【日曜に考える】コロナ後「人が集まる場」はどう変わるか

2020/7/19
新型コロナウイルスの流行で、影響を最も受けた領域の一つが、「リアルの場」であることは間違いない。
コンサート・ライブ会場、スポーツ・スタジアム、レストラン、ホテル、美術館、ブランド店舗……。
これらの領域は従来、オンラインでは完結しない「価値」を提供してきた。多くの人が集まって感動を共有したり、親しい人と豊かな時間を過ごしたりする価値だ。
しかし、コロナ下の「密を避ける」社会的要請によって、その価値が根本から揺らいでいる。人が集まること自体が避けるべきとされる状況で、「場」は今後どうなっていくのか。
実は設計者たちは、Withコロナ時代の新しい「場」について、表現を模索し始めていた。
商業施設「GINZA SIX」などの空間プロデュースを手掛け、アートイベント「Media Ambition Tokyo」の代表理事も務める、スペースコンポーザーの谷川じゅんじ氏が、これからの「場」に求められる要件について考察する。

コロナ以前、世界は小さくなっていた

With CORONA. 世界は大きく変わりました。
コロナ以前、私たちはネットワーク社会に生きていました。インターネットによって全空間がつながり、地球の裏側で起きていることが、リアルタイムに伝えられていた日々。世界は縮まり一つになった。そんな意識を私たちは持っていました。
ロケットの打ち上げ、国際的なコンベンション、スーパースターのコンサートツアー、ファッションブランドのコレクション。あらゆる分野の生活情報が即座に翻訳され、ソーシャルネットワークによって拡散していく。
(写真:GOTO_TOKYO/iStock)
まるで、乾いた大地が水を吸い込むがごとく、あらゆる情報が世界にまかれ続ける。私たちはクリックひとつで、いつ何時でも自分の行きたい場所に飛んでいける世界に生きていました。
オンラインに限らず、身体的な実空間においても、世界は小さくなりました。ネットワークが交通手段を劇的に進化させ、信じられないほどカジュアルでスムーズに移動ができるようになりました。
旅をするときは、事前に航空券を予約し、旅先の交通機関のデジタルチケットも発券。天候も確認し、気の利いた服装を用意。通貨もチェック。ホテルはもちろん、連日のディナーすら念のためリザーブ。どこにいても自在に「次の居場所」を確保できました。
正直、この先どこまで暮らしの利便性が高まり続けるのか、全く予想のできないほど、情報の大海は拡張し深化し続けていました。

自由より「安全」が優先される

そんなある日、コロナは突然現れました。はじめは多くの日本人が「他人事」と捉えたそのウイルスによって、自分たちの生活が突然歩みを止めることになろうとは、想像もつきませんでした。
目に見える道路や建物、手の届くモノは全く変わることなく、人間の社会生活だけがある日パタッと止まり、私たちは戸惑いながら日々の暮らしを変化させ始めたのです。
コロナにおける最大の変化は何か、それは時代が「自由から安全へと」舵を切ったことです。
これまでの時代、つまりビフォー・コロナの時代には、私たちの選択は原則として自己責任であり、同時に “自由”だったといえるでしょう。しかしコロナの登場によって、自分本意な“自由”は他人の“安全”を脅かす行為となりました。
アフターコロナの世界では、自由よりも安全が優先されます。私たちは命を守るため、自らの意思で社会的コンセンサスを変化させたのです。

「リアルの場」の3つの変化

このシフトチェンジによって最も影響を受けたのは、「リアルの場」であり、場で行われる人と人とのコミュニケーションです。
「場」には、ハードウェアとしての空間と、ソフトウェアとしての「集まる目的」が含まれます。その両方が、コロナによって変化を余儀なくされています。いくつかのポイントを見ていきましょう。
①集客集合型から、時差分散型へ