「人生100年時代」「個の時代」「ニューノーマル」──。様々なキーワードでライフスタイルやビジネスが語られるように、私たちを取り巻く環境は日々変化している。そうした環境の変化に流されず、長い人生を充実したもの(FULL LIFE)にするためには、「時間」において戦略を持つことが重要だ。

本連載では書籍『フルライフ 今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』から全4回にわたって、人生やキャリアを自分でコントロールするために必要なエッセンスを紹介する。
(土日休みの人が)よい1週間を過ごすために、私が考えたアイデアは、「土曜始まりのカレンダーを作る」ということです。
Q.どうすれば社会的時差ボケをなくせるか
A.1週間の始まりを土曜の朝にする
ポイントは3つあるので、一つずつお話しします。

睡眠にも仕事にも効く「土曜スタート」

まず最初の、そして最大のポイントは、社会的時差ボケをなくすために、土曜の朝も平日と同じくらいの時間に起きることです。
もっというと、「土曜の朝から1週間がはじまるんだ!」という強い決意の下、スケジュールを土曜始まりに変えてしまうんです。
土曜始まりにすることの効用は、他にもあります。月曜始まりのカレンダーの場合、「仕事」や「学校」をメインに据えたものなので、週の最初に入れるのは「やらなければいけないこと」です。一方、土曜始まりならば「自分のやりたいこと」から埋められます
心理学では「ポジティブスケジューリング」と言われますが、「やるべきこと」と「やりたいこと」があったときに、まずはやりたいことから埋めていく。それを可能にし、人生の満足度まで上げてくれるのが土曜スタートの考え方なのです。
土曜始まりの紙のカレンダーはありませんから、私は自作しています。Googleカレンダーのようなデジタルのものであれば、すぐに設定から変更できます
土曜始まりで1週間を考えるメリットは、「今まで土日の自分はダラけすぎていたな」と気づけること。私もGoogleカレンダーを土曜始まりに変えてみたら、「なんてスカスカのダラダラした土日を過ごしているんだ!!!」と猛省しました。
これが月曜始まりだと、平日は真面目な予定で埋まっているから、「私はちゃんと生きている」と勘違いします。土日が少々ダラダラしたものであっても、平日のがんばりに目をそらされて、ダラダラに気が付きにくいのです。
ただ、そうはいっても、ついつい土曜の朝は寝だめをしてしまいます。では、どうすれば土曜の朝に起きられるのか?
ポイントの2つ目が、「金曜日の夜8時以降はスケジュールを黒く塗りつぶす」です。金曜夜を「部分最適」にしようと思うならば、遅くまで飲んで食べてしまうことになる。でも、それは1週間という「全体最適」で考えると、最悪ということです。
理想を言えば、夜8時までに食事などは終えておき、それ以降はあまり飲み食いをしない。これこそ、土曜日の朝に起きるための秘策です。
そもそも「起きる」とは何か。目が覚めたら「起きた」と勘違いしている人がいますが、人間の生体リズムには「光で入るスイッチ」「飲食で入るスイッチ」という2つのスイッチがあります。つまり、目が覚めるだけでなく、光を浴びて、飲食もしなければ、体は「起きた」と言えないのです。
もし金曜日の夜遅くまで飲み食いしていたら、土曜日の朝は何も口に入れたくないですよね。土曜日の朝起きるためには、「おなかが空いて目が覚める」必要があるわけです。そのためには、金曜日の夜は、8時までに飲み食いを終わらせておく。
これは別に、金曜日の夜に飲み会をするのを禁止しているわけではありません。もしするのであれば、夕方の5時とか6時とか、早めの時間からスタートしてほしいのです。これが本当の「プレミアムフライデー」だと思います。
ただ、月から金まで頑張っていれば、精神的には興奮した状態なので、金曜はなかなか眠れないかもしれません。そこで私がおすすめするポイントの3つ目は、「花木(ハナモク)」という発想です。
木曜の夜に遅くまで飲めば、金曜日は自動的に朝から眠い。だから夜は勝手に眠れる。とはいえこれは、最終手段ですが。
これが、社会的時差ボケに陥らず、よい1週間を過ごすための「土曜始まりのカレンダー」というアイデアです。さらにいえば、金曜の夜に1週間の「To Feelの振り返り」を行うのもいいでしょう。この1週間で自分はどんなことを感じたかを振り返ることで、自分が過ごした1週間の「評価」を高める。反省点を見つけて改善するだとか、来週の予定を立てようとする必要はありません。振り返るだけでいい。
そして土曜の朝、いつもどおりの時間に起きて、「ウィークスタート」となるそのタイミングで、1週間をどのように過ごそうかじっくり計画してみる。
いずれにせよ、1週間を過ごす上で重心となるのが、この土曜始まりカレンダーにおける1週間の終わり、つまり「金曜日の夜8時以降」です。ここが崩れてしまうと、その後の1週間がボロボロになってしまうというお話でした。

