2020/8/1

【豊田章男】一代一業。クルマの次は、街をつくる

池田 光史
NewsPicks 編集長
2020年1月。トヨタ自動車の豊田章男社長が、静岡にコネクテッド・シティをつくるという構想を披露し、世界を熱狂させたことは記憶に新しい。
Woven City(ウーブン・シティ)。
まるで道を編み込んでいくような街をつくるという意味が込められた、この未来都市のデザインは、デンマーク出身の著名建築家で、Googleの新本社屋などのプロジェクトを手掛けたビャルケ・インゲルス氏が担当する。
それから約半年。
2021年初の着工を目指し、2020年末に閉鎖予定のトヨタ東富士工場(静岡県裾野市)の跡地を利用して、東京ドーム約15個分(約70.8万m2)の範囲において街づくりを本格化すべく、遂にトヨタが動き出した。
2018年3月に設立された、トヨタの自動運転車を実装するための組織「TRI-AD」を大きく事業再編。これからは、このTRI-ADが社名を変え、自動運転だけではなく、未来都市までを実装する役目を担ってゆく。
その名も、Woven Planet Holdings(ウーブン・プラネット・ホールディングス)。しかもここに、豊田が資本家として、個人資金をも投じるというのである。
果たしてこれは、かつて織物を織る「織機」をつくっていたトヨタグループが、豊田社長の祖父・喜一郎時代に「自動車部」を設立したときのように、トヨタ自身の“モデルチェンジ”を目指そうということなのか──。
大役を担うのは、TRI-ADの代表で、このたびウーブン・プラネットの代表にも就任する、ジェームス・カフナー。元Googleのロボティクス部門トップを務めた人物だ。
そしてもう一人は、むろん豊田章男その人である。
NewsPicks編集部は、豊田社長へのインタビューに成功した。限られたメディアだけが機会を得た貴重な場で、彼が語った構想の全てを、1万字にわたるロングインタビューとしてお届けする。
トヨタの「モデルチェンジ」
──今回のTRI-ADの事業再編は、トヨタにとって“モデルチェンジ”とも呼べるものです。トヨタが近年掲げるソフトウェアファーストとは何なのか。これまでと何が変わるのですか。
トヨタには80数年の歴史があります。その歴史の長さを鑑みれば、今回のウーブン・プラネットという会社が、トヨタグループ全体のモデルチェンジになるかというと、その時期はまだまだ先になるでしょう。
それはまさしく、豊田自動織機という会社の中に自動車部が生まれ、その自動車部がトヨタ自動車に発展をしてきた──そんなファーストステップが今、新たに始まったというフェーズです。
こういう新しいことをやろうとすると、過去・現在を担っている人たちの否定になりがちです。
しかし、これは決して否定ではない。未来をつくるグループを、少しだけウーブン・プラネットにシフトした、というふうに捉えてほしい。
トヨタがモビリティ・カンパニーに生まれ変わったとしても、トヨタ自動車という車をつくっているリアルな会社、あるいはそれらのリアルなオペレーションを、ウーブン・プラネットという会社が全て上書きすることになるかというと、分からないし、それは私の代でやることではない。
それに、「トヨタ全体を変える」と言ってしまうと、種まきの段階で抵抗に遭って、潰されてしまうでしょう。
しかし、トヨタに過去・現在の努力の賜物たる資産、強みがあるときにこそ、未来に投資をしていきたい。
ですから、未来に向けた部隊は、過去・現在に引きずられないためにも、こうやってセパレート(分離)して、純粋に未来をつくることに集中する環境をつくったわけです。
トヨタの未来都市Woven City(写真:トヨタ自動車提供)
過去・現在を担うチームは、トヨタの社長として率います。そして、このウーブン・プラネットには、豊田章男が個人の資本家として参加することによって、過去・現在と積み重ねてきたトヨタの価値を未来へ橋渡ししたい。
それが私の、個人としての役割なんじゃないのかな、とも思っています。
──なぜ、今だったのでしょうか。
モビリティ・カンパニーになろうよ、ということを、2年前の米家電見本市(CES2018)で宣言しました(2018年1月)。
私はトヨタを、クルマ会社を超え、人々の様々な移動を助ける会社、モビリティ・カンパニーへと変革することを決意しました。
と同時に、例えば自動車会社は、自動運転をどうやって実現していくか。そういった取り組みを始めてゆく中で、TRI-ADという会社は2018年3月に生まれました。
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本来なら、東京オリンピック2020を一つの納期に、開発を進めてきたわけです。今頃開催されていたはずですよね。
ところが、自動運転の技術を磨けば磨くほど分かってきたのは、車会社だけが自動で動く車をつくったところで、本当に安全な世の中は、実現できないということでした。
インフラや、それをつくる人、あるいは社会のルール。そういうものが相まって、初めてできるんだろうなと。
それに、車は、例えば家やオフィスなどとコネクトしていかなければならない。だからこそトヨタは、多くのテクノロジーカンパニーからも、一緒に取り組もうとお声がけを得られました。
これから先、自動車は誰もが使っているiPhoneのように、ソフトウェアでアップデートしていく世界になる。そうしたとき、トヨタの自動車というのは、ハード面でのdurability(耐久性)、parts availability(部品調達のしやすさ)、repairability(修理のしやすさ)、この3点でものすごく評価をされている。
そういう世界に入っていく流れの中で、TRI-ADという会社は先駆者として歩んできたし、その役割が、ここにきて急に大きくなってきたということだと思います。
テスラとどう戦うか?
ハードウェアに長けたトヨタが、ソフトウェアファーストにカルチャーを変えていく。その世界において最先端を走るのは、今や米テスラだろう。トヨタの時価総額を一時超えたことが話題になったばかりだ。
そのテスラにかつて出資して、電気自動車(EV)に否定的だったトヨタ技術部にテスラとEVをつくるよう仕向けた人物こそ、豊田社長その人だった。
(写真:Justin Sullivan/Getty Images)
しかしその後、イーロン・マスクとの“離婚”を決意したのも豊田自身だ。今、大躍進するテスラを、どのような心境で眺めているのか。
質問をぶつけると、豊田社長は、テスラやイーロン・マスクへの言及を避けながらも、離婚に至った真意を語り始めた。
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──クルマをスマホのようにソフトウェアアップデートするという概念を、世界に知らしめたのは、かつての出資先だった米テスラでした。そのテスラの躍進について、どんな危機意識をお持ちですか。