【小泉悠】原油安で「プーチン政権」は揺らいだのか?

2020/7/19
サウジアラビアと激しい原油戦争を展開したロシア。ロシア経済は原油と天然ガスへの依存度が高く、原油安は国家の根幹を大きく揺るがしかねない。

コロナ禍も襲うなか、老練なプーチン大統領はこの難局をどう乗り切るのか。ロシアの軍事・安全保障政策が専門の、小泉悠東京大学先端科学技術研究センター特任助教に聞いた。

「低位安定」が続くロシア経済

──新型コロナウイルスの感染者数について、ロシアは世界第4位の75万人と、被害が広がっています。3月からは原油安が続くなど、経済に深刻なダメージが及んでいるようにも見えますが、小泉さんの見立てはいかがですか。
小泉:こうした状況でも、ロシア経済は「謎の安定感」を示している、というのが私の考えです。ずば抜けて経済状況が良くはならないが、かといって崩壊もしないという、「低位安定」状態が続いています
今年のロシア経済の成長率は、複数の調査機関の予測によればマイナス5〜6%。リーマンショック後、2009年のマイナス7.8%に次いで悪い数字です。
2010年以降のロシア経済は、低成長ながら一貫してプラス成長が続いていましたが、今回はリーマンショック以来のマイナス成長に転落することが濃厚です。
翌年の2021年はプラス成長に転じると予想されていますが、2020年は、ひたすら耐え忍ぶことになります。ロシア政府は企業に対して大規模な補償措置を取らないと明言していますので、資本力のある大手企業はともかく、中小企業は多数の倒産が出るでしょう。
とはいえ、小売やサービス、製造業などが影響を受けたとしても、回復できないほどの痛手にはならないと考えています。そのメカニズムを説明します。

「交渉決裂」が両国に与えた影響