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宇宙人すら逮捕可能な香港国家安全法の内容と中国共産党の目的とは?


一国二制度の有名無実化に香港市民の反発は必至だ。写真は5月24日、 「国家安全法」反対デモの参加者を捕える警官隊(写真:AP/アフロ)

香港基本法とは?


香港には香港の1997年中国返還後の政治・経済体制を定めた香港基本法と呼ばれる香港の憲法に相当する法律がある。香港の「一国二制度」を担保するものだ。それなのに何故、中国共産党政府は今「香港国家安全法」導入したのか?

香港基本法は中国の民主化を将来的に期待する英国と、香港の中国化を望む中国共産党の思惑を反映した内容が混合されているのが特徴だ。

香港基本法第23条問題とは?


中国本土から追放された法輪功学習者や、文化大革命、天安門事件で迫害されてきた人々は香港に渡り、(1) 民主主義 (2) 自由 (3) 中国共産党の不正を香港市民に伝えてきており、中国共産党は香港返還後、それが広東地方へ波及し、中国共産党政権の脅威になるのが不安の源だった。

香港基本法第23条では、中国政府に対する反逆、分離、扇動、転覆を禁止する内容の国家安全法を制定することが定められている。つまり、第23条は 香港における反体制活動を取り締まるための条文で、 香港市民は様々な自由が幅広く制限される恐れがあると懸念されていた。そして返還後しばらくは、 この条文を具体的に実施するための法令が制定されていなかったのである。香港の立法会は、長年、同法の導入を試みてきたが、表現の自由や報道の自由などの市民の権利を侵害するものだとして市民の反対は激しかった。立法会で国家安全法の施行の採決が間近に迫った2003年7月1日、 民主党を中心とする民主派の政党及び団体を中心とした 参加者50万人以上に及ぶ大規模デモが発生した。それ故に、第23条の立法化問題がいったん棚上げされた。

2018年に、中国共産党は第23条に基づく国家安全条例を香港に制定するように強く求めた。だが、林鄭月娥行政長官は国家安全条例制定より先に、まずはハードルが低めの逃亡犯条例改正を試みようとした。ところが、逃亡犯条例改正に反対する香港デモが起き、結果的に反中運動にまで進展してしまった。これにより、香港政府に国家安全条例を制定する能力がないと判断した中国共産党は、一国二制度を意図的に無視し、国家安全条例と類似の香港国家安全法を、2020年6月30日に香港立法会を関与させずに施行した。

香港国家安全法とは?


香港版国家安全法の詳細のキーポイントをここで紹介しよう。
(1) 人権は明文化されているが実質的には認められていない
第1条は一国二制度、香港人による香港統治、高度の自治の方針について、第4条では、人権を尊重し、保障、言論・新聞・出版の自由、結社・集会・デモ・示威の自由を含む権利及び自由を法に基づき保護と民主主義国家並みの原理原則が示されている。5条では法治原則を堅持し、刑事被告人は判決が出るまでは「無罪と推定」とも書かれている。

第9条では香港特別行政区は「国家安全の維持とテロ活動の防止についての国策を強化しなければならない」と定め、宣伝や指導、監視、管理の対象は「学校、社会団体、メディア、インターネット等」としている。デモ参加者の中心的役割を果たしていた大学やそれを報じるマスコミやネットが監視対象となり、第4条が言及している人権は第9条の条文により消滅している。インターネットやSNSに関しては、猛烈な勢いで、反中国的な書き込みの自主的な削除が起こっている。つまり、第4条の人権は単なるお飾りでしかなく、中国本土のように実質的人権は存在しない。

(2) 人民行動統制監視機関の設立
更に香港人の行動を制限する為に、新たに(1) 国家安全維持委員会(13条から17条)と(2) 国家安全維持公署(48条から52条)の2つの組織が作られた。

