2020/7/30

600万リットルが消毒ジェルに。仏ワイン「大量処分」の衝撃

The New York Times
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コロナ×トランプのWショック

タンクローリーが止まり、別れの時が来た。ワインを蒸留所に送ると決めたのは何週間も前だが、心は今も痛む。大切なワインは、間もなく消毒用ハンドジェルに変わるのだ。
「ワインを積み込むんだ」。38歳のワインメーカー、ジェローム・マデルは自分に言い聞かせるように、淡々とつぶやく。「もういい。忘れよう。これは終わったことだ」
うなだれ、物置小屋からずるずるホースを引いてくると、マデルはその口を運転手の助けを借りてタンクローリーのバルブにつなぎ、ひんやりとしたセラーに行ってポンプのスイッチを入れた。
アルザス産の上質な白ワインがホースを通り、タンクへと吸い込まれていく。その末路を想像するのは耐えがたい。
夏を迎え、深緑のブドウ畑が絨毯のように広がるここアルザスだけでなく、フランス全土のワイン産地で、有名無名を問わず数千のワイン生産者が悲嘆に暮れている。
年初に貿易摩擦の報復で米トランプ政権がフランスワインに25%の追加関税を課したのに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大による経済危機。ワイン市場は壊滅的な打撃を受けた。
質の高いリースリングとゲヴェルツトラミネールを大西洋両岸の高級レストランとワインショップに送り出してきたマデルの売り上げは、昨年12月以来、半減した。「コロナのせいで身の破滅です」と彼は言う。
ジェローム・マデルのワイナリーにやってきた、ワイン処理用のタンクローリー(Dmitry Kostyukov/The New York Times)

売れ残ったワインの「末路」

そして今、アルザス特有の岩石を多く含む土壌と太陽に育まれたジューシーでデリケートな白ワインは、消毒用ハンドジェルに生まれ変わろうとしている。