【山本康正】シリコンバレーのVCは日本企業をどう見ているか
しかし、その軌跡に目を凝らすと、単なるエリートとは違う「意志」が透けて見えるはずだ。その意志とは、「理系と文系」「民間と政府」「日本とシリコンバレー」など異なる分野の架け橋になりたい、というもの。異なる分野をつなぐには、広く、かつ深い知識を学ばねばならない。
キャリアを進めるたびに未知の世界へ飛び込んでいく山本氏の軌跡を追いつつ、働くうえで大事にしている「仕事の哲学」を聞いた。(全7回)
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第6回は日本に伝わっていないベンチャー投資、シリコンバレーの特性についてです。この知識がないと、簡単に誤解してしまいます。特に、イノベーションブームによって、雨後の筍の如くVCが設立されています。リスクマネー全体が増えることは良いことなのですが、私が危惧するのは、目利きができる人が少ない一社に投資をしてしまい、目的としていた協業がなかなか成果が出ず、VC業界、シリコンバレー全体に否定的、恐怖症になってしまうことです。特にこのコロナの時期に。必ず2社以上に出資をして比較できるようにするべきです。地方の企業や若手ほど「シリコンバレー/VCが来てくれた、話してくれた」と舞い上がってしまいますので、必ず複数社に。一番大事なのは、すでにそのVC「に」出資をしている企業に話を聞いて、成果が上がっているかどうかです。まともなところならば喜んで紹介してくれるでしょう。
ミクロ経済学を少し知っている方はお気づきだと思いますが、新しい業界では「市場の失敗」が簡単に起こります。特にこの場合は「VC業界」、「シリコンバレーという外国」という二重に情報の非対称性があり、大企業が騙されやすくなってしまいます。必ず信頼できる(グルではなさそうな)同業界、同じ地域の人に評判を確認してください。 VCを設立すること自体は簡単ですし、海外の投資も数だけならこなすのは簡単です。ただ、その案件は本当に出資可能な中でトップ企業なのか。たまたま回ってきたところにばかり出資し、いくらサポートしてもその分野で大きくならないかもしれません。
大事なのは、その人に本当に投資経験や、再現性のある能力(起業家をサポートできる能力、人脈、経歴)があるかです。これは、その投資家が出資したとされる起業家に聞けば、すぐにわかります。「お金は出してくれたけど……」というケースがあるわけです。特に金融の経験がない人は、現代ポートフォリオ理論の理解などがないため、流動性や投資サイズなどを無視して、自分のリターンを過度に広告しがちな場合があります。かといってガチガチの金融だけの経歴だと、テクノロジーの理解がなかったりと、バランスがとても大事です。VCは1回の投資で10年も固定され、因果関係もわかりづらいです。いずれ、20年後にはバランスの無い人は淘汰されるという見方もありますが、日本はその20年を無駄にしている時間はないと思います。
因果関係と相関関係の違いはビジネススクールのいろはですが、失うもののない泡沫評論家ほどとんでもないことを言い、たまたま当たると(株価の暴落とか)いかにもすごい洞察力があったかのように振る舞う(しかしその後は全くダメ)という研究もあります。
知人のPEの代表も言っていましたが、「人の目利き」は本当に難しいと思います。ただ、スタートアップもそうですが、「成功」はわからなくても、「これはダメ」がわかれば、結果として成功率は上がることも確かです。
アメリカでのベンチャーキャピタルへの就職は、競争が激しいのもそうですが、競争のルールが無い(整っていない)、というのが特徴かと思います。
アメリカでも大手テック企業などは学校に説明会に来たり、採用面接の時期が決まっていたりしますが、ベンチャーキャピタルは募集しているのかも分からない企業も多く、リサーチ・人脈作りなども自らカスタマイズしてしなければなりません。自然と人間関係が大きく影響するので、物理的にも近く、卒業生も多く働いている特定の学校が有利になったりします。
しかも、難関を潜り抜けて就職出来たとしても、生え抜きではパートナーになるのは難しく、大物起業家や他のVCから外部でパートナーを採用する場合も多い。なかなか厳しいというか、報われない可能性の高い特殊な世界だと思います。
この記事でも出てくる通り、日本語が話せること、日本市場に理解があること、日本の大企業出身であることなどは、99%のケースで付加価値にならないので、日本人でシリコンバレーの大手VCで働いている人はいない、という厳しい現実です。(中国人・インド人はいますが)
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