2020/7/31

【山本康正】シリコンバレーのVCは日本企業をどう見ているか

山本 康正
dnxベンチャーズ インダストリーパートナー
京大、東大、ハーバード、三菱東京UFJ銀行、ニューヨーク、グーグル、シリコンバレー、ベンチャーキャピタル……。DNX Venturesのインダストリー パートナー、山本康正氏の略歴には多様なキーワードが並ぶ。

しかし、その軌跡に目を凝らすと、単なるエリートとは違う「意志」が透けて見えるはずだ。その意志とは、「理系と文系」「民間と政府」「日本とシリコンバレー」など異なる分野の架け橋になりたい、というもの。異なる分野をつなぐには、広く、かつ深い知識を学ばねばならない。

キャリアを進めるたびに未知の世界へ飛び込んでいく山本氏の軌跡を追いつつ、働くうえで大事にしている「仕事の哲学」を聞いた。(全7回)

VCはパートナーの実力の集合体

グーグル時代、私は「グーグル・フォー・アントレプレナーズ」という起業家のためのボランティア活動に参加していました。
その縁があり、ベンチャー支援の道にベンチャー投資の先輩方からお誘いいただき、現在所属しているDNX Venturesにつながっています。
山本康正(やまもと・やすまさ)/DNX Ventures インダストリー パートナー
1981年大阪府生まれ。京都大学卒業、東京大学大学院修了後、三菱東京UFJ銀行(現 三菱UFJ銀行)ニューヨーク米州本部に就職。 ハーバード大学大学院で理学修士号を取得。修士課程修了後、グーグルに入社し、フィンテックやAIなどで日本企業のデジタル活用を推進。ハーバード大学客員研究員。日米のリーダー間にネットワークを構築するプログラム 「US-Japan Leadership Program」諮問機関委員、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 事業カタライザー。2018年よりDNX Ventures インダストリー パートナー。京都大学大学院総合生存学館特任准教授。著書に『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』(講談社現代新書)、『シリコンバレーのVC=ベンチャーキャピタリストは何を見ているのか』(東洋経済新報社)がある。
ベンチャーキャピタル業界は日本ではまだ珍しいですが、米国ではトップファームはコンサル、投資銀行よりも狭き門と言われており、ハーバード、スタンフォードなどの学部生やビジネススクールの学生が熾烈な争いを繰り広げて入社しています。
ベンチャーキャピタルは、セコイアなどの一部のファンドを除いて、会社の信用は基本的にパートナー一人ひとりの実力の集合体です。
ベンチャーは「〇〇ベンチャーだから出資をしてもらった」というよりも、「この人が担当だから出資をしてもらった」ということが大きいです。
なので、ベンチャーキャピタルのパートナー一人ひとりがきちんと専門性を持ち、出資するベンチャーをどうサポートするかが一番の差別化になります。
パートナーの経歴やどういった専門性があるか、どうサポートをしてきたかを知っておくことはとても重要です。

DXを届けることを目指す

ベンチャーは常に売り上げ(ビジネスモデル含む)、人材、資金調達の3点に困っています。この悩みに対して力になれるかが投資家としての差別化のしどころです。
そのためにはテクノロジーの理解や、ビジネスモデルの理解、ファイナンスなど幅広い専門性が必要になります。
第1回で先述した通り、DNX Venturesは珍しいベンチャーキャピタルで世界最先端のテクノロジーのベンチャーへの出資を通じて日本の大企業にイノベーション、今でいうDX(デジタルトランスフォーメーション)を届けることを目指しています。
(写真:NicoElNino/iStock)
たとえば大企業にとっては、50億円ベンチャーキャピタルに出資して、それが2年後にペーパー上で75億円になっても、本業で利益が100億円以上あるところには正直なところあまり意味がない。
それよりもお金を出したことによって、ベンチャーキャピタルのシリコンバレー事務所に人を派遣できて、一緒に汗をかくことの方が価値が大きいです。
シリコンバレーのベンチャー企業からすると、「日本の大企業です」と言われてもシリコンバレーで日本の大企業のネームバリューは今のところ大きくないので、なかなか信用が伝わらない。
でもわれわれのようなベンチャーキャピタルが一緒にいれば、彼らもわれわれとはもともと付き合いがあるし、ちょっと会ってみようかという話になる。商習慣の違いによるコミュニケーションギャップを埋めることもできます。
また、主に初期のベンチャー、アーリーステージに投資をしているというのは大きいです。ベンチャーは初期の頃は目利きは難しいですが、リターンも大きく、かつ売り上げや実績を必要としていて比較的日本の大企業と真剣に向き合ってくれる確率が高いです。
200社実際に面談をしたとして、投資検討をしたのが50社としましょう。実際に投資したのが5社としても、日本企業には投資をしなかった195社も協業の可能性として提案できるわけです。
まさに大手建設機器企業とスカイキャッチという海外のドローンのベンチャーの協業のきっかけがこの仕組みにより実現しました。
これまで目測で勘でやっていた盛り土の測定をドローンを飛ばすことによって自動でかつより正確にすることにより仕事の効率が上がるわけです。

「有名=成功する」とは限らない

これがいわゆるレイターステージ、すでに成長したベンチャーですと、投資枠は巨額になるため出資は比較的楽なのですが、リターンは少なくなります。
またすでに上場が視野にはいっているため、日本企業との協業の関心は相対的に低くなります。「有名なところに出資をした」と主張するベンチャーキャピタルを聞いた場合はどの段階で出資をしたかを必ず気をつける必要があります。
「有名=これから成功する」とは限りません。調達した資金でマーケティング活動、メディア出演だけを積極的に行い、次の調達につなげて、実際の売り上げがついてきていないベンチャーもあります。
特に、日本の大企業で新しくベンチャー担当になった方は、その会社の3年前の話などを確認することが難しく、雑誌やメディアで取り上げられたところを鵜呑みにして引っかかってしまうことがあります。
そこは投資家のコミュニティでは出資者同士の情報交換で危険そうなベンチャーというのは自然とわかります。
ベンチャーへの出資はただのお金儲けではなく、私個人として思うのは結局社会を良くすることにつながってます。お金を儲けるだけならほかにもヘッジファンドなど、いろいろなやり方があるでしょう。
でもベンチャーキャピタルには、それだけではなくて、社会を良くしようとか、国を良くする、ベンチャーの可能性を信じるなど、そういった大義もある。もともと日本のホンダもソニーもどんな大企業も始まりはベンチャーでした。
いまは大企業というラベルが強くなりすぎて、ベンチャースピリットが失われつつある企業もあるように感じます。
それに楔を入れるためや、デジタルトランスフォーメーションというビジネスを変革するためにも、こういった取り組みに大義があると思っています。

10日で100人と会うことも

現在、私は日本とアメリカを行ったり来たりしています。ふだんはシリコンバレーにいて、2カ月に1回ぐらい日本に来る。
1週間から10日ぐらい滞在し、そのあいだにまとめて100人ぐらいと会うことがあります。単純計算すると、1日10人ぐらいと会うことになる。
コロナで人と会いにくくなりましたが、Zoomなどビデオ会議も活用します。何でも話せる間柄になるのが理想です。会食などはコロナが落ち着いた後も重要でしょう。
たくさんの人と会って縁をつないでいると、「印象がごっちゃにならない?」とか、「誰が誰だか、覚えていられるの?」と聞かれることもあります。
すでに述べたようにSNSを使うのもコミュニケーションのコツの一つですが、私はできるだけお会いしたときのエピソードを記憶するようにしています。