(フォーラム)子育て世帯への打撃 新型コロナ

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 新型コロナウイルスの感染拡大による休校措置や休業要請で、子育て世帯はどのような影響を受けたのでしょうか。どの子も安心できる環境で育つことは、みんなが幸せに暮らせるコロナ後の社会につながります。実態を知り、必要なことを考えます。

 ■現金なくカード払い/出産諦めようかと/何見ても泣く子

 フォーラムアンケートに寄せられた声の一部をご紹介します。

 ●昨年離婚、減収認められず

 昨年7月に離婚してひとり親に。8月から今年1月までは目標額の生活費を稼げていましたが、2月以降はコロナの影響で激減。市や国の支援策は「去年の収入と比べて」なので、半年以上主婦だった昨年と、ひとり親で世帯主の今年とではそれほど違いは出ず、支援していただけません。ひとり親になってからの月収で比べたら確実に3割以上減なのに、市役所の方には「収入が減ったのはコロナではなく離婚のせいでは」と言われ、生活も苦しく、理不尽さにつらい思いをするばかりです。(兵庫県・40代女性)

 ●多子世帯にも支援を

 我が家は子ども3人。小学生でも大人並みに食べますし食費だけでも本当に大変。元々ギリギリでやりくりしていた家計でもう本当にお金がなくて……恥ずかしいですが財布の中も空っぽでクレジットカードで食材を買っています。50万円の給付金も支払いだけに消えると思います。多子世帯にも何らかの支援を切に政府に望みます。(福島県・30代女性)

 ●夫が失業で無収入に

 大黒柱である夫が失業。子どもたちは高校と大学に同時入学で、ここから一番お金がかかる時なのに、無収入になりました。子育て支援は、大きい子どもがいる世帯ほど保障してください。子どもたちが大きくなっても親の収入は上がらない時代。日本の子どもたちに大学まで学びの機会を与えて下さい!(千葉県・40代女性)

 ●子ども食堂、遠方からも親子が

 子ども食堂を運営しています。仕事がなくなって親子で食べるものもなくなって、遠いけど来ました、という家族が増えています。せめて毎日食べることができる施策をしなければ、国民が極端にいって餓死してしまいそうです。(東京都・50代男性)

 ●初産、出産諦めようと悩んだ

 妊婦のファミリー学級は中止、出産準備をしたくても買い物に行けない、ガーゼや消毒液が買えないなど、初産で知識のない私にとって、どのように子どもを産んで育てていくのか想像ができず、出産を諦めようと悩み、うつになった。支えになったのは町から届いた使い捨てマスク20枚。定期健診で必要なのでありがたかった。(長野県・40代女性)

 ●塾に行かせるお金ない

 自宅を出て大学1年の長男は大学が始まらず生活費だけがかかり、オンライン授業の準備でお金だけがなくなり、バイトも出来ないので困っている。高校2年の次男もバイトで家計を助けてくれる予定が無期延期。中学3年の長女は受験生なのに塾に行かせるお金がなく、やめてもらうはめに。中学2年の三男は昼夜逆転でゲームざんまい。特に受験生の娘の勉強をどうしていけばよいのかと悩む日々です。(香川県・40代女性)

 ●障がいある子も親も休校に苦悩

 障がいを持っている子の学校がない中、ずっと家庭で子どもを見るのは親も子もとてもストレス。放課後等支援事業を利用できない期間ずっと家で過ごしたら、母親の体調悪化のため父親に負担がいき、子どももストレスで、虐待まではいかなくても、家庭内が険悪な状況になってしまった。(滋賀県・50代女性)

 ●保育園行けず親子でぎりぎり

 幼児がいて保育園の通園ができないなかでリモートワークに切り替えたが、子どもにとってはお友だちと集団生活をおくる日々は本当に大切なものだと痛感した。自粛要請は3週間だったが、最後の1週間は子どもが何を見ても泣きだし、おねしょをして、コロナという言葉は聞きたくないと話し、親子ともにぎりぎりだった。(沖縄県・40代女性)

 ●高校生、孤独で虚無感

 高校生です。両親は在宅勤務。いつもパソコンに向かっていて、気軽に話しかけることができません。2週間に1回ほど、どうしようもなく孤独で虚無感に襲われることがあります。一人で泣いてしまって夜眠れなかったことも。SNSで友人とつながることはできても、その場しのぎの対処でしかない。ストレスをどうすればいいのか、対処法がわかりません。(大阪府・10代女性)

 ■ひとり親、入学金払えず

 神戸市の自営業の女性(47)は、一人息子(15)を育てるシングルマザー介護が必要な父親と3人で暮らす。管理栄養士の資格を持ち、企業などの健康診断での保健指導を請け負う。3月、約30万円が手元に入るはずだった104件の仕事が、新型コロナウイルスの感染拡大防止の影響ですべてキャンセルされた。

 息子は私立中学から高校へ内部進学するつもりだった。しかし、入学時納付金50万円を払えず、急きょ公立高校を受験。不合格だった。中学浪人し、いまは週1回、地元の無料学習支援の場に通っている。

 女性は交通事故や離婚、病気を経験し、一時働けなくなったが、体調が回復した昨夏、支援団体から食料をもらいつつ、保健指導の仕事を始めた。少しずつ依頼が増え、暮らしが安定しそうだった矢先のコロナ。5月の手取りは1800円、6月は8千円だった。

 元夫から養育費はもらえず、児童扶養手当と父親の年金が生活を支える。住居確保給付金で約2万円が支給されたが、家賃は6万5千円。20万円の緊急小口資金貸し付けや、1人10万円の給付金は電話代や生命保険料、家賃などの滞納分に充てた。役所で生活保護を勧められた。「抜け出せなくなるのが心配だから仕事を頑張ります、と答えた」という。

