【新】出版不況時代にミリオン8冊。「サンマーク出版」の秘密

2020/7/10
まるで預言者のように、新しい時代のムーブメントをいち早く紹介する連載「The Prophet」。今回登場するのは、サンマーク出版社長の植木宣隆(「隆」は旧字)氏だ。
出版業界が「斜陽産業」と言われるようになって久しい。この25年で、業界全体の売り上げは半減した。
しかしこの間、サンマーク出版では実に8冊の「ミリオンセラー」を出している。10万部に届けばベストセラー、5万部でも御の字といわれる時代に、社員数が50人に満たない出版社としては異例の業績だ。
そのラインアップを見ていると、他にも興味深い点が目につく。数年に一度のペースで着実にミリオンが出ていること。また、その本がデビュー作という「(当時は)無名」の著者が散見されること……。
この快挙は、いかにして成し遂げられたのか? 本連載では、自著『思うことから、すべては始まる』(サンマーク出版)を上梓したばかりの植木社長に、「売れるものづくり」のエッセンスを、全3回で解き明かしてもらった。
植木宣隆(うえき・のぶたか)
株式会社サンマーク出版代表取締役社長。1951年、京都生まれ。京都大学文学部独文科卒業。株式会社潮文社を経て78年、サンマーク出版の前身である株式会社教育研究社に入社。戦後2番目(当時)の大ヒットとなった春山茂雄著『脳内革命』を手がける。2002年から現職。

25年で「変わらなかった」こと

──この25年間は、出版業界のダウントレンドが続く一方で、インターネットやスマートフォンの普及により社会が大きく変化した時期でもありました。その中で「売れる本」の要件はどのように変わってきたのでしょうか?
植木 「変わるもの」と「変わらざるもの」がありますよね。
「変わらざるもの」としては、やはり「人間の本質」に迫るもの。自分自身の心や身体といったものに向き合うことで、自分の人生をより良くしたい。そのためのヒントがほしい……というニーズは、いつの時代も変わらずあるものです。
一方、その時々で「その時代の風をまとった本」が売れるということも言えるでしょう。
われわれのミリオンセラーの中で、私自身が最初から最後まで関わったのは、編集者時代に手がけた『脳内革命』と、その続編の2冊だけ。
それ以降は、各編集長や編集者がその時々の風をまとった価値観を出してくれて、そこに「変わらざるものを追い求める」というわれわれのDNAがうまく融合したときに、メガヒットが出てきました。
先日、長い付き合いのある出版社の社長さんから「(サンマーク出版のヒット本は)今も全部、植木さんの肝いりの企画だと思っていた」と言われたのですが、そういうわけではないんですよ。
そもそも、編集者なんて「社長になんだかんだ言われたくない」という種族ですから。私自身がペーペーの編集者からやってきたので、その感覚はよくわかります(笑)。
(BrianAJackson/iStock/Getty Images)

「エネルギー」で勝負する

私の持論では、本とはひとつの「エネルギー体」のようなものです。そのエネルギーが大きいほど、多くの読者をひきつけます。