2020/8/12

【独占】トヨタの「現場」を、語り尽くそう

キアラシ ダナ
NewsPicks記者 (モビリティ・国際担当)
事件はいつだって、現場で起きる。
業績が好調な時も、赤字に落ち込んだ時も、最初に変化に気がつくのは、現場で働く工員たちだ。
特にトヨタ自動車の直近10年は、事件の連続だった。リーマンショックで4610億円の営業赤字に陥り、利益体質の強化に努めてきた。
その結果、コロナ禍の今期(2021年3月期)は、5000億円の営業黒字を見込んでいる。
この10年で何が変わったのか。NewsPicksは、現場を束ねるトヨタの「おやじ」を直撃した。
生産部門のトップを務める執行役員の河合満は、中学校を卒業してから55年、トヨタの現場に人生をささげてきた男だ。2015年には技能系として初めて専務に就任し、17年には副社長にまで上り詰めた。
現場を知り尽くした男が、トヨタの10年を語り尽くす。

トヨタの「おやじ」の告白

──河合さんは中学を卒業してから55年、ずっと生産現場で働かれてきました。トヨタの生き字引のような存在ですね。
河合 そうそう、ずっと生産に携わっている現場のおやじです。名刺にも「おやじ」って書いてあるしね(笑)。
72歳になった今でも現場に居続けるのは、やっぱり(豊田章男)社長がいるからですよ。社長がいなきゃ、やってない。
実は12年前に60歳で定年を迎えた時、辞めるつもりだったんです。
ちょうどトヨタが販売台数で世界一になってね、ついに悠々自適な生活だと喜んでいたら、内山田さん(現会長)から、理事として残ってくれって。
仕方なしに残ったら、リーマンショックに品質問題、東日本大震災にタイの洪水まで、次々に問題が起こった。
会社が大変な時に辞めるのはどうにも逃げのような気がして、ズルズルと働いていたら、3~4年経ったある時に、社長が専務になってくれって。
トヨタの豊田章男社長
俺、中卒ですよ。中卒がトヨタの専務だなんて、そんなのあり得ないじゃないですか。「無理です、無理です」って30分も粘ったんですけどね、社長が「断ったらあかん」って。
あの社長はいつも、俺の痛いところついてくるんですよ。
──痛いところ、ですか。
専務という肩書は重いかもしれないけども、生産現場の後輩たちのためにそれを背負ってくれって。
俺はみんなに世話になって働けてきたわけだから、そんな事言われるともう断れないよね。
それで引き受けたら、数年経って次は副社長になってくれと。
副社長…あり得んって!もう一度言うけども、中卒がトヨタ自動車の副社長ですよ。あり得ないでしょう(笑)。
しかもね、友達の中にはもうデイサービスに通っている人もいるわけで、俺だって今のうちに遊んでおかないと、いつどうなるかわからんわけですよ。
でも社長は、「河合さんは、慌てなくても大丈夫でしょう」って言ってね。
そこに根拠はないと思うんだけども、でも社長は本当にみんなのことを思って働いているから、それを見ると自分も頑張れるというか。
やれることは少しでもやってあげようかなという気持ちにさせられるんです。