日銀・金融庁関係者らが「デジタル通貨と決済システムの未来」を議論【中央銀行デジタル通貨・CBDC】

政府や日銀の動きが加速し、注目度が急速に高まっている中央銀行デジタル通貨(CBDC)などについて考えるオンラインシンポジウム「デジタル通貨と決済システムの未来」が7月22日午後開催された。

東大教授や日銀、金融庁などの専門家が講演したほか、識者らによるパネルディスカッションが行われ、デジタル通貨発行を考えたときの課題、問題点、そもそもの必要性などについてそれぞれが意見を述べた。

シンポジウムの主催は東京大学金融教育研究センター(CARF=Center for Advanced Research in Finance)・フィンテック研究フォーラム。

東大・京大教授らの講演とパネルディスカッション

シンポジウムでは、5人の専門家が講演。日本銀行フィンテックセンター長の副島豊氏が「決済インフラの未来と中銀デジタル通貨」、東大大学院経済学研究科教授でフィンテック研究 フォーラム代表の柳川範之氏が「中銀デジタル通貨と決済システムの論点」、京大公共政策大学院教授の岩下直行氏が「デジタル通貨を巡る論争を読み解く」、金融庁総合政策局政策立案総括審議官から証券取引等監視委員会事務局長に就く松尾元信氏が「コロナ下の金融庁デジタライゼーション戦略」、CARF特任研究員の鳩貝淳一郎氏が「物々交換のアップデート」と題して話した。

講演後のパネルディスカッションには、副島・松尾両氏と植田健一氏(東京大学大学院研究科准教授)、翁百合氏(日本総合研究所理事長)が参加。柳川氏がモデレーターを務めた。

副島氏「現金の匿名性はCBDCでも許容されるのか?」「価値保蔵機能をCBDCにもたせていいのか?」

副島氏は「マネーとはなにか」との根源的なテーマから講演を始め、決済システムを整理・分類。昨今、注目されているSTOや分散型の金融システムについても言及した。

決済インフラについては様々な動きがあるが、どのような形が望ましいのかを考えなければいけないと指摘、「何のためのマネーか。金融システムなのか。決済インフラなのか」を考えることを重要な視座として挙げた。さらにCBDCだけを単独で考えないこと、何がCBDCに必要なのか見極めることなどの重要性も指摘した。また「現金の匿名性は新しいマネーで許容されるのか」という論点を提示、「現金の価値保蔵機能をCBDCに無限にもたせてもいいのか」と視聴者に問うた。

副島氏は、パネルディスカッションではCBDCは信用創造を意図していないと指摘。「わざわざ(現金とは)違う負債を(日銀が)負って信用創造することはない」と述べた。そして、デジタル通貨のメリットとして、キャッシュレス比率が高い一部の国のように、現金自体の発行が減って不便な状態ならデジタル通貨で代替できるかもしれないこと、ファイナンシャル・エクスクルージョンが起きている国ならデジタル通貨が(金融包摂に)役立つかもしれないことなどに触れ、そうした目的の達成のために日本でCBDCを発行する必要性があるのかと、疑問視する見方を提示した。

柳川教授「間接発行なら預託率で構造は変わる」「国際デジタル通貨が生まれればその単位が計算単位になる」

柳川氏は講演で、中銀デジタル通貨といっても多様な形があり議論が混乱しがちと指摘。直接発行か間接発行か、トークン型か口座型かなどいくつかの議論のポイントを挙げて考え方を整理した。

CBDCの発行主体について、「通常、CBDCといえば一般に利用されるデジタル通貨を中銀が直接発行される形だが、民間主体が発行する形態も考えられる」と指摘。技術のスピードが速いことや、中銀が口座管理をしなくていいことから「間接発行のほうがメリットがあるのではないか」と述べた。

さらに間接発行について考えられる課題や問題点に言及。「発行を間接的に担う民間金融機関に対して、どこまでの準備──預託金──を要求するかで構造が変わる」と指摘。預託率が100%なら金融システム上のリスクは小さく、マネーサプライのコントロールは容易だが、逆に流動性の供給が課題になること、発行主体のメリットが小さくなることなどが考えられると述べた。

このほか、「独自の単位を認めるのか」という問題についても触れた。ここではCBDCの間接発行なら独自の単位名は考えられないかもしれないと前置き。仮に異なった単位表示を許しても「固定の交換比率」で「100%準備」なら本質的な違いはないとする一方、「各発行主体によって異なる単位名称を用いて十分な相互互換性を認めないと問題が生じる」と指摘。さらに「100%準備でないなら固定の交換比率を結果的に維持できなくなる可能性がある」とした。

その上で、発行のパターンがどのような形であれ、CBDCの発行は新しい決済ネットワークを構築する行為にかなり近いと解説。ポイントとして、「中銀と金融機関との間の既存のネットワークをどうするか」を挙げ、既存のものを代替させるのか、それとも補完させるのか、すみわけるのか──といった選択肢を提示した。

また一番のイシューとして「通貨単位競争」に言及。利便性が高いデジタル通貨は国外でも使われる可能性があり、国際的な資金決済にも使われる可能性があるとし、「決済ツールとして便利なCBDCが現れると、それが決済手段となり、その単位が計算単位になるのではないか。さらには経済活動が、そのCBDC経済圏に有利な形で行われるようにならないか」との懸念も示した。

講演やパネルディスカッションではこのほかにも、デジタル通貨や決済システムのインターオペラビリティ、ポイントの疑似通貨化、セキュリティとマネロン対策など幅広い項目について意見表明や議論が行われた。

文・編集:濱田 優
画像:公開シンポジウム キャプチャー