2020/8/1

【海堂尊】物語があれば、世界は「他人事」ではなくなる

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このたび「世界初の新型コロナウイルス小説」として、新刊『コロナ黙示録』(宝島社)を上梓した作家・医学博士の海堂尊氏。
インタビュー第2話では、なぜ今の時代にこそ「物語」が必要なのかを考察する。
【新】私が「世界初の新型コロナウイルス小説」を書いた理由

ネガティブな反響も覚悟の上

──『コロナ黙示録』(宝島社)は、海堂作品の舞台としておなじみの架空都市「桜宮市」と、新型コロナをめぐって今の日本が直面している「現実的な混乱」を同期させている点が画期的です。一方で、読者からは「フィクションの部分だけを楽しみたい」といった反応もあったのではないでしょうか?
海堂 その点についてはある程度、覚悟はしていたので、まあ予想どおりといった感じです。
ただ、(政府批判などの部分について)いわゆるネトウヨの人々から批判されるのは予想していたのですが、「桜宮市民」と言われる私のファンからも批判が来たのは、「市長」としては、いささかショックでした。
「市民」に喜んでもらえるような、おなじみの人物たちが活躍するシーンもきちんと盛り込んだのですが、市民は「そこだけ」読みたいらしい。
私はTwitterでエゴサーチをしているのですが、熱烈なファンが早々に「こういうことはブログで書け」みたいなコメントを残しているんですよ(苦笑)。
実際のところ、『コロナ黙示録』の中の「事実」と「フィクション」の比率で言うと、「事実」のパートは記述量では3割ぐらいです。
ところが、その部分があまりにもくっきりしているというか、みんながモヤモヤしてよくわかっていなかったものに対して、あるスタンスの見方を提示したものだから、それに戸惑った人が多かったのかもしれません。
知り合いに配って感想を聞いても、一様に「こんなに(政府を)悪く書いて大丈夫なんですか?」という感想が返ってくるのが面白かったですね。
確かに、所々で「民主主義としてとんでもない」といった、ごく当たり前の批判は入れているのだけど、あとは本当に事実をつなげただけ。むしろ、こうした反応の過敏さに危うさを覚えます
(Tomohiro Ohsumi/Getty Images)

「怒り」が執筆の原動力

──批判が来るのを覚悟の上で、今回『コロナ黙示録』の執筆に踏み切ったモチベーションはどこにあったのでしょうか?