① 国家安全維持委員会は、香港行政長官がトップとなり、香港行政府の幹部がメンバーとなるが、自律的な組織ではない。この委員会には秘書処が設置され、そのトップである秘書長は北京中央政府が任命し「委員会を指導する」とされている(第13条)。また、北京中央政府が指名・派遣する国家安全事務顧問が会議に出席し、アドバイスを行う(第15条)。委員会は北京中央政府の「監督及び問責を受ける」(第12条)とも定められている。つまり、完全に北京の支配下に置かれているのである。

この委員会は「香港特別行政区のその他の機構、組織及び個人の干渉を受けず、業務情報は公開しない。香港特別行政区国家安全維持委員会が行う決定は司法の点検を受けない」(第14条)とされており、市民からは活動の内容がわからない秘密委員会である。

組織改革は香港の行政府にも及ぶ。香港警察には新しく「国家安全を維持するための部門」を設立(第16、17条)し、インテリジェンス情報収集や分析のほか、国家安全維持委員会から任された工作も請負う。

② 国家安全維持公署は「人員は中央人民政府国家安全擁護の関連機関が合同で派遣」(48条)され、「経費は中央財政により保障」される(第51条)とあり、完全な北京中央政府機関である。そして、「中国人民解放軍駐香港部隊の工作連絡と工作協力を強化しなければならない」(第52条)と書かれており、人民解放軍が直接関与できることとなる。

その職務は「情勢を分析・検討・判断し、国家安全維持の重大戦略及び重大政策について意見と提案を提出」「香港特別行政区が国家安全維持の職責を履行することを監督、指導、協調、支持」「インテリジェンス・情報を収集分析」「犯罪事件を扱う」(第49条)などで、香港での反政府活動などを取り締まるための秘密警察組織である。

つまり、新しく設置された2つの機関は北京の支配下にあるスパイ工作を行う秘密委員会である国家安全維持委員会と人民解放軍がバックに付いている国家安全維持公署なのだ。

18条では、検察行政など中央での法務省に該当する部門には、新法違反者を扱うための国家安全犯罪事案起訴部門が設立される。19条では、財政面で国家安全維持に関する支出は一般財政を充てるとし、新法関連の財政支出に対する香港行政府の拒否権を否定している。つまり、一国二制度は国家安全維持の分野においては、組織、人事、法手続き、財政などあらゆる面で、完全に消えてしまっているのだ。

(3) 犯罪行為の種類
取り締まりの対象となる犯罪行為は、①「国家統一を破壊する行為(国家分裂罪)」② 「国家を転覆する行為」、③ 「テロ活動」、④ 「外国、海外勢力との結託」の4類型である。

① 分裂罪は第20条で香港や中国と共に、「いかなる地方であっても中華人民共和国から分離させること」が対象となっており、台湾やウイグルなどの分離独立運動も対象になりそうである。

② 転覆罪は第22条で「中華人民共和国の根本制度を転覆し破壊すること」「政権機関を転覆すること」「法律に基づく履行機能を重大に干渉し、妨害し、破壊すること」など、拡大解釈により幅広い取り締まりが可能になっている。

③ テロ活動は第24条で「人に対する激しい暴力」「交通機関、交通施設、電力設備、ガス設備又はその他の燃焼し爆発しやすい設備を破壊すること」などと書かれており、内容的にテロ行為というよりも、過激なデモの取り締まり規定として存在しているように見受けられる。

問題は、「組織し、計画し、実施し又は参加」「扇動し、協力し、教唆し、金銭又はその他の財物をもって他人を援助」のいずれも犯罪とされている点だ。つまり、実際の行為がなくても、相談したり、メールを送ったり、金銭支援をするだけで取り締まりの対象にできるのだ。これでは民主化運動家もその支援者もまったく動きようがない。

④ 第34条では「永住権を有さない者が本法の規定する犯罪を実施した場合は、独立して適用又は国外追放を付加して適用することができる」とし、民主化運動にかかわった外国人も取り締まりの対象となる。例えば、日本の空港の書店で普通に売られている反中の内容の本を持って香港に入ったりしたら、逮捕される可能性がある。

