ピンポイントで優秀な人材を確保する

フォーチュン500企業で、新しいソリューションの導入を監督するために採用されたソフトウェアエンジニア。2つの大企業の合併に際し、従業員関連の問題に対処するために招かれた人事の専門家。壊滅的なデータ漏洩を食い止めるために呼ばれたサイバーセキュリティの専門家。
彼らはギグ・エコノミーに属すると言えるだろうか──。
彼らが採用されたポジションは永続的なものではないが、その本質を説明するには、ギグ・エコノミーという言葉では明らかに足りない。彼らは「オルタナティブ・ワークフォース(代替的労働力)」と呼ばれ、ギグ・ワーカーや高度な訓練を受けた請負契約業者など、あらゆる独立した働き方が含まれる。
現在の経済において、企業が求める人材要件は厳しくなり、それを満たすことがますます困難になっているなか、企業は労働力を構築する新しい方法を模索している。
高度なスキルを持つ労働者を特定のポストに採用することによって、優秀な人材を確保し、労働力を合理化して、これまで以上に効果的かつ効率的にプロジェクトを遂行できるだろう。
そこで、こうした代替的労働力が今後も確実に成長する3つの理由と、彼らを最大限に活用する戦略を見ていこう。

1. 私たちは専門化の時代を迎えている

この20〜30年で、アメリカの職場は劇的な変化を遂げてきた。たとえば、容赦のないデジタル化は、企業の消費者との関わり方や社内プロセスの管理などを根本的に変えている。
情報セキュリティは昔から重要だったが、企業が膨大な量の消費者データにアクセスし、あらゆる種類の侵入に対して脆弱な多種多様な接続デバイスに依存している現在では、はるかに複雑で重大な問題になっている。
このような変化に対応するには、ますます専門性の高い人材が必要となる。
プライベート・エクイティ業界でこの変化に気づいたショーン・ムーニーは、2016年にパートナーの地位を手放し、専門的なサードパーティーの人的資源と特定のスキルセットを必要とする企業を結びつける顧問会社ブルーウェーブを立ち上げた。
「プライベート・エクイティの世界で過ごした20年間に、企業内の一時的な必要に関連する問題を数え切れないほど見てきた。一方で、投資している企業の業績が急激に悪化したこともある。経営者は、自分の会社を次のレベルに引き上げるために必要なスキルセットを、すべて持っているわけではない。
では、どうすればいいのだろうか。短期的なサードパーティーの人的資源が必要だが、企業がサードパーティーを利用するプロセスは厄介で断片的だ。彼らは迅速かつ効率的に解決策を提供できる専門的なグループや個人を必要としていた」
必要なスキルセットを見極める
たとえば、データ保護責任者のような仕事は一般的になり、一方でサイバーセキュリティやデータ管理に精通したマネジャーの需要は高まっている。
2019年にHRピープル+ストラテジーが実施した調査でも、インディペンデント・ワーカー(独立した労働者)を採用する利点として2番目に多い回答は「より専門的なスキル」を企業にもたらすことだった。
マーケティングエージェンシーのコアクトは、代替的労働力を利用して一時的なニーズに対応し、マーケティングと広告の短期プロジェクトを手がけている。創業者でパートナーのビリー・デックは、エンターテインメントとホスピタリティ業界で20年間経験を積んで起業した。
「現在の環境では、クライアントは大手代理店の不要な経費を背負いたくない。私たちはニーズを見極め、迅速に対応し、クライアントの要望に合ったクリエイティブな人材の専門チームを構築できる」
代替的労働力の専門的な才能を最大限に活用するために、企業は自分たちがどのようなスキルや経験を求めているのか、正確に見極める必要がある。
特定のプロジェクトに何が必要なのか、どのようなチームメンバーを探しているのか、マネジャーなど社内の従業員と率直に話し合う。さらに、新しい人材がどこで必要とされ、既存の人材をどこで新たに活用できるのかを正確に把握するために、社内の能力を徹底的に評価する。
成功するためには、インディペンデント・ワーカーとそれ以外の労働力の協調を促進することが不可欠だ。

