「Slack」はメールを“滅ぼす”わけではない:スラック・テクノロジーズCEOが語る、これからのコミュニケーション

コミュニケーションツールとしての「Slack」が存在感を増している。在宅勤務の広がりで組織内外のコラボレーションへの活用が加速しているだけでなく、個人的なイヴェントなどのプロジェクト運営にまで用途が広がり始めている。進化を続けるSlackは、最終的にはメールを“滅ぼす”ことを目指しているのだろうか? 将来像について、スラック・テクノジーズCEOのスチュワート・バターフィールドが語った。
Stewart Butterfield
DREW ANGERER/GETTY IMAGES

ここ数年でさまざまなビジネスチャットアプリが登場しているが、「Slack」ほど企業文化を“破壊”したアプリはないだろう。何往復も続くメールのやり取りは気軽なインスタントメッセージに置き換わり、仕事の合間のおしゃべりはテキストでのダイレクトメッセージ(DM)が主流となった。

ディスカッションは特定のトピックごとにまとめられ、透明性は高まり、社内コミュニケーションが大幅にカジュアル化した。Slackで使われる絵文字「Slackmoji」がいい例だろう。さらに2020年は在宅勤務の導入が加速し、オフィスそのものがSlackにとって代わられたケースすらある。

だが、ほとんどの職場では外部との交流が必要だ。自社の従業員だけでなく、ビジネスパートナー、ヴェンダー、そしてコラボレーターがいる。そこでSlackを運営するスラック・テクノジーズは、このほど最大20の組織間で「チャンネル」を共有できるツール「Slack Connect」を発表した。この共有チャンネルを利用すれば、企業がサプライチェーンのオペレーターと連絡をとったり、ヴェンチャーキャピタル企業がすべての投資先企業をひとつにまとめたりすることが可能になる。

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「わたしたちにとって『うまくいっている』と言える基準は、電子署名に使われたDocuSignのうちどのくらいが共有チャンネル内で署名されたか、もしくは注文書や請求書、サーヴィスチケットのうちどの程度が共有チャンネルで開かれたかになりつつあります」と、スラック・テクノジーズの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のスチュワート・バターフィールドは語る。「組織にSlackを導入すれば、組織体系を“軽く”することができます。相手が組織の外側にいても内側にいても、同じくらい役に立つのです」

いまやスタートアップを含む膨大な数の企業がSlackを使用しているが、特に大企業のクライアントについてはマイクロソフトの「Teams」への対抗は容易ではない。だが、マイクロソフトにはまだSlack Connectに相当する機能がないので、より複雑なニーズをもつ顧客層ならSlackが優位かもしれない。

こうしたなかバターフィールドは『WIRED』US版の単独インタヴューに応じ、職場におけるコミュニケーションの未来について語った。バターフィールドはSlack Connectがビジネス以外の場でも使える可能性や、Slackがどのようにメールの受信トレイを活用していきたいと考えているかについても説明している。

メールにはない優れた点

──「Slack Connect」を発表しましたが、どういった導入事例を想定されていますか。

あらゆる事例において最も重要なことは、顧客を成功に導き、サポートすることではないかと思います。顧客と連絡をとり合う必要のある組織で、特に長期的な取引関係がある場合は重要でしょう。

例えば、オラクルは何年も前からの顧客で、10万人が毎日Slackを使っています。オラクルには2017年にSlackを導入してもらったのですが、それでおしまいというわけではありません。(Slackの)社員は、オラクル側と文字通り毎日ずっと欠かさずに連絡をとっています。わたしたちのカスタマー・アドヴァイザリー・ボードのメンバーにも、オラクルの方たちに入ってもらっているほどです。チェンジマネジメントに必要なあらゆるプロセスが、そこにはあります。

Slackのチャンネルは、こうしたプロセスにとって完璧な方法です。電子メールやテキストメッセージを利用して、さまざまな関係者が1対1のコミュニケーションをとり合うといったことは必要はありません。オラクル側の担当者が変わったり、Slack側の担当者が変わったりしても、会話が途切れず、過去のコミュニケーションのアーカイヴが存在する環境をつくり出せます。

これとは少し違った事例を紹介しましょう。(インシデント管理のソリューションを提供する)PagerDutyのCEOのジェニファー・テハーダが今年2月、ほかのSaaS企業のCEOたちと一緒にホームディナーに招待してくれたときのことです。そのときの連絡がメールのスレッドになっていたのですが、2月下旬から3月上旬にパンデミックの話題が広がり始めると、内容が「オフィスの閉鎖を真剣に考えている?」といった会話に変わっていきました。

これらの会話が、企業の垣根を越えて共有チャンネルへと統合されていきました。チャンネルには、わたしを含む18人のSaaSの上場企業のCEOが参加しています。

その後、チャンネルはさまざまな内容へと分岐していきました。ひとつは最高財務責任者(CFO)用のチャンネルで、あらゆる不確実性を伴うパンデミック下でどのように計画と予測を実行するかが議論されています。別のチャンネルは最高人事責任者(CHRO)とリーダー用で、実際に会って面接できないときの採用、または本社に出社できないときの新入社員研修、または在宅勤務時の福利厚生や方針の変更について検討するために使われています。

