【明石ガクト×三浦崇宏】なぜ今、ストーリーが大事なのか?

2020/7/1
7月よりスタートする新・電子書籍レーベル「NewsPicks Select」。その第一弾を飾るのが、明石ガクト氏の『動画の世紀 The STORY MAKERS』だ。なぜ今、ストーリーをテーマに本を上梓したのか。クリエイティブディレクターでGO社長の三浦崇宏氏と語った。

ストーリーを主題にした理由

――明石さんの新著『動画の世紀 The STORY MAKERS』は「ストーリー」が軸になっています。なぜ「ストーリー」を主題にしたのですか?
明石 まさに三浦さんと話していてそのテーマに行き着いたんですよ。
もっと言うと、三浦さんが「ストーリー」というテーマを見つけてくれました。
コロナショックで、ワンメディアの仕事が一気に飛んでしまって、「これから自分たちは何を創っていけばいいんだろう」と悩んでいたときに、三浦さんが「僕はワンメディアが何を創るべきかわかっている。それはストーリーだよ」と言ってくれたんです。
明石ガクト(あかし・がくと)
ワンメディア代表取締役。1982年静岡生まれ、2006年上智大学卒業。2014年6月、ミレニアル世代をターゲットにした新しい動画表現を追求するべくONE MEDIAを創業。著書に『動画2.0』『動画の世紀』。
世の中に動画や映像を創る会社は山ほどあるけれども、ワンメディアの本質は「動画づくり」ではなく、「ストーリーづくり」であると気づいたんです。
そこから『動画の世紀』の執筆がスタートしました。
三浦 僕が常々思っていたのは、「なぜ同じような動画の会社があるのに、明石ガクトだけが注目されるのか」ということです。
それは決して彼がロン毛だからではありません(笑)。
明石さん自身は、「ヴィジュアルストーリーの提供」が価値だと言っていましたが、たぶんそこに本質はない。
真の強みは、明石さんが語る物語なんですよ。
三浦 崇宏(みうら・たかひろ)
GO社長・Creative Director。2007年、博報堂入社。同社ならびにTBWA\HAKUHODOにて、ストラテジックプラニング、PR、クリエイティブを歴任し、2017年に独立。著書に『言語化力』『人脈なんてクソだ
福岡にお気に入りの鮨屋があるんですが、そこに明石さんと行くと、寿司屋の大将以上に明石さんが寿司の解説をしてくれます。
「この玉子焼きは、コンロの横を通っただけで消えてしまうほどのとろ火でね。半日じっくり焼き続けた結果できる味わいなんですよ!」みたいなことを、ペラペラしゃべり続けるんですよ。古舘伊知郎のF1解説のように。
(写真:iStock/gyro)
その解説を聞いていると、寿司がよりうまく感じられます。そのとき、「この言語化力こそ、明石ガクトが生き馬の目を抜く動画業界で勝ってきた理由だな」と気づいたんです。
彼はワンメディアを通じて、映像から動画に産業が進化するストーリーを語り続けています。ワンメディアというのは、明石ガクトという怪しい人間が、弱音を吐きながら創っているストーリーです。
彼の強みは、ヴィジュアルではなく、ストーリーにあるんです。
明石 確かに僕はその寿司屋で誰よりもしゃべっていますね。
お店の大将はまだ若いですが、才能があって、努力もしていて、腕がいい。ただ、大将が寡黙なのがもったいないなあと。
お客さんは、寿司そのものだけでなく、寿司に関するストーリー、情報も食べに来ているわけです。だから、ついつい口が勝手に動いてしまって、寿司の解説をしてしまう。

中距離ランナーとしての明石ガクト

――三浦さんも『言語化力』という本を出しています。
明石 三浦さんは、いわば100メートル走のスペシャリスト。「現象や概念を一言で表すコンセプトの開発」がうまい、言葉の短距離走者です。
それに対して、僕はたぶん800~1500メートルくらいの中距離走者です。
こう見えて、中学時代は陸上をやっていたんです。コピーよりももっと長く、時間軸をつけて物事を説明して引き込んでいくのが昔から好きなんです。
ワンメディアの動画は、(コンテンツスタジオの)チョコレートが創る動画のようにSNSでバズるかというと、バズるわけではない。
ユーチューバーの動画みたいに安定して再生回数を稼げるかというと、稼げるわけではない。
NewsPicksのように自社メディアを持っているかというと、持っているわけではない。
では、ワンメディアがクライアントにとって何で価値を感じてもらってきたのかというと、「相手のストーリーを見つけてそれを動画にする」ことだったと思うのです。
僕らの動画も時には、再生回数があまり伸びないときだってあります。そんなときでも、不思議とクライアントが満足してくれたことが何度かありました。
僕自身は「高いお金をもらったのに、動画の再生数が伸びずに申し訳ないなあ」という気持ちでクライアントに会いに行くと、「めちゃくちゃ良かったです」と言ってくださる。
最初は「なぜ喜んでくれているんだろう」と心の中で思っていたのですが、次第に理由がわかってきました。今まで誰も見つけられなかったクライアントのストーリーを見つけて、それを動画にしていたからなんです。
それに気づかせてくれたのが、三浦さんの言葉でした。
「ストーリーを世の中に送り出すには、いろんなやり方があるよね。例えば、(映画プロデューサーの)川村元気さんは、100億の予算で、5年の歳月をかけて、2時間かけて人を感動させる。明石さんたちは、1000万の予算で、1カ月でつくって、5分で人を感動させる」
そう言われて、数分から数十分の中距離走の動画でストーリーを表現できている会社はワンメディア以外にないなと認識したんです。