第38条では「永住者の身分を有さない者が香港特別行政区以外で香港特別行政区に対して本法に規定する犯罪を実施した場合、本法を適用する。」つまり、外国人が香港において違反行為をした場合はもちろん、香港以外の場所であってもこの法律は適用されるということである。国家安全法は域外適用する法律で、属地主義ではない。たとえ宇宙人でも違反すれば逮捕されるのである。それはまるで地球のみならず、宇宙も中国の支配下であるが如くである。現在、香港との引渡し条約を結んでいるのは、オーストラリア、カナダ、チェコ共和国、フィンランド、ドイツ、インド、インドネシア、アイルランド、韓国、マレーシア、オランダ、ニュージーランド、フィリピン、ポルトガル、シンガポール、南アフリカ、スリランカ、イギリス、アメリカ、フランスの世界20カ国で、条約締結国は犯罪人引渡し条約を大至急停止しなければ極めて危険である。また、第43条では捜査手法について、電子メールなどの閲覧、電話などの盗聴も可能で、捜査機関はあらゆる手段を使って海外からの情報も入手するであろう。

これら条文から解釈できることは、もし外国人が海外から香港を支援するための送金や運動を支持するメールなどを送っていた場合、香港に足を踏み入れた途端に拘束される可能性があるということだ。香港のレストランやカフェでは、中国政府の批判を言いたい時は、左右を見て誰もいないことを確かめてから小声で囁くという、あたかも中国本土のような光景を目にすることになるのである。

香港はどうなるのか?


(1) 金融センターとしての香港は?
第44条では、今後は香港の法廷では、「中国政府の意にかなった判決」を強要していく。実際、第44条の末尾には、意にそぐわない裁判官をクビにする条項まで付加されている。第44条の規定は「司法の独立」の問題を超えて、香港経済に影響してくる可能性がある。これまでは「司法の独立」が保証されていたからこそ、世界の投資家は安心して、香港に投資していたからだ。香港の国際金融センターとしての魅力は、自由な金融取引ができなければ維持できないので、もはや、金融センターとしての香港の将来は短期的には期待できないだろう。

実際、2020年の世界金融センターランキングでは昨年まで3位だった香港は3つも順位を落とし6位となり、香港金融市場では人民元決済や中国株取引といった金融センターとしての行方が不透明化している。香港の株式市場には米国の市場から退出を強いられた中国企業が相次いで上場しているが、中国による統制強化を懸念して資金流出が加速すれば、金融市場が混乱する可能性がある。「香港の中国化」が進むことは、国際金融センターとしての香港の地位を低下させるだろう。それが現実となれば、中国企業の海外からの資金調達、と海外金融機関の対中投資の双方に大きな打撃となり、中国と他の主要国の間での資金の流れを縮小させてしまうことになる。香港は中国と海外との間の資金の流れのハブなのであるが、ハブの機能が低下して、双方向の資金の流れが細れば、世界経済にも打撃となろう。特に香港ドルについては米ドルペッグ(相場米ドルと連動)されており、これが香港の金融インフラを支えている。

(2) 貿易決済としての香港は?
米国がドル決済で国際金融機関に制約をかければ、香港の金融経済はまったく機能しなくなり没落する。そして香港の輸出ハブとしての魅力がなくなってしまい、中国本土の国力衰退にもつながる可能性は高い。ドルペッグが廃止されることで香港ドルの信用が失われてしまい、香港ドルの暴落は免れない。米国はドルという基軸通貨でもある世界最強通貨が自国通貨なので、その気になれば香港の生殺与奪を握っているとも言える。

資金はどこに流れる?


