子ども部屋に「初出勤」

タイロン・グレアム(41)が2016年に転職したときは、事務スタッフがロンドンにある真新しいオフィスを案内してくれた。同僚に紹介され、自分のデスクを教えてもらい、会議室を見てまわり、一杯ずつ豆を挽きミルクを温めるコーヒーメーカーの使い方を習った。
5月にグレアムは別の会社に移ったが、今回「初出勤」した先は自宅の子ども部屋で、「オフィス」にいるのは彼ひとり。デスクは前日に物置で湿気た材木を見つけ、自分で作ったものだ。
コーヒー? 10歳の息子がときおり部屋をのぞき、「お茶飲む?」と聞いてくれる。
「様子を見ながらのスタートでした」と、グラハムは言う。
「すぐに仕事に取りかかれるようにノートパソコンや電話など必要な機器は送ってもらっていましたが、僕は最初から在宅だし、会社がいきなりテレワークに切り替わったのもあって、トラブルがけっこうありました」

不安があれば上司に確認

コロナ危機で世界経済が麻痺し、数百万人が仕事を失うなかでも、一部の幸運な人は転職先を見つける。
しかし、ヘッドハンターからキャリアコーチに転身したジーナ・エヴェレットによれば、慣れない職場でテレワークをしながら仕事のリズムをつかむのは非常にむずかしいという。
新人は自分になにが求められているのか積極的に探り、気になることは定期的に上司に確認したほうがいいと、エヴェレットは勧める。
「会社にいれば、的外れなことをしても、上司や同僚のボディーランゲージや言葉からそれと気づくものですが、在宅ではそうはいきません」
エヴェレットによると、新入社員が上司に聞くべきこととは次の通り。
・ロックダウン(都市封鎖)による在宅勤務中、あなたならエネルギーと関心をどこに集中しますか?
・最初の3カ月の評価基準を教えてください。
・昇進に響く行動や習慣には、どういうものがありますか?
・これだけは知っておけということを教えてください。

歓迎の気持ちはまめに表現

入社から1カ月が過ぎても同僚とのやり取りはほとんどに業務連絡に終始し、なかなか人柄を知るチャンスに恵まれないとグレアムは言う。
だが、これはそう悪いことではないかもしれない。会社側は無理に「オンライン歓迎会」を開くより、新人をなるべく早くプロジェクトに参加させることが大事だとエヴェレットは指摘する。
「プロジェクトに参加させるといっても、それは一発アウトのテストではなく、むしろ実地で仕事を覚えてもらうためだと明確に伝えてください」
歓迎の気持ちはできるだけまめに示したいが、モノを言うのは小さな気づかい。グレアムのもとにも、高級チョコレートや会社のロゴ入り水筒が詰まった「歓迎ギフト」が届いた。また、全社規模のオンライン会議で紹介されたおかげで、みなに存在を知ってもらえた気がしたという。
リモートワークの新人のストレスを減らし、なるべく早く会社になじんだと安心してもらうには、会社側が通常以上に細やかな研修を心がけるべきだとエヴェレットは言う。その際、負担がかかりすぎるかもしれないので、直属の上司1人に指南役を押しつけてはいけない。

上司以外のメンターをつける

新人にはベテラン社員を非公式のサポート役につけ、社内の決まりごとや習慣を教えよう。たとえば、夜ログアウトしても白い目で見られない暗黙の「終業時刻」も、そうした決まりごとの1つだ。
会社がサポートをつけてくれない場合は、新人みずからメンターを探すといいだろう。ただし、メンターとの関係はあくまでもビジネスライクに。相手が先輩だからといって、人間関係の愚痴を何時間も聞く必要はない。
グレアムの仕事環境はまだ完璧とはいえない(「新入りだからか、IT関係の支給やサポートはかなり後回しにされました」と、彼は言う)。だが、ペースはつかめてきた。
DIYの机は木材が乾燥するにつれてひび割れてきたが、ロックダウンの解除までグレアムと家族を見守ってくれるだろう。
「机を作っていたときは、新しい机なんて贅沢ねと言っていたパートナーが、今じゃ自分でしょっちゅう使っているんです」と、グレアムはまんざらでもなさそうだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jess Shankleman、翻訳:雨海弘美、写真:Ljupco/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.