根幹にある文化的な要因を知る
一般的な燃え尽き症候群だけでなく、パンデミックをきっかけとした燃え尽き症候群も見られるようになっている。
新型コロナウイルスによって生活が翻弄されるようになって以来、多くの人たちの仕事環境が劇的に変化した。一方で、仕事の厳しさは変化していない。
フルタイムの仕事と家庭生活と、家に閉じ込められるストレスとを何とかやり繰りしようとすることで、燃え尽きるリスクがかつてないほどに高まっている。
ラハフ・ハーフーシュはデジタルと人間との関係を考えるデジタル人類学者で、著書『ハッスル・アンド・フロート(Hustle & Float)』では、燃え尽き症候群について探求している。
ハーフーシュは、燃え尽き症候群に対処するには、疲労や不安といった症状を治す以上のことが必要だという。
単に、休息や運動や健康的な食事を取り入れるだけではなく、いまこそ燃え尽き症候群の根幹にある文化的な要因を解析し、抜本的な対策を取るべきだという。具体的には「仕事を減らす」ことだ。
では、どのようにすればよいのか。彼女の説明を聞こう。
何もしていない時間は本当に無駄か
――『ハッスル・アンド・フロート』では、燃え尽き症候群の起源について調べていますね。どのような原因があるのでしょうか。
産業革命以降、仕事観は生産性を中心に築き上げられてきました。成功するうえで重要な唯一の指標が、生産性となってきたのです。
私たちは「何もしていない時間は無駄な時間である」という考え方を身につけ、それどころか、必死になり、忙しくしていなければ、成功など得られないと信じるようになりました。いまや、仕事との関係は、自分自身や自分の価値と結びつけられるようになっています。
しかし、こうした考え方は科学的な研究とは相反するものです。研究では、知識労働者が仕事でベストを尽くすためには、空いた時間や自由な時間が必要だということが示されています。
――現在のパンデミックが、こうした状況をどのように悪化させていると思いますか。
長年、仕事観の基盤にある構造が私たちを傷つけてきました。
慢性的な過剰労働の文化に、テクノロジーやソーシャルメディアにつきものの集中力の分散が組み合わさり、しかもそれが在宅を強いられている時に起こると、不安や苛立ちが増幅されていきます。こうなると、人々は燃え尽き症候群にまっしぐらです。
――仕事を減らすことで、このサイクルがどのように断ち切ることができるのでしょうか。
私たちは、脳の実際の機能の仕方、そしてクリエイティビティに必要なものを取り入れた働き方を構築する必要があります。それは、仕事のプロセスに「リカバリー(回復)」を組み込むことから始まります。
人はクリエイティブでなければ、イノベーションは起こせません。そして、クリエイティブであるためには、ストレスを受けていたり、疲れきっていたり、集中力が欠けていたり、睡眠不足であったりしてはいけません。休息を取ることは目標から遠ざかることではなく、むしろ目標の実現を可能にすることなのです。
だからと言って「頑張るな」とは言っていません。私が言いたいのは、パンデミックであろうとなかろうと、一生懸命にプレイしたあとには、一生懸命にリカバリーすることが非常に重要だということです。
時間が増えたと錯覚、健康への影響も
――リモートワークの期間に休息が不足すると、特に危険なことはありますか。
いまは平常時とは異なります。ですから、いまのリモートワークを平常時の在宅勤務のように扱うべきではありません。
突然に活用できる時間が増えたとの認識が生じているため、生産的であれというプレッシャーが強まっています。そのため、家庭と仕事の境界線、個人と職業人としての境界線はぼやけています。しかし、時間が増えたわけではないですし、単純に休まずに働き続けるのは無理なことです。
私たちは「忙しさ」で仕事に対処するという仕組みを築いてきました。いまや、人々はそのやり方を外出制限中での個人の時間にまで適用しようとしています。立て続けのズームでの会話、お菓子作り、トレーニングなどの活動で時間を埋めようとしているのです。
こうした時間の一部を、感情を処理するために使ったり、生産性第一主義から生じる辛さに向き合ったりするのに使うことが大切です。平常時のように動いたら、仕事にマイナスの影響が生じるだけではなく、健康も損なわれます。
――では、どうしたら平常時のように動くのを避けられますか。このことで、上司を味方につけるにはどうしたらよいでしょうか。
誰もが実行できるステップがあります。たとえば、昼食の30分間、何の刺激もなしに過ごすこと。メールもなし、チャットツールのスラックも使わない。刺激となるものは何もなくします。15分間から始めてもよいです。認知機能がリラックスする時間を取れるかどうかは、自分次第です。
続いて、上に向かってのマネジメント「マネージアップ」を検討しましょう。上司に対して、自分たちに何が期待されているのか、はっきりと質問します。暗黙のルールから書面でのガイドラインに移行して、このリモートワーク期間をどのように過ごしていくか、全員が理解できるようにするのです。
「リカバリーの時間」を自分に課す
――働き方についての文化は一夜では修正できません。「燃え尽きた」と感じている人たちにはアドバイスをお願いします。
自分が感じている辛さに注意を向けましょう。落ち着かなさ、不安、罪悪感などがあるなら、それに向き合って、背後に何があるのかを掘り下げてみることです。
そして、時間をとって「働けば働くほどよい」というアプローチから「リカバリーは仕事と同じくらい大切だ」という考え方にシフトする必要があります。
これは自分で実行しなければなりません。リカバリーのための時間をカレンダーに書き込んで、それをきちんと実行する。もしできなかったら、その理由を書き出すことを自分に課します。
仕事への献身と燃え尽き症候群から抜け出すために真に実行すべきなのは、なぜリカバリーの時間がつくれないのかを理解することです。知識が欠けているからできないというわけではないのです。
もう一つ提案したいのは、個々の業務に実際どのくらいの時間が必要か、時間を測ることです。こうすることで、現実的な「やることリスト」をつくることができ、仕事量に圧倒されるのを避けられます。
忘れないでほしいのは、時間には制約があるのに、私たちはいつも自分の能力を大きく見積もり過ぎるということです。この点は修正できるはずです。
――働く人が忘れてはならない真実とは何でしょうか。
熱心に仕事をするなかで、意図的かつ戦略的にリカバリーの時間をワークフローの中に取り入れないならば、長期的には間違いなくアウトプットが損なわれるということです。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Lindsey Tramuta、翻訳:東方雅美、写真:wildpixel/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.