 フリーランス向けの持続化給付金は、想定していた額の3分の1程度で、支給時期も見通せない。「どんな職業でも、休業要請されて急に子育て費用の負担が大きくなる。困っている時にすぐに助けてほしい」

 大阪市の女性(38)は、中学1年と高校1年の子ども、無年金の両親を養っている。週1日休みの正社員で手取り月20万円。ボーナスはない。会社は休業せず収入は減らなかったが、休校で食費がかさんだ。就学援助や学費補助など、使える支援はすべてもらっている。「でも、元々収入が少ないので、生活が苦しい。継続的に児童扶養手当を増やしてもらえられると助かる」という。

 ■官民が支援、「食費の相談多い」

 子育て世帯への緊急施策は、現金給付と食の支援を中心に自治体で独自に始まっている。兵庫県明石市は4月上旬、新年度の休校決定とほぼ同時に低所得のひとり親に給付する児童扶養手当の上乗せを決め、5月に約2100世帯に5万円を支給。これを知った他県の親が自分の住む自治体に問い合わせるなどし、追随する動きが各地に拡大。国も5万円の臨時特別給付金を決めたが、支給は8月以降の見通しだ。

 さらに同市は、「コロナ中退」の危機にある大学生、専門学校生らに、前期学費分として100万円を上限に無利子(保証人不要)で貸与を始めた。

 また、世帯収入に関係なく給食費を一定期間、無償化する動きも広がっている。埼玉県行田市大阪府泉佐野市奈良県御所市などは小中学校の給食費を今年度無償にした。困窮家庭の子に1人10キロの米(愛知県豊明市)、弁当などを提供する子ども食堂への補助(大阪府豊中市八尾市鹿児島県など)といった取り組みも始まった。

 民間では、子どもの貧困対策に取り組む公益財団法人「あすのば」が、公的支援が手薄い高校生の緊急支援として住民税非課税世帯に1人4万円を支給する。1200人の枠に全国から5856人が申し込んだ。書類には「助けてください」の言葉とともに、「通学費が払えない」「これ以上借金できない」と切迫した様子が書き込まれていたという。小河光治代表理事は「氷山の一角です。家庭に教育費を任せきりにしている構造的問題があぶり出された」と指摘する。

 元々困窮する家庭は、食費以外に切り詰める手立てがほとんどない現実がある。NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西」の山口絹子代表は、「とにかく食費の相談が多い」という。団体では寄付で集まった米やクオカード、マスクなどを箱詰めして送る。「選挙中はどの候補者も子育てに優しい街にすると言っていたのに全然優しくないことが分かった、というお母さんたちの声を聞く。思いを受けとめ、すぐ施策にしてほしい」と話す。

 ■所得少ないほど減収幅大 山野良一・沖縄大教授が結果分析

 児童福祉に詳しい山野良一・沖縄大教授に朝日新聞デジタルのアンケート結果を分析してもらいました。

    ◇

 衝撃的だったのは、元々所得の低かった人ほど減収幅が大きく、生活が急激に悪化している点です。子育て中の年収400万円以下の世帯をまとめてみると、減収した人が7割。年収200万円未満の世帯に限ると、3割の世帯で収入が5割以上減っていました。一方、年収600万円以上の世帯は、約6割が「変わらない・増えた」と回答、5割以上減収したのは2.5%でした。

 ストレスを感じることについて、回答者全体では、感染や外出自粛に関することが多かったのに対し、子育て世帯に限ると、減収幅が大きいほど学費や生活費、仕事面の変化を挙げる割合が高い。「家庭内の緊張が高まった」と回答した人も2割前後いました。

 教育や生活の費用は子どもの「生存」に直結します。これらを保障しなければ、命や健康の格差の固定につながります。公的な支援として、1人当たり10万円の特別定額給付金や、困窮者に無利子で最大20万円の生活費を貸し出す「緊急小口資金」、休業中の人も受給できるようになった「住居確保給付金」などがあります。しかし、期間は限定され、貸し付けは不安定です。低所得であるほど回復に時間がかかります。そもそも、戻る先が「低所得」でいいのでしょうか。

 今回のアンケートからは、子育て世帯の負担は重く、平時から支援を手厚くする必要があることが分かります。児童手当やひとり親を支援する児童扶養手当は、国際的にみて給付額が少ない。自治体によって差がある学費や給食費など、現物給付の拡大も進める必要があります。

 回答の中で「息抜きできる場所の確保」や「オンライン授業の環境整備」に期待する声が大きかったのは、学校、保育園や幼稚園、学童保育など家族以外の人と関われる子どもの居場所があってこそ子育てできる時代であることを裏付けています。子どもを見守る目を確保するためにも、第2波に備え、公園や子育て支援施設、学校などは全面閉鎖ではなく順番に利用できる方策を用意しておくべきです。(聞き手・中塚久美子

 ◇子育て中で年収200万円未満の世帯が、所得が減る事態に直面したらどうなるか。親子の気持ちに思いをはせ、一人でも多くの人に自分事として向き合って欲しいです。国民生活基礎調査では1985年以降、児童のいる世帯の平均年間所得は500万~700万円台を推移していますが、母子家庭はずっと200万円台です。どんな家庭に生まれても安心して学べる環境と、普通に働きながら子育てできる社会が望まれていると、アンケート結果からも読み取れました。コロナで現実があぶり出された今、やるべきことが明確になったと思います。中塚久美子

 ◇来週12日は「監視?見守り?」を掲載します。

 ◇山本奈朱香も担当しました。デジタルアンケート「赤ちゃんに困ったときは?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施中です。

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