながると確信しましたね」(古賀氏)
プロ人材を活用できる企業、できない企業
なぜMEJはここまでプロ人材を活用できるのか。プロを紹介する側の久保田氏は次のように分析する。
「プロ人材と話し合った上で、明確なミッションとゴールを決めているのが一番のポイントです。メンバーシップ型組織で業務範囲が曖昧な状態に慣れている企業は、これが一つの壁になります。
加えてMEJでは、業務の進め方は完全にプロに任せ、細かいマネジメントはしない。その代わり、ミッションとゴールが達成されているかどうかの評価は徹底しています」(久保田氏)
どちらもプロ人材を活用するための「プロマネジメント」の重要なポイントだという。
しかし、プロはいわば「外部」の人間だ。彼らに任せることに抵抗はないのか。古賀氏の答えは「まったくないですね」。
そう言い切れるのには理由がある。MEJではプロに仕事を任せるために、業務内容やミッションを明確化して契約書に落とす、というまさに「プロ契約」をしているのだ。
「また、彼らはその分野において、僕が口出しできるレベルではありませんし、重箱の隅をつつくような指摘で、彼らのモチベーションを削いでしまうことのほうが問題です」と古賀氏。
プロの役割を明確にし、能力を発揮しやすい環境を整えているからこそ、現在のMEJの急成長があるのだろう。
実際にMEJでCHROの役割を担うプロ人材・澤田清恵氏も、「プロマネジメント」における古賀氏の強みを感じているという。
「私はHR領域で5年前に独立起業し、プロとして、フリーランスとして、さまざまな規模感・カルチャーの企業と仕事をしてきました。古賀さんは、ずば抜けて『信じて託す』スタイルを確立しているマネジメント。だからプレイヤーの強みを活かせるんです。
また、0→1のワクワク感やスピード感も、プロにとってのやりがいのひとつ。何かアイデアが湧いたらすぐにslackを送って、それに古賀さんが5秒で打ち返す。大袈裟ですが、それくらいのスピードでパンパンとやり取りをして、すぐ『GO』が出て、形にしていける。一緒にゴールを作っている実感があります」
実は、MEJには社内資料も稟議書も会議もない。業務の進捗や経営情報も全てオープンにし、オンラインで完結できるワークスタイルを徹底的に仕組化している。
また、プロにはミッションと権限をセットで渡している。そのため、新しい取り組みをするときもアクションする前の相談ではなく、アクションした結果の報告をもらうだけだという。
「全国にいる優秀なプロ人材は、複数の企業でどんどん活用されるべきです。彼らをシェアすることで、日本企業の生産性を最大化できるはず。
時間にも場所にも雇用形態にも縛られない“New Nomal”な組織をつくることができれば、地域格差もなくなり、東京一極集中もなくせます。
これからはヒトもモノもシェアするのが当たり前。正社員ではなくフリーランスが主流の時代がきます。いち早くプロ人材を受け入れる体制を整えた企業が、優位性を持つことになるでしょう」(古賀氏)
New Nomalな組織づくりの成功こそが、労働人口が減り続ける日本がGDPを伸ばし、世界で生き残っていく方法だということだ。
一方、昨今の情勢を見て久保田氏は次のように語る。
「この数ヶ月の間に、世界レベルで働き方の変革が一気に進みました。
テレワークをきっかけに、ジョブ型組織への転換を図る企業や、ヤフー社の『ギグパートナー』やユニリーバ・ジャパン社の『パラレルキャリアン』など、プロ人材活用に大々的に取り組む大手企業も出てきています。
いずれも、全員が同じ時刻に出社して、同じような仕事をするという組織体制には限界があり、一人ひとりの強みや専門性を活かした人材活用にシフトしていくことが成果の最大化につながる未来を予測しているからでしょう。
新しい働き方の幕開けともいえるこの変化に、いかに速く適応していけるか。間違いなくこれが、今後の企業の事業成長に大きな影響を与えていきます」
(執筆:唐仁原俊博 編集:大高志帆 撮影:木村雅章 デザイン:田中貴美恵)