2020/8/1

【入門】一流が教える、バイオテクノロジーの「3大トレンド」

後藤 直義
NewsPicks 副編集長(サンフランシスコ支局長)
文系のビジネスパーソンにとって、生物という言葉を聞くだけで、ちょっと身構えてしまう人は多いだろう。
実際に生物やバイオテクノロジーの世界は、Ph.Dをもつ専門性の高い人材がたくさん活躍しており、おいそれと入り込めないような雰囲気もある。
しかし、そこで広がっている世界の奥深さ、面白さは格別だ。
そこでNewsPicks編集部は、バイオテクノロジーやバイオエンジニアリングの世界の最先端で活躍する、投資家からサイエンティスト、編集者たちを取材。
その面白さのエッセンスに加えて、彼らが注目しているトレンドを、それぞれの分野から誰にでもわかりやすく語ってもらった。

「生物ネイティブ」の時代

生物とは、それ自体が生き物です。だからコンピュータ・サイエンスとも、半導体チップとも、根本的に違うものを扱います。
なんといってもそれ自体が動き回るわけですからね。しかも、自ら増殖する。こんなことはiPhoneでは、起こらないでしょう(笑)。
2000年代、ぼくはMIT(マサチューセッツ工科大学)で、生物学をエンジニアリングする、新しい学部の創設を求めました。
当時、アメリカの工学系のトップスクールであるMITにも、スタンフォード大学にも、カルフォルニア大学バークレー校にも、バイオエンジニアリングを学べる学部というのは「ゼロ」だったのです。
そこから(合成生物のオリンピックである)iGEMを始めました。
ここはバイオエンジニアリングを学べる、教育とリサーチの交差点であり、また未来との出会いの場所だったのです。若い学生というのは、未来そのものです。
そんな彼らは生物の遺伝子コードをいじりながら、実際の病気を治したり、環境問題を解決しようと思ったのです。
いまでは時価総額で4000億円を超える企業となったギンコ・バイオワークスの創業者たちも、もともとは私の研究室で、バナナの香りがする大腸菌を作っていたのが原点でした。
すでにiGEMに参加した学生たちが巣立って、これまで157社のスタートアップが生まれました。年平均で10社ほどの計算になります。そして1500人の雇用を生み出しました。
武田薬品工業が300億円で買収した、PVPバイオロジクスも、このiGEMから生まれたスタートアップです。彼らのチームを見たらわかりますが、まるでソフトウェア企業のようです。
21世紀のバイオテクノロジーがどのようになるか、想像すらできません。
私には7歳と4歳の子どもがいます。彼らは、もし新型コロナに感染したら、PCR検査ではなくて、鼻くそが紫色になることで判断するといった世界に向かっているのです。もしくは、感染したらパプリカの匂いを感じるようになるのはどうでしょう。
子どもたちの時代にとって、バイオテクノロジーはパーソナルヘルスケアであり、薬剤であり、スキンケアであり、ファッションであり、それはまだ存在しない市場なのです。

科学者との電話が「投資ネタ」