2020年6月5日に中央銀行にあたるシンガポール金融通貨庁(MAS)の発表によると、4月の銀行の非居住者預金残高は、前年同月比44%増の620億シンガポールドルになった。これは1991年以降で最も多い増加額である。香港からシンガポールへの大量の資金の移転を反映している可能性が高そうだ。シンガポールへの資産移転の動きを受けて、UBS、クレディ・スイス、ジュリアス・ベアなどのプライベートバンク各社は、中国や香港の顧客を対象としたオフショア資産運用担当者の増員を計画している、とロイター通信は報じている。その多くがシンガポールを拠点としたポストだという。さらに、ヘッジファンド、プライベート・エクイティなども、香港国家安全法をきっかけに、資産をシンガポールにシフトしているという。

残念ながら日本が、香港から海外金融機関や人材を誘致できる可能性はかなり小さい。言葉と税制が、シンガポールに対する日本の国際金融センターとしての競争力をかなり劣位にしている。特に、中国ビジネスという観点からは、英語と中国語の両方が通用するシンガポールに比べて、共に話す人が限られる日本の劣位は明確だ。また、法人税、個人所得税においても、シンガポールの法人税率は17%、個人所得税率は最高税率22%と、シンガポールの水準は日本よりもかなり低く、この面でも香港からの金融機関や人材がシンガポールに移る大きな誘因となっている。

香港人はどうなる?
結局、香港の企業、金融機関や人々は、これから中国に従うか、それとも香港から脱出するかの二択を迫られることになるだろう。香港の人口750万人のうち、半数程度は香港から離れることを余儀無くされる可能性すらある。香港は、モノとカネによって中国と世界をつなぐ重要なゲートウェイだったが、最悪その役割を失うことにもなるのだ。

何故、今香港国家安全法が導入されるのか?


(1) 中国の歴史は虐げられてきた民衆の蜂起と反乱の連続と言える。歴代の統一王朝が衰退・滅亡した歴史には、民衆や農民の生活が困窮し、その不満が高まると大きな内乱が起こるのが繰り返されてきた。中でも、1851年に清朝の中国で発生し、約2000万人が亡くなるという、人類史上最大の宗教的な農民内乱であった「太平天国の乱」は、中国共産党が最も恐れているのは内乱だ。国内では経済発展に取り残された民衆によって現在、年間20~30万件の暴動が起きている。その為、中国共産党は内乱を鎮圧するために人民武装警察(武警)を150万人配備している。中国の人口は14億人程だが、2020年6月20日、李克強首相は6億人が貧民層だと発言した。最近では格差に絶望した中国人はキリスト教へ入信を続けており、中国政府が認めていない「地下教会」で活動する信者も加えると1億人を突破している。中国共産党が宗教に対して不寛容であり、キリスト教徒を激しく弾圧するのは、まさに「太平天国の乱」の様な歴史が繰り返されるリスクを恐れているからだ。経済的に豊かな沿海部都市と比較して、格段に貧しい内陸部農村地区の人々は、中国共産党に対する不平不満がフツフツと煮詰まっており、いつキリスト教と結びついて大反乱が起こっても不思議ではない一触即発状態という見方もある。中国人民は経済発展で自分たちの生活水準が上昇するならと、一党独裁体制をこれまで許容してきた。実際、中国は鄧小平時代から強靭な経済発展を続けてきた。1990年の中国のGDPは、日本のGDPの7分の1程度に過ぎなかったが、2010年には日本を超え、今や日本のGDPを2.5倍以上となっており、年々米国との差を縮める傾向にある。経済が好調だから黙っていた都市住民までもが生活水準の悪化から体制に対して大規模なデモを起こし、それが農村部の暴動と連動するようなことになれば、中国全土で大動乱にまで拡大し共産党一党支配は崩壊してしまう可能性は否めない。

(2) 2020年9月6日、香港で立法会選挙が予定されている。中国共産党は、万が一にも立法会選挙で民主派議員が過半数を獲得出来ないよう、新型コロナ感染拡大予防で香港デモが規制され、外国人の渡航制限も継続されている今こそが、力ずくでデモ参加者を一網打尽にできる時だと判断した。

(3) 国際世論の「新型コロナ」責任追及を逸らしたい。米国、オーストラリア、インド、トルコ、ポーランド、アルゼンチンなどで、中国に新型コロナの損害賠償が提起されており、『香港経済日報』によると、賠償請求の総額は、2020年4月29日時点で、100兆ドル以上で、中国のGDPの7年分に相当するという。習近平は新型コロナの賠償問題に関する国際社会の関心や世論の責任追及を逸らす必要があった。

香港国家安全法が確実に機能するために、中国共産党は何をしたか?