10年先の目標がポエムになる理由

次に見ていくのは、いきなり飛んでいるようですが、3年~10年です。なぜ、このような幅をもった時間を想定しているかというと、次のようなジレンマに私自身が遭遇したからです。
「現実から積み上げていっても、明るい10年後が見えない」
具体的にお話しさせてください。人は誰しも、すこし先の未来、例えば「10年後の自分」について想像することがあると思います。それをぼんやりイメージした場合、今よりずっと成功している「夢」の姿になるわけですが、悪い意味でのポエムにしかならないことが多い。
10年というスケールは個人的にも社会的にも不確定要素が多すぎて、そのために今から何をしていけばよいのか、逆算するイメージができません。
もちろん「10年後の自分」を想像すること自体は大事なんですが、それはあくまでも北極星のようなものです。逆算するものではなくて、見上げるもの。「前方に北極星が見えるから、北には進んでいるな」というぐらいの目印です。
一方で、現実から出発して1年後の自分や会社がどうなっていくか想像を重ねていっても、どうしたって低空飛行になるというか、たかが知れた10年後にしか到達しません。
では、普通の人とすごい人では、何が違うのか?幸いなことに私はさまざまな仕事を通じて、国内外のすごい人たちと接する機会があります。それを利用して、彼ら/彼女らの思考パターンを分析した結果、次のことに気が付きました。
Q.すごい人はどう計画を立てているか?
A.すごい人は、3年プランの立て方がうまい
例えば、2014年4月に資生堂の社長に就任した魚谷雅彦さん。就任早々、2015年度からの「3カ年計画」を発表して、ハイレベルな目標を見事に達成しました。2018年度から「新3カ年計画」をスタートさせており、そのプランニングの確かさに注目が集まっています。

すごい人は3段階で計画を立てている

では、すごい人はどのように3年プランを計画しているのでしょう?私たちが参考にできるようなポイントを一言で言うと「普通の人もすごい人も、1年後のプランは大して変わらない。でもすごい人は、2年後、3年後のプランニングがうまい」ということです。
すなわち、すごい人の3年プランは、「積み上げ型」というより、非連続成長をする「レバレッジ型」だということです。1年目の投資の時期はまだ結果は出ない。2年目にやっと結果が出始める。3年目にその結果が次々と拡大していく。
では、どのようにして3年プランを立てるのか。通底するキーワードを整理すると、次のようになりました。
1年目:準備する(種を蒔く)
2年目:始める(芽が出る)
3年目:広げる(花が咲く)
もう少し仕事に置き換えるとこのようになります。
1年目:Build期(組成する
2年目:Model期(定型をつくる
3年目:Scale期(拡大する
つまり1年目は、何をするかを計画するよりも、誰とするかを計画する「Team Build」の時期です。2年目は、スケール可能な「Model」を作る時期。そして3年目にいよいよ「Scale」していく。これは言い換えると次のようになります。
1年目の重心:Who(誰とするか?
2年目の重心:What(何をするか?
3年目の重心:How(どのようにするか?
こういわれると、「そんなの当たり前じゃん!」と思われる方がいます。きっとうまく3年プランが立てられている方なのでしょう。
しかし私はこのような単純なことにすら考えが至らず、なんとなく1年単位で物事を計画しては「今年も大したことを成せなかった」という反省を繰り返していました。
ちなみに便宜上「3年プラン」としましたが、もっと年数をかけて考えてみてもいいですし、時間がない、もしくは仕事の粒度が小さいという人は「12ヶ月を三分割」というイメージでもいいかもしれません。
 ところが、ここまで述べてきたような戦略に基づき3年プランを行うと、その難しさを痛感するとともに、「何でこんなに大事なことを誰も教えてくれなかったのか!」とその威力に驚いてもいます。きっと私のように「3年プランの戦略」を持っていない方もいるだろう。そう思って、こうしてご紹介している次第です。
4ヶ月目でここ、8ヶ月目でここ、12ヶ月目でここ…と順に段階を考えていけば、薄ぼんやりしていて見えないと思っていた未来が、クリアに見えてきます。
さて、もっと話を進めましょう。すごい人の上には、「もっとすごい人」がいます。おそらく人類の中でも一握りしかいないであろう「もっとすごい人」は、「3段階のプランニング」という離れ業をやってのけます。
「3年後のプランニングができれば、その先の3年、さらにその先の3年もプランニングできる」これが3段階のプランニングという意味です。
この3段階のプランニングができるようになれば、「10年後」の未来にかなり近づけます。
この思考法は、パナソニックの伝説のエンジニアとして知られる、大嶋光昭さんから学びました。日本が世界に誇るシリアル・イノベーターである大嶋さんは、例えば私たちのカメラに入っている「手振れ補正機能」などの発明者です。
大嶋さんにお会いした時、最初の3年から次の3年、さらに3年の「9年プラン」で北極星まで行けるというお話を伺いましたが、さすが天才の所業だと思います。そして図を見てもらえれば明らかなように、この1年~10年というスケールにおける重心は、「2段階目の目標をどう設定するか」です
なぜかというと、理由は2つあります。一つ目の理由は、2段階目の目標が明確だからこそ、10年後の未来に届きそうだという確信が得られることです。
もう一つの理由は、2段階目の目標があるから、じゃあ3年後の目標は何にしたらいいのかという逆算が可能になるからです。
こうして「いま」と「途方もない10年後」が一本の線でつながるのです。
※本連載は今回が最終回です
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本記事は書籍『フルライフ 今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』(石川善樹〔著〕、NewsPicksパブリッシング)の転載である。