ビジネスも文化も「想い」をつなげることから始まる

2020/8/3
NewsPicksアカデミアは、京都発の文化・アートの新サービス「THE KYOTO」と連携し、「THE KYOTO ACADEMIA」という新プロジェクトを始動。記事、イベントなどを通し、「with/ポストコロナ時代」を⾒据えた「豊かさの再定義」を進めていく予定だ。

今回は、書家であり、プレゼンテーションクリエイターの前田鎌利氏と同じく書家の川尾朋子氏、そして、壬生寺副住職の松浦俊昭氏、NewsPicksの佐々木紀彦氏を交え、「これからの時代の心のキーワード」について語り合った。(全3回、聞き手:THE KYOTO 編集長・各務亮)
「ありがとう」を手書きにするだけで、言葉の存在感は変わる
【前田鎌利】自己を内観して「前後裁断」で今を生きる
「人」と「ストーリー」をつなぐ
ーー日本では、かねてより地方創生が叫ばれていますが、プレゼンテーションの専門のお立場から、地域の魅力や文化を発信していく際に重要になることを教えてください。
前田 そうですね。文化を発信する活動や情報発信する媒体はさまざま数多くありますが、残念ながらその抽出方法自体は観光やグルメなどどこも似たような感じですよね。
もちろんそれは重要なことですが、もっと大事なことは地域の方々一人一人の持ち味であり、発信者はそこにいかに寄り添っているかだと思います。
例えば、外国人は面白い寿司屋の大将に会いたい一心でその場を訪れたりします。
前田鎌利(まえだ・かまり)/書家、プレゼンテーションクリエイター
私が海外を訪ねたときも、書を初めて体験した感動から、私が住む日本への関心を強めてくれたりします。
つまり人を中心に据えたストーリーづくりが大切で、結局、人はみんな、日常では得がたい人間同士の触れ合いを求めているのです。
地域振興の当事者であれば、その地域の思いをみんなが共有できるように力を注ぐことが必須ですね。そうでないと外部へは絶対伝わりません。
企業活動でも同じです。私の場合、ソフトバンクの創業者・孫正義さんの理念をどう従業員に落とし込んで共通認識とするかに腐心しました。
それが先ほどの「念い」にも通じています。
地域にしても企業にしても100人くらいであれば一体感を生みやすいですし、結果そういうところはどこも魅力的ですが、規模が大きくなると理念が薄れがちになります。
それをつなぎとめるのは、人と人とのつながりしかありません。
だからこそ、伝えたい相手との接点をどれだけ持てるかというのを僕はすごくこだわっています。
松浦 何かを伝えるということは、パソコンやネットなどツールの問題ではなく、全て人の「おもい」が関わることなんでしょうね。
「山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁」。
私の好きな言葉の一つですが、その意は「国は違っても、風や月は同じ天の上にある。仏縁のある人たちが互いに寄り添い、共に来るべき縁を持ちましょう」です。
日本側から中国への高僧招請の言といわれますが、鑑真和上は、日本に渡る決意のほどをこの言葉で、周囲に示されたのです。
松浦俊昭(まつうら・しゅんしょう)/壬生寺副住職
渡来後、日本の仏教は鑑真和上によって再興され、唐招提寺において彼の下で学んだ最澄は比叡山で天台宗の開祖となりました。
比叡山はその後、法然、親鸞などを輩出、教義を究めた先達とのつながりが脈々と引き継がれています。
いまわれわれがすべきは、人と人をつなげていくことです。そうすれば物事の本質が消え去ることはないでしょう。
文化は「伝わる、広がる」
川尾 物事の本質-ー。私が京都に来て思うのは、一目ではわからない部分にこそすごく手が入れられていることですね。
しかもあえてそれを感じさせないように気遣っている。床の間の掛け軸一つとっても、目立たないところに職人さんの技術が幾重も施されていることに驚きます。
そういうところを、もっと掘り下げて伝えて、広げていきたいですね。
松浦 そうですね。私は、「文化は伝えるものではなく、広がるもの、伝わるもの」と考えています。
そこには、やはり人と人とのつながりがあります。そのためには、地域のしきたりも大切にしたいものです。
いまの子どもたちは、節分を「おすしを食べる日」と思っています。豆をまいたり、ヒイラギを飾ったり、イワシを食することも少なくなりました。
「伝統や文化は残していくべき」とよく言われますが、なぜ残していくべきか。それを語り、体現しないと意味はありません。
その伝統や文化の具体の事象一つ一つが、人とのつながりを生みだす装置として機能し、本来人が持ち合わせていた優しさも取り戻すことにつながる。
だからこそ後世に残していく必要があるんだと。
いまは便利な世の中で、スマートフォン一つで何でもできてしまう時代ですが、特に近代になってから失われたもの、残さないといけないのはやはり人との結び付きですね。
豊かさを醸成する「人と人のつながり」
佐々木 これからの社会は一極集中ではうまくいかないことははっきりしています。
故・堺屋太一さんは、「戦後の日本はメディアが全部東京に行ってしまった結果、経済だけでなく情報も一極集中してしまい、全国各地域が育んだ文化力が東京にうまく伝播していない」とおっしゃっていました。
各地域が相互に結び付き、そこに新しい人間関係、新たなコミュニティーをつくっていく、そんな取り組みが求められているように感じました。
本日こうやってお会いしてお話しているように、まずは、東京と京都のつながりがもっと深まれば面白いですね。
前田 そう思います。
松浦さんが「お坊さんは特別じゃないよ」というのと同じで、僕も一億全員書家だと思っていますから、あくまで自己の研鑽・表現のツールとして、書にしても宗教にしても、ビジネスにしても捉え、いかに個々が「おもい」をもって他者とつながっていくかーー。
それがやはり大切だとあらためて感じましたね。
川尾 そうですね。やっぱり今日そっちに行きたかったです(笑)。
実際会わないと、感じられないこととか、たくさんあるんだなと。今日あらためて思いました。
ーーありがとうございました。「人と人のつながり」にこそ、豊かさはある。そのためには個々がしっかりとした軸を生むことが必要だと。
これからの生き方のあるべき指針をご教示いただいたような気がしています。もちろんリモートでもいいですが、やはりまたぜひリアルでつながりを深めていきたいですね。
*全3話終了
(構成:佐藤寛之、写真:伊藤信)
NewsPicksアカデミアでは、THE KYOTOとコラボレーションして配信したウェビナーを公開しております。詳しくは以下の記事をご覧ください。
京都に学ぶ、withコロナ時代の文化共創
京文化で磨く「感性」と「共感力」