(1) 2020年2月13日、中国共産党は習近平国家主席が浙江省党委員会書記を務めていた2003年、同副書記に就きキリスト教教会の屋根の十字架を全て強制撤去するなどの抑圧策で知られ、習氏の片腕とも言われている夏宝竜を国務院香港・マカオ事務弁公室トップに充てることで、香港情勢の立て直しを図り、中国共産党政府の関与を強めようとしている。準備万端な中国共産党は取締りのための幹部人事を迅速に公表した。

(2) 香港国家安全法を適用するや否や早速、逮捕者を出し、民主化運動の火種を排除した。香港政府は前哨戦として、2020年4月18日、現職の梁耀忠立法会議員や「民主の父」と呼ばれるマーティン・リー元議員ら15人を逮捕した。15名には民主化運動を支持しているメディア界の大物でアップル・デーリーを創業したジミー・ライ氏も含まれる。

新法の条文を詳細にみると、民主化運動を抑え込もうという中央政府の意志の強さは強烈で、それを実行する手段が法律によって謳われている。香港での民主化運動や中央政府批判などの活動は厳格に規制され、当局は北京中央政府の法解釈で、関係者を容易に拘束できる仕組みが作られていることがわかる。この法律の内容が運動家らに与える恐怖感、威圧感は圧倒的であり、民主化運動家らが生命の危険を感じて姿を消すのも当然である。

このように、中国共産党政府が手を下すまでもなく、反中運動が消えていくことになる。それほどまでに香港国家安全法の内容は民主化の動きを封じてしまうものとなっている。これではアグネス・チョウとジョシュア・ウォンの様な民主化運動家らが生命の危険を感じ、団体から離脱する以外に手段がないと判断せざるを得なかった。実際に、6香港の民主派団体「デモシスト」のアグネス・チョウとジョシュア・ウォンは2020年6月30日、それぞれのSNSで団体を離脱することを明らかにした。詳しい理由は分かっていないが、同日に全人代で香港国家安全法が可決されていて、団体に残ることで自分や他のメンバーが逮捕されるリスクを避けるための決断という可能性もある。アグネス・チョウのTwitterの最後の「生きてさえいれば希望はあります。」が全てを物語っているように思える。

国家安全法について、香港の自由を支えてきた英植民地時代からの判例法主義の法体系や、様々な自由を保障する香港基本法と根本的に対立するとみている。このままだと香港は中国本土の都市と変わらないとみなされてしまう運命にあると言っても過言ではない。

第44回国連人権理事会


さて、スイス・ジュネーブで2020年6月30日、第44回国連人権理事会が開催され、国家安全法に関する審議が行われ、国家安全法を反対したのは僅か27カ国に対し、支持する国は約2倍多い53ヶ国だった。

国家安全法に反対したのは、英国、フランス、ドイツ、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、オーストリア、スロベニア、スロバキア、アイルランド、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ラトビア、エストニア、リトアニア、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、パラオ、マーシャル諸島、ベリーズ、日本の27ヶ国だった。米国はトランプ政権になってから同理事会から脱退している。

賛成に回ったのは中国、キューバ、ドミニカ、アンティグア・バーブーダ、ニカラグア、ベネズエラ、スリナム、カンボジア、ミャンマー、ラオス、スリランカ、ネパール、パキスタン、タジキスタン、イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーン、オマーン、イエメン、シリア、レバノン、パレスチナ、エジプト、モロッコ、スーダン、南スーダン、エリトリア、ジブチ、ソマリア、ニジェール、ガンビア、シエラレオネ、トーゴ、ギニア、ギニアビサウ、赤道ギニア、ガボン、カメルーン、ブルンジ、中央アフリカ、レソト、コンゴ共和国、モーリタニア、レソト、トーゴ、ザンビア、ジンバブエ、モザンビーク、パプアニューギニア、コモロ、ベラルーシ、北朝鮮の53ヶ国だった。

