ビデオ会議は離れた場所で働く社員同士をつなぐ重要な手段だ。反面、リモートワークへの移行が急だったために不要なビデオ会議が多く開かれる傾向も見られ、それが「ズーム疲れ」と呼ばれる状況を生んでいる。
バーチャルであれリアルであれ、「悪い会議」をビジネス上必要なコストとして受け入れるのではなく、その改善を進めることで多くの企業が利益を得られるかも知れない。
『会議の驚きの科学』の著者であるノースカロライナ大学シャーロット校のスティーブン・ローゲルバーグ教授によれば、このコストはたいていの人が思っているより高くついている。
「悪い会議をやってしまうと、バーチャルな会議室の扉を閉じてもそこから離れることができなくなる」と彼は言う。
「頭から離れなくなって繰り返しそのことを考えてしまい、生産性にマイナスの影響を与える」
一方で、会議をより魅力的かつ刺激的なものへと変え、社員の主体的な参加をうながすような新しいツールや賢い取り組みもいろいろと登場している。
以下ではQUARTZのワークショップで取り上げられたリモート会議のコツを紹介する。

Zoom疲れとどう戦うか

これは重大な問題だ。オフィスであれば会議室への行き帰りに切り替えができたものを、在宅ではいつもと同じパソコンの前に座ったまま、会議に次ぐ会議で終わりが見えない状態になっているのが原因だ。
では解決法は? 体を動かすことだ。「会議と会議の間には立ち上がって体を伸ばしたり、家の周りをランニングしたり、気分を切り替えるのに役立つことなら何でもやる必要があることは、いくら強調してもしすぎることはない」とローゲルバーグは言う。
会議をできるだけ短くすることも、Zoom疲れを予防する手だと彼は言う。

人とのつながりを保とう

女性のキャリアアップを支援する非営利団体のフォルテ財団は、約20年前の設立当初から本部オフィスなしで運営を続けている。
CEOのエリッサ・サングスターはもっとパーソナルなやり方でネットの向こうにいるスタッフとの絆を深めている。
例えばリモート会議システムを使い、「ビジネスを初め、決めたり片付けなければならないことをチェックするための本物の会議を開くだけではなく」出産前の仲間のためのパーティーや読書会を開いたりしているのだ。
社員同士のつながりを保つための方法は会議だけに限らないというのがパネリストたちの指摘だ。
声をかける目標が特定のビジネス上の問題を解決することでなく、人とのつながりなのであれば、コーヒーをバーチャルに一緒に楽しむとか電話で話すとか、とにかく1対1でやるようにしよう。
そうでなければ、「体を動かし」「パーソナルな絆づくりをする」というこれまでのアドバイスを組合わせ、一部の会議を「歩きながらおしゃべりする」イベントに変えるのもいい。

「時差ミーティング」を試してみよう

アミア・サリヘフェンディッチは生産性向上アプリTodoist(トゥードゥーイスト)の開発元、ドゥーイスト社の最高経営責任者(CEO)だ。同社では完全な在宅勤務を採用している。
サリヘフェンディッチは早い時期からビジネスチャットのSlack(スラック)を使い始めたが、ずっとネットにつながった状態でチャットを続けるのは「本当にストレスがたまる」ことにすぐに気づいたという。
「特にリーダーとしての私にとっては大きな負担になった。さまざまなタイムゾーンで働いている人がいるときは特にそうだ。四六時中働くことになる」と彼は言う。
そんな働き方に疑問を持った彼はSlackを使うのをやめ、代わりにGoogleドキュメントと電子メールを使うことにした。
リアルタイムではないコミュニケーション手段を使えば、常にネットにつながっている必要もなければすぐに返事をする必要もない。おまけに問題やアイディアをグループに投げれば、相手は自身の仕事スケジュールに合わせてリサーチをし、考えをまとめることができる。
利点は柔軟に動けるようになるだけではないとサリヘフェンディッチは言う。「返事を書く前にじっくり考えるようになり、(職場の)環境がずっと穏やかになる」。
また、途中で邪魔されることなくじっくり取り組めるようになるのもありがたい点だ。

議題はどう決めるべきか?

