2020/7/31

【深層】韓国への輸出を止めると、実は「日本」もヤバい

平岡 乾
NewsPicks 記者
「日韓輸出管理問題」の勃発から、はや1年が経つ。
2019年7月4日、日本政府は半導体や有機ELの製造に使う化学品「3品目」を対象に韓国への輸出管理を強化。さらに政府は8月、韓国を輸出上手続きで優遇する「ホワイト国(グループA)」から除外した。
これに対し、韓国政府も日本をホワイト国から除外。さらに、韓国政府はWTO(世界貿易機関)に提訴した。今年7月29日には提訴が通り、WTOの下で日韓輸出管理問題の紛争処理を進めることも決まった。
韓国がここまで日本に反発するのは、明確な理由がある。輸出管理が強化された3品目を、日本からの輸入に依存しているからだ。
3品目が日本から調達できなければ、サムスングループなどの世界的なメーカーでさえも、半導体や有機ELディスプレイを生産できなくなってしまう。
そこで韓国は、WTOへの提訴と同時に、国家総力を挙げて3品目の国産化を目指す“脱日本”プロジェクトも始めている。
では、韓国は国産化に成功したのか。輸出管理問題から1年経って、何が変わったのか。
製造業における日韓関係の今を、NewsPicksがレポートする。
日本が牛耳る「黒子3品目」
まず、輸出管理対象となった3品目について、詳しく把握しておこう。管理対象となった3品目は、「フッ化ポリイミド」「フッ化水素」「フォトレジスト」という化学品だ。
フッ化ポリイミドは有機EL(OLED)ディスプレイ用パネルに使う、透明性や耐熱性、絶縁性に優れる材料だ。製造企業としては住友化学などが知られる。
折り畳み有機ELディスプレイに必要とされる、フッ素の含有率が高いフッ化ポリイミドが輸出管理の対象だ。
フッ化水素とフォトレジストは半導体の製造過程で使われるもので、製造途中で除去されるため完成品には残らない、まさに黒子役の化学品だ。
フッ化水素は、半導体製造時に洗浄する工程で使われる。先端の半導体製造には、「12N(トゥエルブナイン)」と呼ばれる超高純度の製品が使われており、これを実現できるのは、日本のステラケミファと森田化学工業くらいだとされる。
一方、フォトレジストは、2020年内に発売が見込まれるiPhone最新機種に使われるような、「EUV露光」という最先端方式に使用されるものが管理対象だ。
もともとフォトレジストは日本のお家芸で、特に先端分野のEUVフォトレジストにおいては、日本のJSR、信越化学工業、東京応化工業の3社で世界シェアをほぼ独占している。
では、なぜこの3品目が輸出管理強化の対象になったのか。
その背景には、「軍事利用への懸念がある」と、輸出入の管理を所管する経済産業省は主張する。
まずフッ化ポリイミドは、その耐熱性や絶縁性といった優れた特性から、戦車や戦闘機の表示モニターなどにも使われる可能性があるという。
フッ化水素は核兵器に転用できるウラン濃縮や、化学兵器であるサリンの製造に関わる。
最先端分野のフォトレジストで製造される高性能の半導体は、スマホなど民生品だけではなく、ドローンを含めた無人戦闘機などにも使われる可能性がある。
輸出した化学品が、どのメーカーに渡ってどう使われたかを把握しておかなければ、「第三国」に渡って軍事利用されかねない。
とりわけ、米中対立が激化する中では、中国を含む第三国に再輸出されていないか確認するためにも、管理を強化したという側面もある。
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輸出は減るどころか「増えた」
ただし、あくまでもこれらの3品目は「管理」の対象であり、韓国への輸出に「規制」がかかったわけではない。
日本企業が3品目のいずれかを韓国に輸出する際は、政府(経済産業省)からの審査や申請が必要になったが、輸出ができなくなったわけではないのだ。
逆に言えば、韓国は今でも3品目を日本から輸入し続けている。
日韓のエレクトロニクス産業に詳しいコリア・エレクトロニクス編集長のイ・ダリョン氏によると、「輸出管理強化が韓国企業の生産に影響したという例は、聞いたことがない」と話す。
ただ一方で、「万が一、日本企業からの供給を止められたら、韓国の基幹産業である半導体の生産ができなくなるという、大きなリスクがあることも認識された」(イ氏)のも事実だ。
そしてこうした危機感から、政府と企業が一体となって、素材の国産化を目指す“脱日本化”プロジェクトが始まった。韓国政府は3品目を含む産業を支援するため、2019年度の追加予算として約2兆ウォン(約1800億円)を設定した。
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しかし実態は、脱日本はそれほど進んでいない。