このほか、イヴェントの開催やフィールドマーケティングができないマーケティング担当者用のチャンネルもあります。これらは非常に重要な役割を果たしてきましたし、ほかの方法では起こり得ないことでした。

機能の要件という観点から見ると、理論的には同じような会話をメールで続けることもできたでしょう。しかし、メールには多くの欠点があります。時間の経過とともに人を追加していった場合、新規の参加者は履歴やそのほかのものにアクセスできません。

そして真の問題は、オンライン購入の領収書や結婚式の招待状、迷惑メール、営業担当者からの不要な勧誘、重要な契約など、ほかの何十億件ものメールと混ざってしまうことです。したがって、チャンネルを利用することには本当に価値があります。プライヴェートネットワークのようでありながら、管理者にとっては一定の可視性とアクセス性がある手段と言えるでしょう。

──電子メールの利点のひとつは、誰にでも送信できることです。Slackでも将来的に、見知らぬ相手にDMを送信できるメールのようなコミュニケーションを目指していますか?

絶対にないとは言えませんが、おそらくありません。わたしたちはメールを“滅ぼす”必要はありません。そのようなことを始めるつもりも決してありません。

メールはとても多くの目的に使えるわけですが、特に最低限のツールとして誰でも使っている点で、実際にいくつかの利点があると思います。ネガティヴに聞こえるかもしれませんが、そういう意味で言っているわけではありません。

メールはユニヴァーサルスタンダードです。誰でも独自のSMTPサーヴァーかIMAPサーヴァーを運用できますよね。ユニヴァーサルな名前空間なので、誰でも誰にでもメッセージを送ることができます。

一方で、その利点には負の側面があります。わたしはいまもメールに多くの時間を費やしています。時とともに新しい連絡先が加わっていくので、完全に移行されることになるとは思いません。最近は人に誰かを紹介するときには、規律的な手段としてほぼメールを使っています。

互いにDMをやり取りするようになる2人のSlackユーザーを想定するときは、必ずSlack以外の何らかのコミュニケーションで安全な連絡先の交換があったあとになると考えています。誰にでもメッセージを送ることができたら、どうなると思いますか? メールと同じ状態になりますよね。最近は送信されたメールの99.9パーセントがスパムですから。

でも、過去数十年にわたってグーグルやマイクロソフトなどがスパムとの闘いに多大な投資をしてこなければ、メールはまったく使いものにならなくなっていたでしょう。その状況をSlackに持ち込みたくはありません。

そこでわたしたちは、メールのなかでも特定の用途のために、改善できそうな部分を開拓しています。ビジネスの観点から考えると、完全にメールに置き換わることの利点はありません。それどころか、多くの不利な点があります。つまり、メールプロヴァイダーとして対処しなければならないあらゆる厄介ごとを、そのまま受け継ぐことになってしまいますから。

──つまり、将来的にすべての職場でのコミュニケーションがSlackに置き換わるというヴィジョンではないということですね。

そうです。Slackがいちばん役立つ部分だけです。長期的に見ると、組織はソフトウェアにより多く投資しています。多くのソフトウェア製品が使われており、従業員はソフトウェアにより多くの時間を費やしています。

米国の大企業では、いま平均すると1,000種類以上のクラウドサーヴィスが使われています。当社には従業員が2,200人いますが、450を超えるヴェンダーからソフトウェアを購入しています。製品の数ではなくヴェンダーの数です。驚異的な数と言えますよね。

ですから、実際のところさまざまなコミュニケーション手段があります。理想を言えば、Slackはメールとも統合できます。すでにSalesforceやGithub、アマゾン ウェブ サービス(AWS)とも連携していますから。

システムを統合するためにSlackのような“軽い”ツールを使うと、あらゆるソフトウェアの価値が高まります。かつてわたしたちは上場を目指す過程での投資家向け説明会で、ソフトウェアの予算の1〜2パーセントでも使ってもらえたら、残りの98パーセントか99パーセントのソフトウェアの価値を何倍にもできると説明していました。

──それでは、Slackとメールのさらなる統合が期待できるということですか?

