組織のあり方が大きく変わり、オンラインでの業務も増えるなか、一つひとつのコミュニーケーションの質が問われている。とりわけリーダーに求められるのは、未来を創造し導くための「語るスキル」だろう。

本連載では伊藤羊一氏・澤円氏による書籍『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』から全4回にわたってエッセンスを紹介する。周りを巻き込みながら自分なりの変化やシフトを生み出すヒントとは。

エピソード+問題提起+結論

では、プレゼンを設計していくときのコツを、ポイントを絞って紹介していきま す。
みなさんもプレゼンに臨むときは大まかな構成を考えると思いますが、僕の場合は、 プレゼンの尺が 分~ 分くらいの時間であれば、大きく3つにわけて設計していま す。
【序盤】エピソード
【中盤】問題提起
【終盤】結論+クロージング

【序盤】エピソードで引きつける

まず、プレゼンは相手に話を聞いてもらうことが必要です。いきなり結論を持ち出したり、問題を提起したりしても、聞き手はまったくついてきません。
はじめからテーマが絞られているパネルディスカッションなどでは、結論や問題提起から入るほうが論点や意見を絞れるのでいいのですが、不特定多数に向けて話しかけるプレゼンはまったく別。まずは、聞き手の注意を引きつけていきましょう。
そして、このときの材料になるのが、先にも書いた「エピソード」です。僕の場合は、聞き手が「へえ〜」と驚くものや、「あるある!」といってうなずくようなエピソードを最初からどんどん出していきます。
たとえば、いま中国・北京エリアのコンビニエンスストアの支払いは、9割がキャッシュレスになっていると聞いたら、ちょっと驚きませんか?そして、なんと屋台にもQRコードが貼られていてキャッシュレスです。そう補足したら、「へぇ〜」ですよね。
さらに中国が凄いのは、結婚式のご祝儀も、お香典もキャッシュレス。極めつけは、路上生活者の人に施しをするのもキャッシュレスです。QRコードを持って、道端に座っているわけですね。
ここまで話せば、「へぇ〜」の連続です。このように、聞き手をエピソードで引きつけながら、同時にその理由や意味も含めて「言語化」してあげることが大切です。
僕はこのエピソードを、オンラインで買い物をすることの本質的な意味を説明するときに、ひとつの例として使いました。オンラインでは「モノ」を買っているのではなく、「コンテンツ」を買っている。そんなことを理解しやすくするとっかかりとして、プレゼンの序盤に伝えました。

【中盤】厳しいファクトで「気づき」を与える

エピソードの次は問題提起です。聞き手が「へえ~」「なるほど」「そうだよね」となっているところに、少しショッキングなファクトを突きつけていきます。
つまり、最初に「へぇ〜」があって、「じゃあ僕たちはどうすればいいですかね?」と問題提起をしたあとに厳しいファクトを突きつけ、「みなさんのその解決策、ちょっと甘いかもしれないですよ」と落とすのです。これによって、さらに話を聞く集中度を高めていきます。
ここでの具体的なファクトも様々ですが、たとえばこんな感じです。
いまの時代は、先の中国の例のみならず、日本でも多くの人がオンラインでコンテンツを買っています。しかも、その際に必ず評価サイトを確認し、たとえ目の前に店舗があっても、その店舗の前でスマホで口コミ情報をチェックすることさえある。
このことから、これだけ多くの人がデータを信用するようになっているのに、いまだに仕事で使うツールとしてデータの一切残らない電話は選択肢にないですよね?と持っていくことができます。
つまり、このときの「厳しいファクト」というのは、仕事で使う「電話」のこと。仕事で電話を多用する会社や人はかなり多いので、聞く人にとってショッキングな気づきとなりそうです。
実際のところ、仕事をするうえで最悪のツールが電話です。なぜなら、電話のベルというのは、まさに集中力を切れさせて注意を向けさせるために鳴るものだからです。
そして、電話のベルが聞こえている人全員が、その瞬間に集中力を目減りさせていて、切れた集中力は最低15分も戻らないといわれています。つまり、電話をかけることで、複数の相手の貴重な時間と生産性を奪っているわけです。
こんなファクトを紹介すると、聞き手に大きな「気づき」を与えることができます。すでに問題提起を済ませているので、「だったらほかにどんないい方法があるのだろう?」と、「自分ごと」として考えさせる効果が生まれるのです。

【終盤】結論+クロージング

ここまで話したうえで、「結論」を伝えます。終盤になってようやく、そのプレゼンでアピールしたい製品やサービスなどを伝えるわけです。
たとえば、「いまの時代は、リアルタイムでコミュニケーションできて、かつデータも残るチャットツールが最適なんですよ」と伝えると、聞き手は深い納得感を持って受け取ることができます。
つまり、聞き手はこの時点で、プレゼンのテーマがしっかりと「自分ごと」化されていて、それに対する解決策も理解していて、まわりの人に「ねえ、これ知ってる?」と話しやすいお土産(エピソード)も手にしている状態になりました。
ここまでしてあげて、ようやく聞き手は「動く」ことができるようになります。プレゼンによって、なんらかのアクションを起こしやすい状態にしてあげることが大切なのです。
ちなみに僕は、クロージングで「一緒によりよい未来をつくりましょう」と、未来への希望に満ちた話をすることにしています。
なぜなら、やっぱり「ご静聴ありがとうございました」ではインパクトを与えることもできなければ、記憶に残ることもないと思うからです。プレゼンは「プレゼント」なのですから、記憶に残る、ポジティブかつ印象的な話で締めてみましょう。

