「人生100年時代」「個の時代」「ニューノーマル」──。様々なキーワードでライフスタイルやビジネスが語られるように、私たちを取り巻く環境は日々変化している。そうした環境の変化に流されず、長い人生を充実したもの(FULL LIFE)にするためには、「時間」において戦略を持つことが重要だ。

本連載では書籍『フルライフ 今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』から全4回にわたって、人生やキャリアを自分でコントロールするために必要なエッセンスを紹介する。
フルライフの反対は空っぽな人生
まず次の問いに向き合う必要があります。
Q.フルライフ(充実した人生)とは何か?
もちろん、フルライフという言葉は本書が提案するコンセプトですので、「そんなこと考えたこともない」と感じるのは当たり前です。しかし、「充実した人生とは何か?」と問われたところで、戸惑いはあまり変わらないと思います。
そもそも、「私にとって充実した人生とは◯◯である」と明確に言語化できる方は、本書を手に取る暇はないはずです。自分が腹の底から納得できる人生に向けて、充実した日々を過ごされていることでしょう。
しかし。
自分にとって充実した人生が何であるか、確信などできるのでしょうか? 少なくとも今の私にはできません。くわしくは後に述べますが、おそらく早い人でも50歳くらいにならないと、自分の人生とはいったいどんなものであり、一度限りのこの生を何のために使うべきか、覚悟を持ちにくいのではないかと考えています。
どんなテーマであれ、問いを立てたのに考えが進まないのであれば、それは思考力の問題でなく、「問いが適切でない」ということにつきます。
では、問いを反転してみましょう。
Q.フル(充実)の真逆にある、エンプティ(空っぽ)な人生とは何か?
するとすぐに、次のような考えが私の頭に浮かんできました。
A.空っぽな人生 ≒ 何も誇ることがない、後悔だらけの人生
だとすれば、「誇り」を得る方法を一方的にお伝えするのは難しくても、まずはできる限り「後悔」をなくす。そうすることで少しはフルライフ(充実した人生)に近づけるのではないか。私はそのように考えました。
Q.では後悔とは一体なんだろうか?
改めて、よくよく内省してみた結果、どうも後悔には次の2種類があると気がつきました。
A.やってしまった後悔/やらなかった後悔
この両者を比較したとき、のちのちの人生まで大きく影を投げかけるのは、おそらく「やらなかった後悔」ではないか。もちろん、「あの時あれをしなければよかった」という感覚に引っ張られることもありますが、私自身は「やった後悔よりも、やらなかった後悔」に後ろ髪を引かれ続けています
例えば、どうしてあの時に勇気を出して好きな人に告白しなかったのか。どうしてあの時、「やりたいこと」よりも「やるべきこと」を優先してしまったのか…。おそらく「やらなかったこと」はやったらどうだったか確かめようがないので、一度その後悔にとらわれてしまうと、キリがないんだと思います。
人生を悩ませる2つのジレンマ
こういったことをツラツラと考えていった結果、さらなる気づきに至りました。それは後悔が生まれる構造には、次の2種類があるということです。
Q.後悔が生まれる構造とは?
A.
A or Bで発生する「選択のジレンマ」
A and Bで発生する「総取りのジレンマ」
「A or B(選択のジレンマ)」はAかBかどちらか一方を選んだら、もう片方を捨てることになるという後悔です。そのジレンマを乗り越えるには、「A and B」しかありません。
ところが、AもBもCも、あれもこれもと心のままにやりたいことを全部やっていくと、キリがないんです。結局一つひとつをやりきれず、「中途半端だったな」という後悔が発生する。これが「A and B(総取りのジレンマ)」です。
ここまで考えて私は完全に困ってしまいました。というのも、人生にAとBという選択肢があるとして、「A or B」でも「A and B」でも後悔が生まれるのだとすると、どうやら人生は「絶対に後悔が生まれる」構造になっているようです。つまり「後悔のないフルライフ」なんてないと。
だとするとせいぜい私たちにできることは、どちらの後悔を選ぶかだけです。ではどうやって選べばいいのでしょうか?
私自身は、「A or B」が選べなかった人間です。A かBのどちらかに決めたら、真摯にブレずにやり抜く人生。憧れます。しかし、そのスタイルを選ぶには、実際のところ相当な勇気がいりますよね。
私には勇気がないし、深掘りすることより広げることへの好奇心が強い人間なので、「A and B」でいくしかない。それはつまり、「総取りのジレンマ」を抱えながら生きていくしかないんだと、ある時点で腹を決めました。
「後悔のないフルライフ(充実した人生)」を目指して、A or Bでいくのか、A and Bでいくのか。どっちを選んでも結局「後悔」は生まれる。その原因は次のように集約されます。
Q.後悔が生まれる原因は?
A.時間には、限りがあること
A and BばかりかCもDも…とやりたいことが増えていくと、各項目に割ける時間が手薄になってしまい、いい結果が出しにくくなるんですよね。もちろん、他業種から受ける刺激が本業に還元されることは多々ありますが、本業もろとも共倒れになるリスクは大きいわけです。
さて、ここで改めて尋ねたいと思います。
Q.あなたはどのような戦略で、限られた時間を使っていますか?