ローゲルバーグによれば、会議の効率性アップには質疑応答形式が必須だという。議題のリストを用意するだけではあまり役に立たないのは一体なぜか。
まず「会議の目的は何か」を決めなければという考えにとらわれてしまいがちだ。また、出席者の意識が会議の目的にばかり向かってしまう。
「投げかけられた問いに答えるため」という前提のほうが、誰を会議に出席させるべきかよく分かるはず。また、質問への答えが得られたタイミングで会議は成功だし、会議を終わらせていいのも分かる。
もし頭をひねらなければ質問事項が思いつかないなら、たぶん会議は必要ないということだろう。

リモート会議では「質」は二の次?

直接会って話をしなければ、すばらしい仕事もできなければイノベーションも起こせないというのは「いんちき」だと、サリヘフェンディッチは言う。
彼によればドゥーイストの社内では、深く思考しアイディアを書き出し、それをプレゼンする時、人はすごくいい仕事をすることが確認できているという。いずれも実際に対面しなくてもできることだ。
Quartz at workのヘザー・ランディ編集長は、会議の質はどこでやるかよりも何を話すかにかかっていると言う。リモートでうまく行かなかった会議は、対面でやってもうまく行かなかったはずだ。
また、一緒に会議テーブルを囲んだ時と異なり、人と人とのつながりが得られない点はどうしたらいいのだろう。ローゲルバーグは、リモート会議でそうしたつながりができなかったとしても、他にもつながりを作る方法はいくらもあると言う。

沈黙ミーティングのすすめ

ローゲルバーグによれば、会議中に沈黙する時間を取ると、より多くのアイディアや視点が集まる効果があることを示す研究があるという。
例えば会議中にGoogleドキュメントで出席者に資料をシェアし、それからブレーンストーミングをリアルタイムで、それも沈黙のうちに(文字入力で)行うのだ。
そうすると同時多発的にアイディアが出てくるから、自分の順番まで待つことはできないし、考えをふるいにかけている余裕もあまりない。
沈黙は立て込んだスケジュールの中で会議を行うのにも役に立つ。会議中にシェアされた資料について、出席者は発言を入力し、同僚の入力を読み、それぞれの観点をつなげることを1度にできる。
つまりテーブルを囲んで話すのに必要な時間をかなり節約できるのだ。

カメラに映ろう

ビデオ会議だと気が散ってしまうという人は多い。特に同僚が会議中にウロウロ動いて自宅内のあれこれが背景に映り込んでしまった場合はそうなりがちだ。
それでもビデオ会議に出るときは、カメラのスイッチをオンにしておくことは大事だとサングスターは言う。
「同僚たちがバーチャルな会議テーブルを自分とともに囲んでいるのが目に入ると、会議に参加しているという実感が持てる」と彼女は言う。
もし気が散りそうな状況があるなら、ビデオカメラをいったんオフにして、代わりに自分の写真を表示させるといいとサングスターは言う。そうすれば出席していることが誰の目にも分かる。

リモート会議の理想の「時間」は?

「正しい長さ、というものはない」と、ローゲルバーグは言う。分かっているのは、予定時間をどんなに長く取ってあっても、用意されただけの時間を費やしてしまうということだそうだ。
会議を開く際には、数分間を休憩に割こう。(再開の際に)5~10分、会議の内容を巻き戻せば、集中力も高まり、生産性も上がる傾向があると彼は言う。
時間帯については、午前中には集中力や分析力が高まり、午後遅くには創造性が高まるとの研究がある。
ただ、異なるタイムゾーンに暮らす人が参加する場合には、すべての人のリズムに合わせて会議の予定を組むのは難しい。サリヘフェンディッチが時差ミーティングを推奨するもう1つの理由はこれだ。

リモート会議の適正人数は、実は少ない

中身のある対話をしたい場合、会議の参加人数が6~8人を超えると会議の質が低下することに気づくだろうとローゲルバーグは言う。
それでももっと大人数が出席しなければならない場合はどうしたらいいだろう? そんな時はファシリテーター役を用意するといい。
だが忘れてはならないのは、たいていの場合、チームの全員がすべての会議に出席する必要はないということだ。
情報こそ金というこの時代、会議に出席するかどうかで一種のヒエラルキーが形成されかねないが、会議録なり録音データなりを配ることはできる。
そうすれば誰でも会議の内容を聞くことができ、なおざりにされた気分になる人もいないはずだ(リモート会議の時代になって、会議内容の共有は非常に簡単になった)。
少なくとも、組織がリモートでのスケジュール管理や会議運営にもっと慣れるまでは、会議に出ない選択肢も認めるようにすれば、それを活用する社員もいることだろう。
(執筆:Michelle Cheng記者、翻訳:村井裕美、バナーデザイン:月森恭助)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.