自分が驚かなければ人も驚かない

では、そんな「へえ〜」「あるある!」エピソードは、どのように集めていけばいいのでしょうか。
僕の場合であれば、「常にアンテナを立てている」ようにしています。
そして、そのエピソードに自分が「へえ~」と驚いたり、「これネタに使えるな」と感じたりできるかどうかがもっとも重要になる。
なぜなら、そうすると自信を持ってほかの人にすすめられるからです。自分がそのエピソードに対して、「へえ〜」と思っていないのに、相手を驚かすことは不可能です。
たとえばこんなことがありました。プレゼンの仕事があり新幹線に乗ったところ、知人でアメリカの最先端企業のPRの仕事をしていた人とばったり会いました。そして、行き道でその企業でのビジネスマネジメントについての話をたくさんしてくれたのです。
すると、僕はその移動中に聞いた話題を、もうそのまま目的地ですぐプレゼンに使うことにしました。「行き道で聞いたのですが、この話が最高に面白かったんですよ!」といって、エピソードとして紹介したのです。
ちなみに、このときの話のなかのひとつに、その企業のCEOは「とりあえずやってみよう」というのは許さない、というエピソードがありました。
そのCEOいわく、「とりあえず」というのは、一見正しいように見える。でも、最終的な判断を下すためにはこういうらしいのです。「Is this a winnable game?」
それは勝てるゲームなのか?勝つイメージがあるのか?という考えです。
「とりあえずやる」のはときに大事なことですが、やみくもにやっても意味がない。とりあえずやってみたなら、そこになにが見えているのかをすぐに言語化して、先に進まなければならないということです。なぜなら、言語化をしなければ誰も一緒に動いてはくれないから。
とりあえずやってみて、未来が見えたら(言語化できたら)、そこではじめてほかの人を巻き込める状態になるということなのです。
すると、こんな話を「働き方」や「時間効率化」といったテーマのプレゼンにすぐ取り入れることができます。たとえば、「恐怖の言葉は『とりあえず』ですよ!」というように、プレゼンに挿入する「お土産」エピソードとして使うわけです。
なぜなら、まさに日本人ビジネスパーソンの悪い癖のひとつが、「とりあえず集まろう」「とりあえず打ち合わせしよう」ということだからです。まさに、「あるある!」エピソードではありませんか。
でも、そんな「とりあえず」の打ち合わせが効果的な行動につながることは稀です。集まってなんとなく話をするものの、「とりあえず」集まっただけに、実際に「誰がなにをどうする」といったことが決まらないことが多く、ひたすら話だけをして終わる傾向があります。
また、「とりあえず人を呼ぶ」ことも横行していますよね。話すかどうかわからないけれど、とりあえず呼んでおこうとなって、会議の人数がやたらと増えるのもよくある話です。
常にアンテナを立てていると、そんな悪い例もセットにしながら、得た情報をすぐに使うことができます。

情報は熱いうちに出せ

このように、なにかアンテナに引っかかる情報を得たときは、すぐに発信してしまうことをおすすめします。これはプレゼンに限らず、SNSやブログなどなんでも構いません。とにかく、さっさと発信してしまいましょう。
すると、それに対するフィードバックが返ってくるので、その話題についてさらに詳しい人がもっと教えてくれるのです。僕の場合は、SNSなどで発信すると必ず複数人からコメントが返ってきますから、情報がもっと豊かになり、深くなることにつながっています。
僕はよく、取材などで「情報収集法」について聞かれるのですが、僕はいつもこのように答えています。
情報収集=情報発信
自分のアンテナに引っかかった情報をすぐに発信することで、さらに詳しい情報を教えてもらい、それを自分で料理して、場合によってはさらに発信していく。つまり、情報発信が同時に情報収集になっているということです。
また、情報を発信するためには、アンテナに引っかかった情報を言語化しなければなりません。すると、情報発信が自分の「メモ」にもなります。
そうした作業を、僕は大急ぎでやることにしています。
もちろん、そうした情報をデジタルツールにメモしたり、タグをつけて整理できたりすればもっといいのかもしれませんが、僕はそんな作業が実はけっこう苦手なのです...。そこで、情報はなるべくすぐにフェイスブックやツイッターで発信します。また、そんな情報をまとめて、ボイスメディアの「Voicy」で音声発信することもずっと続けています。
情報をストックして、いつでも使えるようにしておくという考え方もアリだと思いますが、1回使ったネタは覚えている人は覚えていると考えています。だからこそ、情報をアップデートしていくために、どんどん発信してフィードバックをもらっています。
いずれにせよ、情報というのは自分で言語化してはじめてほかの人にも伝えることができます。そしてフィードバックを得て、その情報を自分なりにさらに磨いていく。とにかくそのネタが面白かったら、新鮮なうちにパッと外へ出すことが大切だと思います。
※本連載は今回が最終回です
(バナーデザイン:國弘朋佳)
本記事は書籍『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(伊藤洋一・澤円〔著〕、プレジデント社)の転載である