2020/7/29

【解説】やんちゃなZOZOが「大人の会社」になるまで

冨岡 久美子
NewsPicks 記者
それは、ZOZOが「大人になった」ことを意味するのかもしれない。
7月13日、アパレル大手のオンワードホールディングスが、ZOZOとの“関係修復”を発表した。
2018年末に退店を決めたZOZOTOWNへの再出店と、オーダーメードブランド「KASHIYAMA」で、ZOZOが展開する「マルチサイズ」を利用し、オンライン受注販売を開始する。
オンワードが退店したきっかけは、2018年末にスタートした常時割引サービスZOZOARIGATO。ブランド側の意向に沿わない値引きが行われることにオンワードが納得できず、袂を分かつことになった。
ZOZOに従うか、退店するか。
ZOZOはアパレルブランドに対して強気の姿勢を崩さなかったという。この時の舞台裏については、オンワードHDの保元道宣社長がインタビューで語っている。
【真相】オンワード×ZOZO「復縁」の舞台裏
しかし、それから1年半。ZOZOは大きな転機を迎えた。
2019年9月に創業者の前澤友作氏が退任。ヤフー(現、Zホールディングス)の連結子会社になった。
そして経営体制の変更とともに、アパレル企業に対するスタンスも軟化してきた。この1年でZOZOは大人になったのか。
本記事では、歴史を振り返りながらZOZOの現在地を整理しよう。

ファッション業界の「風雲児」

ZOZOがファッションECに参入したのは、2000年のこと。
それから20年かけて、「商品ラインアップが少ない」「試着ができない」「配達時間への懸念」という弱点を克服し、「服はネットで売れない」という常識を覆してきた。
ZOZOの初期の特徴は、服が好きな社員が「かっこいいUI・UX」のサイトを作っているところにあった。
2020年7月29日(写真:冨岡久美子)
当時のZOZOTOWNは1つの街を再現して作られており、オンライン上にセレクトショップが並ぶような設計だった。
便利だけども無機質なECサイトではなく、あくまでも「オシャレさ」を追求したことが、アパレルブランドが出店する決め手となったと言われている。
事実、ZOZOTOWNには、アマゾンや楽天に出店していなかった大手セレクトショップが参入していった。
きっかけとなったのは2005年に、ユナイテッドアローズの創業者・重松理氏に見いだされ、「ユナイテッドアローズ」が出店したことだといわれている。
重松氏は過去のインタビューで「ZOZOTOWNは洋服が本当に好きな人たちが情熱を持ってやっている」と語っている。
ユナイテッドアローズ創業者・重松理氏(写真:竹井俊晴)
それを契機に「BEAMS」や「SHIPS」などが次々に参入し、若者を中心に、ECで服を買う文化を日本で作り出してきた。
出店するブランドは、ZOZOTOWNの倉庫に商品を預け、売れればそこから出荷される仕組みだ。さらに、倉庫にはモデルが常駐し、オシャレに着こなした写真をサイトにアップしてくれる。
その対価として支払う手数料は30%程度だ。
アパレルは他の業界と比較して、デジタルシフトが遅かったといわれている。一方で、個別企業の規模は大きくないため、自前で投資するほどの余力がない企業も多い。
そんな中にあって、オンラインで洋服を販売してくれるZOZOの存在は、デジタル化の正解が見いだせないブランドにとって「ありがたい」存在だった。
2000年代から2010年代前半にかけて、両者はウィンウィンの関係だった。

「利益率」が伸びない理由

財務状況を見ると、ユナイテッドアローズが出店した2005年から売上高の成長が加速し、それから連続成長を続けていることがわかる。
しかし、純利益率に目を転じてみると、2013年あたりから20%強で停滞するようになった。
その理由は、セレクトショップなどの、おしゃれ好きな若者層を取り切ったことにあるとされる。1万円を超える高単価商品の販売に限界が見え、より低価格な商品を扱うようになった。
実際にZOZOのここ数年の平均出荷単価は右肩下がりを続けている。
もちろんZOZOは手数料ビジネスなので、単価が下がったからといって利益を生めなくなるわけではない。
しかし、出荷や採寸、撮影、配送といった基本作業にかかる費用は単価が下がっても変わらない。1000円の洋服も1万円の洋服も、倉庫内作業で生じる人件費は同じだ。
そのため、安いものを大量に売ると、売り上げは上がる一方で、利益率が下がってしまうのだ。
そのため、ZOZOTOWNに次ぐ成長ドライバーが必要だった。そして、第二の柱として期待されたのが、身体データを採寸するZOZOSUITを使ったプライベートブランドだった。
ZOZOSUITとPB参入が発表されたのが、2017年11月。PB参入が話題になっていた2017年の時価総額はピーク時には1兆円を超え、国内ベンチャー企業としては頭一つ抜き出た存在だった。
しかし、PBの発表を境にZOZOの評価は落ち込んでいく。

