2020/8/8

【アットコスメ 社長】「会社」はもう解散したほうがいい

田村 知子
niwa no niwa エディター&ライター
化粧品クチコミサイト「@cosme(アットコスメ)」を日本最大のコスメ・美容の総合サイトに進化させ、EC事業、実店舗のほか、SaaS型のマーケティング支援サービスなどを展開するアイスタイル。

1999年7月の創業以来、生活者情報を一気通貫して分析できる独自のデータベースを構築し、ユーザーとメーカーをつなぐことで、「生活者中心の市場創造」を目指してきた。ITバブルの崩壊や現在のコロナショックに直面しても、そのビジョンは揺らがない。

インターネット黎明期から業界の常識にとらわれることなく、果敢に変革に挑んできた創業者・吉松徹郎氏に、「マーケットデザインカンパニー」を掲げ続ける経営哲学を聞いた。(全7回)

「ドーナツ」を積み上げていく

アイスタイルの会社としての在り方を、僕はドーナツを積み上げていくように例えています。
ITベンチャーの中には、次々とさまざまな新規事業を立ち上げて、成功したら拡大して、失敗したらすぐに撤退、というふうに、陣地を広げていく感じで成長してきた企業も多いでしょう。
でも、アイスタイルの場合は、業界横断の生活者データベースをもとに、美容領域でバーティカルに事業展開していくという、どちらかというと高さを積み上げていくことで成長する事業モデルが創業時からはっきりしていました。
それぞれの事業が真ん中に穴が空いたドーナツのかたちをしていて、アイスタイルが大事にしている核の柱に、その穴を通して重ねていくイメージです。
吉松徹郎(よしまつ・てつろう)/アイスタイル 社長兼CEO東京理科大学基礎工学部卒業。アクセンチュアを経て、1999年7月にアイスタイルを設立し、社長に就任。同12月、コスメ・美容の総合サイト「@cosme」オープン。2012年、東証一部上場。現在は、アイスタイル芸術スポーツ振興財団を通じ、芸術・スポーツ分野への助成支援を行うほか、経済同友会幹事も務める。「EY Entrepreneur Of The Year Japan 2018」Growth部門特別賞受賞。
アイスタイルグループは現在、@cosmeに関連するサービスを中心としたメディア・広告事業、ECサイトや化粧品専門店などの小売事業のほか、それらの海外展開、人材派遣や投資育成などの事業を展開しています。
各事業の規模やスタイル=ドーナツの大きさや形は違っていても、重ねて上から見たときには、真ん中の穴がまっすぐに通っていれば、非常に安定して、事業を重ねていくことができます。
そうして事業を積み上げることで、アイスタイルの価値と存在意義を高めています。

「リアルの再定義」を模索

コロナ禍で先の見通しが難しい現在ですが、世の中はますます変わっていくでしょう。
それは不可逆的な流れで、ドイツの哲学者・ヘーゲルが提唱した「弁証法」にある螺旋的発展のように、螺旋を描くように変化して、違うステージに上がっていく。
吉松徹郎(よしまつ・てつろう)/アイスタイル 社長兼CEO
東京理科大学基礎工学部卒業。アクセンチュアを経て、1999年7月にアイスタイルを設立し、社長に就任。同12月、コスメ・美容の総合サイト「@cosme」オープン。2012年、東証一部上場。現在は、アイスタイル芸術スポーツ振興財団を通じ、芸術・スポーツ分野への助成支援を行うほか、経済同友会幹事も務める。「EY Entrepreneur Of The Year Japan 2018」Growth部門特別賞受賞。
化粧品業界を考えると、かつては個人が訪問販売で売っていたものが、店舗販売や通信販売を中心に組織で売るかたちへと変化してきました。
しかし、SNSが浸透したことで、かたちを変えて、またインフルエンサーなどの個人が影響力を持つようになっています。「個人の信頼をベースにモノが売れていく」というスタイルです。
ただ、売るツールや場所などが変わることで、そこに新しい価値が加わってきているのだと感じています。
2018年12月に開催した@cosme beautyday
そうした中で、アイスタイルの新しいスタイルをいかに考えていくかが問われています。そのときにキーとなるのは、リアルの事業をどれだけ再定義できるかだと思っています。
アパレル業界ではすでに、CECIL McBEEの直営店やH&Mグループの実店舗が撤退を表明するといった動きが出ています。
化粧品業界もあらためて店舗の価値を問い直し、店舗があることが経済合理性を高める、という事業の在り方を再定義していかなければいけない。
それは単にECにシフトするとか、Amazon Goのように店舗をデジタル化するといったことではないんですよね。
例えば、第1回でお話ししたオンライン美容部員プロジェクトは、店舗のオンライン化(小売りのDX)という新しいスタイルを模索するものです。
新型コロナショックにより、世の中のさまざまことが一変しました。働き方もその1つです。テレワークが一気に進み、オンラインでのコミュニケーションも浸透しました。
20年以上前からITを活用してきた僕ですら、当初はここまでテレワークやオンライン化が加速するとは思っていませんでした。
どうしてもそうせざるを得ない強制力が働けば、意外とできてしまうものなんですね。

「会社」は解散したほうがいい

「はい、解散!」
お笑いコンビ「麒麟」の田村裕さんの自叙伝を映画化した『ホームレス中学生』をご存じでしょうか。この映画の冒頭に、自宅を差し押さえられた一家の家長である父親が、3人の子どもたちに向かって、家族の解散を宣言するシーンがあります。
僕は最近こんなふうに、「会社」も解散したほうがいいんじゃないかと思うことがあります。