2020/8/7

【解説】意外と知らない「穀物の価格」が決まる仕組み

NewsPicks編集部
NewsPicks編集部
「新型コロナウイルスの感染拡大によって、食料危機を招き得る」
そうした懸念が、声高に叫ばれている。政府も7月に閣議決定した「骨太の方針」で、「総合的な食料安全保障の確立」を掲げ、危機意識をあらわにした。
確かに、日本はとうもろこし、大豆、小麦といった多くの主要な穀物を、80〜100%輸入しており、コロナ禍で世界情勢が目まぐるしく変わる中、不安が高まるのは無理からぬことだ。
しかし、食料安全保障の中心である穀物の価格は、単純な需給だけでは決まらない複雑な構造の上に成り立っている。
原油価格との関係や、米中地政学リスクなど、食料調達を正しく読み解くには、知っておくべき要素がたくさんある。
【図解】コロナで問い直される「食料安全保障」の本質
穀物相場の高騰や下落は、どんな要素に左右されるのか。コロナで食料の価格は高騰するのか。
商品先物市場に関する著書を出版し、経済産業省・産業構造審議会商品先物取引分科会委員を務めたファイナンシャルプランナーの三次理加氏が、穀物市場の読み解き方を品目別に解説する。
ファイナンシャル・プランナー。CFP(R)認定者。大学卒業後、商品先物老舗のカネツ商事に入社。同社退職後は、FPとして独立し、執筆、講演を中心に活動。2012年に経済産業省・産業構造審議会商品先物取引分科会委員を務めた。2020年1月に『お米の先物市場活用法』(時事通信出版局)を出版。

「先物市場」って何だっけ?

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、食料危機のリスクが高まっている──。そういった報道が、いくつかのメディアでなされています。
こうした危機意識は、妥当なのでしょうか。今回は、世界のとうもろこし、大豆、小麦の市場動向から「危機」の度合いを読み解いていきます。
特に日本は、とうもろこしをほぼ100%、大豆は90%以上、小麦は85%を輸入していますから、世界の市場価格の動向に影響を受けやすいといえます。
本題に入る前に、そもそも、とうもろこし、大豆、小麦がどのような市場で取引されているのか、説明します。
とうもろこし、大豆、小麦などの穀物の多くは、「商品先物市場」という市場で取引されています。
(写真:feellife/iStock)
商品先物市場では、将来の一定の期日に商品を受け渡しすることを約束して、その価格を現時点で決める取引がなされます。
また、約束の期日になる前に、いつでも反対売買(買い手は転売、売り手は買い戻し)をすることによって、取引を終了することができます。そのため、生産者や商社、食品メーカーだけでなく、資産運用を目的とする投資家も取引に参加しています。
まだ商品がない状態で取引が行われますから、取引に参加する人の信用や、商品の品質担保がシビアに求められることも先物市場の特徴です。
なぜ、将来受け渡されるものの売買を、あえて事前に行うのでしょうか。
さまざまな理由がありますが、一つには穀物の価格変動の大きさがあります。