すでにいくつかあります。まだ少しぎこちないのですが、OutlookとGmailの両方に対応するプラグインを用意しています。使い道はいろいろあるんです。

例えば、ある小さな組織がウェブサイトに「jobs@companyname.com」や「sales@companyname.com」といった公開メールアドレスを掲載しているとしましょう。この宛先へのメールをメーリングリストではなくSlackのチャンネルに送るようにすれば、そこからそのまま返信できます。これはこれは数年前から可能になっています。いまはOutlookやGmailのプラグインになっていますが、非公開の転送アドレスを取得する非常に初期のヴァージョンもありました。

こうしてSlackに転送されたメールはファイルのようなオブジェクトとして表示され、共有やコメントなども可能です。さらに最近では、Slackの組織全体への導入に時間がかかる大規模な組織のために、Slackがメールへの橋渡しになっています。

わたしはこれまで話したことがないどこかの組織に所属する人に質問がある場合は、その人がSlackを使っているかどうかを知る必要はありません。ただDMを送信するか、チャンネルでその人をメンションすればいいのです。そうすると相手にはメールとして届き、相手が返信すると、わたしにはSlackで表示されます。

ただし、その相手とわたしはメールアドレスで結びつけられています。このため、その相手がのちにSlackに参加すると、それまでメールで送信したすべてのメッセージは実際にはSlackメッセージなので、履歴でアクセスできます。こうしたプラグインは、メールをSlackに送信するような感じのものです。

わたしが顧客からメールを受け取る場合は、そのメールをSlackに送信することが多いですね。そうすれば、セールスリーダーかカスタマーサクセスマネージャー、アカウントエグゼクティヴがそれを読むので、内容について話し合うことができます。メールで話し合うよりも、Slackを使ったほうが便利ですから。

──これまでSlackは、ビジネスコミュニケーションに重点的に取り組んできました。ビジネス以外での応用にどれだけ重点を置いているか興味があります。業務用アプリだったZoomは、オンラインでの友達とのゲームプレイや誕生日パーティーにまで使えるツールへと急速に進化しました。そしてマイクロソフトは、「Teams」を使って友人や家族と話す新しい仕組みを6月に発表しました。パーソナルコミュニケーションツールとしてのSlackの将来についてどうお考えですか?

これは微妙な違いなのですが、Slackの利用者は、ひとつの目標または複数の目標の達成に向かってまとまったグループだと考えています。例を挙げるとすれば、結婚式の計画や、家事の配分などです。家事の管理には、子どものためにしなければならないこと、買い物リスト、休暇の計画、親戚との集まり、家で何か故障して修理業者に来てもらう…といったことがあります。「Reddit」でのあらゆる機能のようなアフィニティ・グループ(意気投合した人々)用ではありません。

Slackはソーシャルネットワークとは異なり、特定の目的に沿った調整と継続的な会話を生み出すことに重点を置いています。ですから、乳がんのサヴァイヴァーや不妊治療者、またはスタートレック好きなどのグループ向けの優れたツールではありません。

Slackユーザーの割合が格段に多い都市部に目を向けてみましょう。Slackは結婚式の計画やキッズサッカーリーグの編成、家のリフォームプロジェクトにも使われています。こうした人たちが、わたしたちにとっては新たなユーザー層と言えます。さまざまな利用シーンにおいて、Slackのことを「これはいい!」と思ってくれるわけですから。

もし、ウェディングフォトグラファーやケータリング業者などが、結婚式の計画に参加するためにSlackを使うよう5回ほど頼まれたとしましょう。そうすると、「そろそろ使い始めたほうがいいかな」と思うようになります。こうした多くの事例で共有チャンネルが活用されるといいなと思っています。

結婚式の計画が最も優れた活用事例というわけではありませんが、簡単に説明できる代表例です。実際に式を挙げるまでに、ケータリングや料理、音楽、会場、招待状など多くのことにかかわる人々と連絡をとり合い、意見をまとめあげ、さまざまな決定を下す必要がありますから。こうした事例がほかにも何百万とあります。

とはいえ、新郎新婦にとっては個人的な行事で、ウェディングフォトグラファーにとってはビジネスと、意味合いが異なっていますよね。それでもSlackは。すべてを連続的につなぎます。こうした流れが続くことを期待しています。

──それなら、結婚式を計画しているときには、Slack Connectを応用できそうですね。

まさにぴったりです。Slack Connectを利用して結婚式を計画するなら、ウェディングプランナーにはすべてのチャンネルにアクセスできるようにしても、ほかの人たちには完全なアクセス権を与えたくないでしょうから、利用を特定のチャンネルに制限したいと思うはずです。そのための最善の方法はチャンネル共有です。すでにSlackユーザーなら、なおさらでしょう。

最後にお伝えしたいことは、わたしたちの市場シェアがどのような状況かはわかりませんが、米国では大半の研究所がSlackを利用しているということです。気候科学や生物学、物理学など、分野は問いません。大学院のゼミや研究機関、膨大な数の非営利団体、そして今回のパンデミック関連の災害対策調整団体、「Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)」」の抗議活動の組織団体も使っています。

つまり、非営利団体から学術研究、政府、企業での活用事例があるわけです。とても幅広い領域ですよね。でも、InstagramやTwitter、Netflixといった個人的な楽しみのために費やされている時間にとって代わるようなことはどうでしょう? それについては、わたしたちはあまり考えていません。

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TEXT BY ARIELLE PARDES