【小泉悠】原油安で「プーチン政権」は揺らいだのか?
コロナ禍も襲うなか、老練なプーチン大統領はこの難局をどう乗り切るのか。ロシアの軍事・安全保障政策が専門の、小泉悠東京大学先端科学技術研究センター特任助教に聞いた。
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国民の生活が非常に苦しくても、一見ほとんど揺るがない政府というのはあります。ソ連がそうでしたし、北朝鮮もそうです。第二次世界大戦末期の日本でも、いくら国民の生活が苦しくなっていても、あそこで大規模なデモが起きたりして政権を打ち倒す、というようなことは日本人には想像しがたいことでしょう。
軍と官僚機構さえ強力であれば、国民がいくら餓死していても、デモなどで政府が倒されることはない、という国はいくつもあります。「アラブの春」のように、国民の生活が苦しくなって大規模なデモが起きたくらいでつぶれる、というような国は、軍か官僚機構がそこまで国民生活を管理していない、という場合が多いです(略奪や拷問や汚職が蔓延している場合は多いですが、それらは強固な官僚制というのとはむしろ反対のものです)。
ロシアの場合、軍と官僚機構(の一部、特に諜報機関)は優遇されていて強固です。そして、ロシアの場合は、小麦をはじめとする食料は国内で自給できるというのも、全面的に輸入に依存するサウディアラビアなどとは大きな違いです。
しかし、ソ連は実際につぶれました。ソ連崩壊の原因は複合的なものですが、最大は経済で、特に1986年の原油価格急落によるものでした。1987年に始まったペレストロイカはソ連経済を立て直すことはなく、そのまま1991年にはソ連は崩壊しました。
ソ連の場合、タイミングが悪かったのは、原油価格が急落した直後に、国際的な資本主義の市場に接続してしまったことでしょう。北朝鮮でも、もし雇用と市場が国際的に全面開放されれば、体制の維持は難しいでしょう。
今のロシアはソ連とは違い、国際的な市場に接続されています。自動車から日用品まで自国で生産していた社会主義の国ではありません。石油、天然ガス、小麦を輸出して外貨を獲得し、それで諸々の商品を輸入しなければなりません。今起きている、通貨ルーブルの下落と貿易収支の悪化は国民生活を直撃します。
今のロシア経済が、ソ連末期の市場主義経済への移行の際のようなショックを受けることはありえませんが、通貨安と原油安に弱い体質の経済になっていることは確かです。ロシア政府は2018年からインフラ大改造6ヵ年計画を進行中ですが、達成できないでしょう。国民生活は悪化しますが、さらなる強権化で軍と官僚機構上部だけは優遇されて、体制は維持されるでしょう。
ロシア経済は原油価格が死活的重要です。原油安に加えてコロナ禍が襲うなか、マイナス成長が予想されています。ロシア経済は生き延びることができるのか。先日、憲法改正案を通過させて、実質的な終身大統領へ一歩前進したプーチン大統領の秘策とは。
ロシア専門家でプロピッカーの小泉悠さんへのインタビューで謎解きをしました。
経済のことは素人なのですが、プーチン政権の権力から見た経済、というテーマでお話しさせて貰いました。
私の専門にもう少し引きつけて国防費について補足。
ロシアの国防費は大体3兆1000億ルーブルですから、円建てにするとほぼ日本と同額です。これで100万人の兵力と世界最大の核戦力を維持しているのだから懐はキツいです。
他方、国内でのルーブル購買力を考えるとこの額はそれなりに使い手がありますし、記事中で説明した理由でそれなりに安定供給ができています。
したがって軍事力については「中位安定」みたいなことになるでしょうか。
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