2. 一流の才能は簡単には手に入らない

専門スキルの需要の急増、低い失業率、労働者に優しいビジネス環境を考えると、一流の人材の発掘と採用はかなり難しくなっている。
採用代行会社シエロが実施した人材獲得に関する世界的な調査によると、企業の最高幹部や人事責任者などビジネスリーダーの70%が、人材プールは縮小していると答えた。また54%の人が、空席のポジションがかつてないほど多いと回答している。
ビジネスのニーズが複雑になるほど、問題解決に必要なスキルが複雑になるため、最も優秀な人材を確保することは非常に難しいとムーニーは言う。
「短期のプロジェクトに解決策を提供できる人材が足りないだけでなく、適切なタイミングで適切なスキルセットを見つけることも難しい。
見栄えを競う求人掲示板では、そのような能力やプロジェクトに適応するかどうかを評価することはできない。そこで私たちは、成果のデータと人の手による創意工夫で、求めるニーズを調整している」
労働市場の変化に動じない
言い換えれば、ギグ・エコノミーはコモディティ化されたスキルセットには有効だが、複雑なスキルセットには向かないということだ。
ブルーウェーブはそこに目をつけて共感を得ているようだ。同社は創業から比較的短い期間で、北米全域の300以上のプライベート・エクイティ・ファンドから頻繁に依頼を受け、そのギャップを迅速かつ効率的に埋めている。
シエロの調査では、回答者の65%が「今はフルタイムの雇用者がやっている仕事のかなりの部分を、柔軟な勤務体制の労働者や派遣労働者、プロジェクトごとの契約者が引き継ぐことになる」と予想している。
デロイトの調査レポート「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2019」も、代替的労働力は「人材市場が逼迫するなかでも成長し、主流になっている」と指摘する。
労働市場は常に変化しやすいが、代替的労働力は影響を受けない。これは、現在の労働市場が短期的なプロジェクトベースの雇用に有利だからというだけではない。彼らは経済環境に関係なく、独自の強みを数多く持っているからだ。
そのおかげで、企業は特定のプロジェクトを中心にチームをつくり、状況の変化に応じてそのチームを調整しながら、適材適所の人材配置で生産性を最大化できる。

3. ネットワークの力を利用する

求職者と企業をつなぐサービスは数多くあるが、代替的労働力は優秀な人材同士のネットワークをより重視する。
これは代替的労働力の性質によるもので、請負契約はプロジェクト単位で雇用されるため、会社を頻繁に変わる。ここでは労働者と雇用者の双方にとって、透明性と説明責任が不可欠になる。
コアクトには、専門性の高いブティック型企業やフリーランサーが、世界中から250件以上登録している。デックは次のように語る。
「優秀な人材の多様なプールがあるおかげで、私たちのクライアントはニーズを満たす適切な人材にアクセスしやすい。社内の人材や限られた数のフリーランサーが1つの解決策を提供する、従来のエージェンシー型ではない。
さらに、私たちはクライアントが成果物に対して説明責任を果たせるように支援する。これもネットワーク効果の利点の1つだ」
知的なネットワークは拡大し続ける
デロイトによると、専門的な人材ネットワークは「20億ドル超のアウトソーシング業務を扱い、世界のあらゆる地域で数億人を雇用している」。
急速に変化する経済の需要に対応しようとする企業を、代替的労働力が支え続けていることを考えれば、これらの数字は今後も増加するだろう。
結局のところ、代替的労働力は人間関係がすべてだ。
情報が集約された知的なネットワークは、彼らを取り巻く環境をできるかぎり健全に保つだろう。彼らのネットワークは拡大を続け、企業はこれまで以上に、専門性の高い一流の人材にアクセスできるようになる。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Rebekah Iliff、翻訳:矢羽野薫、写真:Peshkova/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.