【猪瀬直樹】コロナ対応の「失敗の本質」は何か

2020/7/7
2021年9月に自民党任期満了を迎える第二次安倍政権。
「布マスク2枚配布」「所得減少世帯限定・自己申告制の現金給付」「緊急事態宣言の遅れ」など、新型コロナウイルス感染症への対応でも国民の不安を高めたが、現政権が抱える問題とは。
7月10日に作家生活40年の集大成とも言える『公〈おおやけ〉日本国・意思決定のマネジメントを問う』を上梓する猪瀬直樹氏に聞いた。

コロナ禍の安倍政権「2つの問題」

昨日の記事で、僕は小池百合子都知事について、「何のために生きるのかという目的がない人間」と語りました。
【猪瀬直樹】小池百合子さんには、二度と騙されない
では、憲政史上最長の在任期間を更新し続けている安倍晋三総理大臣はどうか。小池都知事はポピュリズムだが、安倍首相は必ずしもポピュリズムではない。
安倍首相は「忖度」などで官僚を操作しているようで、逆に操作されているのが実状ではないか。
コロナ禍でも、安倍政権の課題がいくつも浮き彫りになりました。
まず1つ目は、初期対応での危機感の弱さです。
1月30日に第一回新型コロナウイルス感染症対策本部の会合が開かれましたが、前日に武漢からのチャーター便で206人が帰国しているなか、会合はわずか9分間と極めて薄い危機意識が見てとれます。短い時間で議論ができるわけもなく、官僚が用意した原稿を読み上げるだけでした。
その危機意識のもと、感染症の専門家を中心とした12人の医療関係者により構成された、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が設置されたのは2月14日。
ダイヤモンド・プリンセス号が横浜沖に寄港したのは2月3日。専門家の知見を生かす機会を逃し、初動が遅れたと言われても否定できないでしょう。
コロナ禍での安倍政権の問題点の2つ目は、2月27日に突如発表された全国小中高の休校要請における意思決定プロセスの不透明さです。
同日行われた15回目の対策本部の会合はわずか10分間。そのわずかな時間に、3月2日からの全国全ての小中高の臨時休校が要請されました。
突然の発表に現場は大きな混乱に陥りました。萩生田光一文部科学大臣は国会での野党議員からの質問に「一斉休校については当日まで知らなかった」と答えています。
文科相も知り得ぬ決定はどこで決まったのか。意思決定のプロセスがまったく見えません。

「一斉休校」要請の舞台裏

文科省の藤原誠事務次官らから一斉休校の報告を受けて、萩生田文科相は安倍首相に「準備ができていない」と主張しました。首相と萩生田氏の横で話に加わっていたのが、今井尚哉首席秘書官兼首相補佐官です。
ここから推察されるのが、一斉休校を決めたのは安倍首相と今井秘書官、というより今井秘書官の提言を首相が丸呑みしたということです。
首相官邸に入る安倍晋三首相と今井尚哉秘書官(写真:時事)
今井秘書官は経済産業省で資源畑を歩み、東日本大震災後の原発再稼働に奔走した人物です。
第一次安倍内閣で秘書官となり、内閣が1年で崩壊したのちも安倍さんと交流を続け、第二次安倍内閣で再び秘書官となりアベノミクスを立案して、官邸の中枢を担うようになります。
「一億総活躍社会」も今井秘書官の発案です。2019年には政策企画の総括担当の首相補佐官を兼任するようになった今井氏。「総理は今井の操り人形」と週刊誌にレッテルを貼られるまでに存在感を増しています。