この問いをもう少しブレイクダウンすると、次のような複数の問いに作り変えることができるでしょう。
Q.1日の戦略は?
Q.1週間の戦略は?
Q.1年の戦略は?
Q.3年の戦略は?
Q.10年の戦略は?
Q.30年の戦略は?
Q.100年の戦略は?
このような問いを作ったあと、私はさらに視点を変え、次のような問いを自分に投げかけました。
Q.戦略の先に、そもそも自分は何をしたいのか?
冗談のように聞こえるかもしれませんが、私はこの問いと向き合うために、真冬のモンゴル(なんとマイナス40度!)に旅立つことになります。過酷な自然の中、何日も自分と向き合う中でたどり着いたのは、次の2つでした。
A.
①何か大きなことを成し遂げたい
②人生100年をよく生きたい
そして本書は、これら2つの願いに対する私なりのアイデアを提示するものです。たとえ後悔が残るとしても、限られた時間の中、確信を持って進んでいくための「時間戦略」を示しました。
人生100年を春夏秋冬でとらえる
歴史を振り返れば、戦後直後の日本人は、平均寿命が50歳でした。当時の日本人にとって人生とは、イコール「働く」ことだったと言えます。子どもの頃から畑に出て、一人前の労働力としてカウントされる。定年もありません。元気に働けるうちはとにかく働く。そして病気や老衰により、自宅で亡くなる。そういう時代でした。
時代が進み、東京オリンピック(1964年)の頃になると、平均寿命は70歳くらいまで延びます。社会制度も整い、また定年という概念が登場したことで、多くの日本人にとって人生は「学ぶ→働く→休む」という3ステップを踏んでいくものとなります。
いわゆる「いい学校に入って、いい会社に就職すれば、いい人生が待っている」というやつです。いい悪いは別にして、そうやって一本のレールを敷き、全力で人生を駆け抜けたのが昭和という時代だったのでしょう。
さて、今はどうなっているでしょうか? 
いまや私たち現代人の多くは、なんと90歳まで生きます(18年生まれの日本人が90歳まで生きる割合は、女性が50.5%、男性が26.5%)。もっと言うと、100歳まで生きる可能性が高いんです。だからこそ国を挙げて「人生100年時代」、100歳まで生きることを前提に人生プランを立てましょうよ、といわれるようになってきているのです。
結論から言うと、人生は「4ステージ」あるという心づもりでいれば、人生100年時代に備えられると考えました。季節になぞらえれば、春夏秋冬の4ステージです。
おそらく「学ぶ春」「働く夏」、そして「休む冬」というのはこれまでと同じですが、「実りの秋」をどう過ごすのかというのが人生100年時代における最重要ポイント、つまり重心になってくると思います。
Q.はたして自分は、長い人生のどの時期に輝くのか?
スポーツ選手であれば、春(0〜25歳)ということになるでしょう。あるいは、「終わりよければすべてよし」という考えでいくなら、冬(75〜100歳)ということになります。
しかし仕事で輝きたいのであれば、多くの人にとってそれは夏(25~50歳)か秋(50~75歳)のどちらかということになります。そしておそらく、漠然と夏の時期輝こうと考えている人が多いのではないでしょうか。
ただ残念なことに、ほとんどの人にとってそれは無理な話です。なぜなら、会社の手足として働くというのであれば別ですが、自分が本当にやりたいことをやるのであれば、そのために必要なスキルや経験、人脈といったものを、そんな若いうちにすべて揃えることなど普通は不可能だからです。もしそれができたとしたら、それは相当に幸運な人といえます。
必然的に、多くの人が仕事で一番輝けるのは、「秋の時期」ということになります。そうだとすれば、キャリア・人生設計もそれを念頭に置いてすべきと考えられる。
そもそも、自分がやりたいこと、つまり人生の意味を見つけること自体が難しい時代になっています。松下幸之助が「与えられた仕事を天職と思え」と言ったように、昔であれば、最初に入った会社に尽くすことこそが人生の意義でした。大会社の重役だったということを一生の誇りとして死んでいけた時代があったのです。
しかし、時代は変わりました。会社の寿命も短くなってきているので、1社に勤め上げるということ自体が難しい。どちらかといえば、いまは「会社」というより「業界」が人生の意味を与えてくれています。しかしこれもまた、移り変わりが激しい。これからは複数の業界に軸足を置かなければやっていけなくなるでしょう。
私の友人である若林恵さん(黒鳥社)から、こんな言葉があると教わりました。
「これからは一つに依存する時代ではない。では、依存の反対は何か?それは自立ではなく、たくさんへの依存である
これからの時代は、会社も業界も生きる意味を与えてくれない。するといよいよ、自分と向き合わざるを得なくなります。
自分の人生の意味は、自分自身で見つけなければならない時代になったのです。自分で納得できる人生の意味を見つけるのは簡単ではありません。30歳や40歳では到底見つけられないでしょう。その意味でも、輝くのはやはり50歳からと考えるのが、妥当といえます。
※本連載は全4回続きます
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本記事は書籍『フルライフ 今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』(石川善樹〔著〕、NewsPicksパブリッシング)の転載である。