中川泉

[東京 16日 ロイター] - 7月ロイター企業調査によると、この夏に事業立て直し策を検討している企業は半数にとどまり、前向きの動きは広がりに欠けている。立て直し策として「生産性向上」を掲げる企業でも、経費や給与削減をあげる声が目立った。ポストコロナとなる1年後に向けても、従来の本業を復元ないし拡大と回答した企業が7割だったのに対し、事業の抜本見直しや新規事業を模索する動きは2割程度にとどまった。世界的な事業再編やポストコロナ時代の変化に対応した事業見直しの動きは鈍そうだ。

調査は6月30日から7月10日までの期間に実施、資本金10億円以上を対象に496社に調査票を発送、回答社数は230社程度だった

<この夏の挽回策、「検討なし」半数>

コロナ感染拡大に伴う事業への打撃に対応し今年の夏に何らかの工夫や対策を計画しているかとの質問に対し、「ある」と「特にない」との回答はほぼ半々となった。

何らかの対策を講じている企業では、5割が「営業活動見直し」を計画している。「時限プロモーションをいくつも打ち出すことで、消費者の購買意欲をわかせたい」(運輸)、「積極的な販促施策の実施、事業領域の拡大」 (サービス)などの具体策があげられた。

「生産性向上を図る」も6割を占めた。「新規事業開拓に経営資源を割く」(繊維)といった新たな取り組みを掲げる声がある一方で、「当面経費削減でしのぐ」(運輸、機械など)、「 リモートワークの導入加速により、将来の事務所費用等の削減につなげる」(ゴム)、「給与減額や経費削減」(電機)などのコスト面での対応も目立った。

<新たな事業模索の動き鈍く>

1年後の事業見通しでは、「本業をコロナ前の状態に復元する」と「本業拡大」が合わせて7割に上った。今のところ先行きの社会の変化は不透明な面もあり、「コロナ前に復元と言っても、全く同じではない。ニーズ変化などに対応していくのは当然」(サービス)との声や、「現状維持を前提とし、市況の変化に臨機応変に対応する」(機械)など、ひとまず従来通りの事業で黒字化を目指す方向性を示している。

一方で、「本業の抜本的見直し」を行うとの回答は8%、「新事業開拓を目指す」は13%で、合わせて2割程度と相対的には少なかった。それでも「感染収束後の産業地図の変化次第では、多くの事業で見直しが必要となる」(ゴム)、「コロナ後しばらくは縮小傾向にあるが、業界内の再編の荒波が起こり、そこでの成長を目指す」(機械)など、世界的な事業環境の変化を想定し既存事業の見直しは必至ととらえるコメントはいくつも寄せられた。

<輸送用機器、目立つ厳しい見通し>

業種別で苦境が目立ったのが輸送用機器だ。深刻な不振に陥っており、1年後の「本業復元」は5割程度、「本業縮小」が2割、「本業の抜本見直し」が2割となった。「回復には3年程度かかる見通し」といった声も聞かれる。ただ「新規事業開拓」をあげる企業はほぼんどなかった。

輸送用機器では、雇用状況でも厳しい見通しを示している。休業者のいる企業は回答企業全体では16%の比率だったのに対し、輸送用機器では44%。次いで紙・パルプが38%、サービスその他が25%だった。

「受注減による人員減」「先行きの需要見通しが不透明なため」(いずれも輸送用機器)といった背景がある。生産統計でも、自動車産業は他業種に比べて群を抜いて悪化している。生産調整を余儀なくされ、雇用契約関係にはあっても需要が戻るまで休業扱いとなっている従業員が多数に上っていることが表れた。

企業自体の財務基盤では、他業種に比べ中堅程度の企業でも不安が感じられる。自己資本について「全く懸念なし」との回答は全体では半数となったが輸送用機器は3割にとどまり、「やや懸念がある」が2割を占めた。

<デフレ懸念4割>

今年後半以降の物価動向については、全体として「横ばい」と見込む企業が5割強を占めたが、「デフレ懸念」があるとの回答も4割に上った。

企業では「不況によるデフレ要因と潤沢に資金供給されるインフレ要因でイーブン」(小売)といった見方も多いが、「コロナによる倒産、収入減による消費抑制で物価は低迷」(金属製品・一般機械)といった声も複数寄せられている。

ただ、自社製品について「値下げ」を予定している企業は2割に満たなかった。「顧客からの値下げ圧力は強いが、それ以前に需要は弱く、値下げしたから売れるという状況にはない」(ゴム)といった見方がある。

(中川泉 グラフ作成:照井裕子 編集:田中志保)