反対している国々を見ると、2つの特徴が窺える。
一つ目は、それらの国々が中国と同じように独裁的、もしくは権威主義的で、イスラム過激派のような反政府勢力の問題を国内に抱えていることである。エジプトやイラン、パキスタン、シリア、サウジアラビアなどはイスラム過激派など反政府組織の問題を抱えている。新疆ウイグルをめぐる中国国内情勢は、これら国々と状況が類似している。国家体制を維持するため、市民への統制を緩めることが出来ず、反政府組織に対しては厳しく抑圧するという共通点がある。2019年7月にも、今回と同じように国連人権理事会の加盟国である英国や日本など22ヶ国が、新疆ウイグル自治区での人権侵害で中国を非難する共同書簡を提出したが、ロシア、北朝鮮、パキスタン、シリア、アルジェリア、サウジアラビアやエジプトなど37ヶ国は中国を擁護する立場をとった。

二つ目は、一帯一路による莫大な資金援助である。エジプトやイラン、パキスタン、シリア、サウジアラビアも事情が似ているかもしれないが、今回の52ヶ国には、カンボジア、カメルーン、モザンビーク、ミャンマー、ネパール、ラオス、パプアニューギニア、スリランカ、ザンビア、ジンバブエなど多額の貸金を中国から受け取っている国々がある。すでに債務超過状態に陥り、返済すらままならない国もある。国内でインフラ整備や都市化を推進するためにも、中国支援の立場を取らなければいけないという政治的プレッシャーがあると考えられる。また、中国との貿易関係が深まっているアフリカや中南米の国々は、香港問題への興味や関心が希薄で、経済的パイプから北京中央政府の意向に忖度している。

理由はともかく、国連人権理事会という公の場で、参加国の2倍あまりの国々が中国が力尽くで制定した香港国家安全法に賛成するという現実があるのだ。香港国家安全法は、一国二制度を約束より遥かに短い27年も早くに終焉させ、北京が香港を実効支配するという法律であるのは読んで字の如くだが、国連人権理事会では香港国家安全法の賛成派が過半数を超えているのは、中国共産党の狡猾さが所以ではないかと思える。

世界各国の対応


米中覇権戦争下、米国は香港国家安全法に対する制裁措置は既に開始している。2020年7月1日、米下院は香港自治法案を満場一致で可決した。法案は、香港の民主化デモの取り締まりに当たる中国当局者と取引する銀行に罰則を与えるというものだ。

イギリスは最大300万人の香港市民に、イギリスでの定住と、最終的に英市民権を申請する機会を与える方針だとしている。オーストラリアもまた、香港居住者に安全な避難先を提供することを「積極的に検討」している。スコット・モリソン首相は、「間もなく内閣で検討される」案が複数あるとし、カナダは2020年7月3日には香港と結んでいた犯罪人引き渡し条約の停止と、香港で民主化デモの弾圧に使われる可能性がある「軍民両用」製品を含む軍事物資の輸出禁止を発表した。

香港国家安全法施行に関する個人的見解


習近平率いる中国共産党は武漢から発症したと言われている新型コロナウイルス騒動が未だ世界に恐怖を与え続けており、世界中の多くの国々から非難を受けているにも拘らず、何故このタイミングで新たに自国の孤立化を促進する様な香港国家安全法を制定したのかが、非常に重要なポイントである。

個人的見解だが、習近平政権が世界を敵に回しても、今香港国家安全法を香港に強要するのには「お家事情」があるからではないかと思う。我々が想像する以上に、中国国内の内乱やデモは多発しており、習近平政権は是が非でも民主化運動を制圧する必要性を感じているからであろう。 その為にも、2020年9月6日に予定されている香港立法会選挙では民主派議員が議席で過半数を上回る様な事態が起こらないようにしなければならないのである。大衆の民主化機運を抑えることが最優先課題である習近平政権にとって、香港国家安全法は政権維持の為に、必要不可欠な法律であるのは言うまでもない。


立沢 賢一(たつざわ けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資戦略、情報リテラシーの向上に貢献します。

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