ものづくりへの「甘さ」が露呈

2017年11月にお披露目されたZOZOSUITには問題があった。生産コストが高すぎ、殺到する注文分を作ることができなかったのだ。
ZOZOは当初、1000万枚の無料配布を発表していた。
ところが、ZOZOSUITは生地の中にセンサーを埋め込んでおり、トランスミッターなどの電子機器も使われるため「1枚当たり250ドル」(関係者)は下らなかったという。
単純計算で1000万枚製造すると2500億円かかることになり、ZOZOの当時の営業利益の7倍に上る。
もちろんそれだけの投資を実行できるはずもなく、ZOZOSUITはより安価な「二代目」へと仕様変更を余儀なくされた。
二代目はスーツのドッド柄をスマートフォンで読み取るタイプで、安価なため大量生産が可能なモデルだった。
ただし、採寸には誤差が生じ、注文した洋服のサイズが合わないという声が大きく聞かれた。
無料配布されたドット柄のZOZOSUITは、いつしかハロウィンのコスプレに着用されたり、開封されぬまま使用されなかったり、当初の思惑通りにはいかなかった。
(写真:冨岡久美子)
「当時の会見で前澤さんは、1センチ単位のズレは問題ないと言っていた。その認識がマスカスタマイゼーションの洋服作りの甘さを表していた」(クレディ・スイス風早隆弘アナリスト)
PB事業への投資がかさみ、2019年3月期の純利益は20%減の159億円と1998年の設立以来、初の減益になった。
雲行きが怪しくなるとともに、時価総額も低迷し、2018年7月に1.5兆円を超えていたにもかかわらず、2018年末には1兆円を割り込んでいた。
そしてPBの不調を挽回するかのように、ZOZOTOWNが奇策に出る。ZOZOARIGATOだ。

強硬姿勢にブランドが「反発」

ZOZOARIGATOが開始されたのが、2018年12月。ZOZOのメンバーシップ(年間プラン税別3000円、または、月間プラン税別500円)になれば、購入額から一律10%を割引する仕組みだ。
ブランドの自社サイトや他のECサイトでは定価で販売されているものが、ZOZOでは10%オフで購入できるとあって、消費者からは好評だった。
ZOZOとしても、アマゾンや楽天などがファッションに力を入れる中、プラットフォーム間の争いに対する焦りもあったのだろう。
しかし、ブランドからすると、より利幅の大きい自社サイトでの販売が落ち込むことになってしまい手放しで歓迎できるものではない。
また、セール対象ではない商品も割引されてしまうことから、ブランド毀損を懸念する声もあった。
さらに、ブランド自身もZOZOとの長年の付き合いを通じてEC運営のナレッジがたまってきていた。
約30%の手数料は重荷で、ZOZOに預けた商品が売れなければ、在庫として戻ってくるというシステムの継続に疑問を抱くブランドもあった。
そうした事情が重なり、ZOZOと一部のブランドの間に溝が生まれつつあった。
そして追い討ちをかけたのが、ZOZOARIGATOをめぐって、ZOZOがブランドに「従うか、退店するか」の二者択一を迫ったことだった。
(写真:冨岡久美子)
こうしたZOZOの強硬姿勢に一部のアパレルが反発し、2019年の冬に、冒頭のオンワードHDに加えて、ミキハウス、ライトオン、ゴールドウィン(ザ・ノース・フェイスなど)が撤退するに至った。
これらの退店による直接的なZOZOの売り上げへの影響は、決して大きくはない。それでも、ブランドの恩恵を受けて成長したZOZOにとって、大きなイメージダウンになった。
結局、サービス開始から4カ月後の4年25月に、ブランド企業からの反発もあり、ZOZOARIGATOのサービスの終了を発表した。

ZOZOは「大人になった」のか

「澤田さんと私は、苦楽を共にした仲。彼がZOZOの社長に就任してから連絡を取り合うようになり、協業に至りました」(オンワードHD 保元道宣社長)
2019年9月、ZOZOはヤフーの連結子会社になり、前澤氏が退任して澤田宏太郎社長が就任した。そしてこの新社長が、オンワードとZOZOが関係を修復するきっかけになっている。
アパレルとの協調路線は、これまでの失敗の教訓によるところが大きい。前澤氏退任直前から始まった路線だが、澤田社長も就任以降、アパレル企業と協調する方針を鮮明に打ち出しており、改めてブランドとの関係構築に努めている。
振り返れば、ブランドと共に成長してきたZOZOがつまずいたのは、PBがきっかけだった。
ブランドから商品を預かって成長してきたZOZOが自ら洋服を手がけることは、ブランドに対する“裏切り”行為とも言えるものだ。
それでもPB事業に参入したのは、ZOZOにとっての大きな賭けでもあった。しかし結果的に、PBの失敗で業績が低迷し、ZOZOARIGATOにつながっていった。
中央:ZOZO澤田宏太郎社長(写真:時事通信社)
そしてヤフー傘下に入った今、ZOZOは改めてプラットフォーマーとしての立ち位置を再確認し、安定成長を目指している。
それは、ZOZOが「大人になった」ことを意味しているのかもしれない。しかし一方で、「普通になった」とも言い換えられる。
これまで世間に話題を振りまいてきたZOZOは、これからどんな企業になっていくのか。
日本のメガベンチャーにおける「二代目」の先行事例としても、目が離せない。