日本企業に足りないもの

三浦 なぜ今、ストーリーが大事かというと、ストーリーがあると、みんなが共感して、好きになってもらいやすくなるからです。
例えば、仮にNewsPicksの佐々木さんが嫌われているとします。そして、もし佐々木さんが人に好かれたいと思ったら、佐々木さん自身の物語を語るしかありません。
佐々木さんは九州で育って、大学から東京に来て、慶応に行って、NewsPicksでメディアや学校や社交場をつくって、「令和の福沢諭吉」になりたい人なんだと説明すると、ストーリーが生まれて、共感しやすくなるでしょう。
これからの時代は、本当に必要なもの、つまり、エッセンシャルなものだけを消費する時代になっていきます。
だから、なおさら「その人にしかないストーリー」が大切になってくるんです。
“エッセンシャル消費”の時代になったときに、僕らのようなクリエイターは、八百屋でも、農家でも、電機メーカーでもないので、生活必需品は作れません。
僕らが創れるのは、なんか欲しくなるもの、なんか好きなもの。つまりは、ストーリーなんです。
「このプロダクトはこんな思想でできている」「このお茶にはこういう人が関わっている」。そんなストーリーを短時間で一番うまく伝えられるのが動画なのです。
明石 三浦さんは「昭和は国家と規模の時代」だったと言っていますが、戦後の日本ではまず規模の時代があったじゃないですか。
次に、機能の時代が来て、日本という国は、機能の時代にめちゃくちゃ強かったわけです。
平成元年の世界の時価総額ランキングでは、上位50社のうち日本企業は32社がランクイン。NTTや日本の金融機関などが上位を席巻していました。
それが、平成31年になると、50位以内に入っているのはトヨタだけです。
今、勝っているアップル、テスラ、アマゾンといった会社は、どれも愛着のあるブランドで、ユーザーの共感を集めています。
要は、今の日本企業に何が足りないのかというと、共感なんですよ。
発売当時のGoProの部品はソニーのカメラの部品と同じでした。日本の部品を使ってプロダクトを作って、そこにグローバルのブランドが冠されるとめちゃくちゃよくなるのに、日本の会社になぜそれができないのか。
(写真:iStock/Chaay_Tee)
日本企業に足りない最後のピースは、物語なんですよ。
だからこそ、GOもワンメディアもストーリーというテーマに向かっていっています。
今までテレビで伝えてきた物語を、スマホの動画を使って伝えていくというのが、今後10年の僕らのチャレンジだと思っています。
三浦 すごく簡単に言うと、「御社のプロダクトやサービスの“情熱大陸”を2分の尺で創ります」ということですよね。
情熱大陸はまさに、有名な人でも、有名ではない人でも、ストーリーで共感を生み出すわけじゃないですか。
「こいつすげえ! 好きだ。失敗している。かわいい!」みたいな。それをプロダクトやサービスでやることができたら、その会社は強いですよね。

ストーリーは初めと終わり

――企業のストーリーを創るときに、「創業者のストーリー」になることが多いですが、それ以外にも、いろんなストーリーの種が眠っているということですよね。
三浦 もちろん。
例えば、ルイ・ヴィトンには「旅行カバンから始まった」というストーリーがあります。それだけで、「カバンを買うんだったら、ヴィトンにしようかな」と顧客をいざなうことができますよね。
(写真:iStock/olaser)
創業者のストーリー、起源のストーリー、エクストリームユースケースのストーリーみたいに、ストーリーを生むための方程式をつくっていくと、わかりやすくなるはずです。
たぶん明石さんは今後、ストーリー発見のための公式をつくるんでしょうね。
明石 ワンメディアが転機を迎えることになったのは、ホンダのスーパーカブの動画です。
当時、僕らは本当に小さい会社で、たいして予算をかけてもらえるような会社ではありませんでした。
お金をかけて一から収録する余裕もないので、ホンダさんからお借りしたありものの素材を生かすことぐらいしかできませんでした。
それでも、「スーパーカブはなぜ世界でこんなに愛されるようになったのか」というストーリーを動画にしていったとき、すごく手応えがあったんですね。
最初は、情報性を高めたり、テロップや音楽をうまく入れたり、表面的なテクニックがよかったのだと思っていたのですが、実はそこが価値ではなかった。
本当の価値は、スーパーカブというプロダクトに眠るストーリーを見いだしたことにありました。
ストーリーを知ればスーパーカブを知らない人でも、スーパーカブを好きになってしまいそうになる。
人気のキャラクターや、偉大なブランドやプロダクトは、ポンとその状態で現れるわけではありません。何らかの物語を背負っていて、その物語から英雄や神話が生まれてくるのです。
三浦 日本のメーカーで機能で差別化できるところはもうないですからね。本当に独自の機能、独自のユーザーベネフィットを持っているプロダクトなんてほとんど聞かないですよ。
だからこそ、ストーリーで差別化すると、応援してもらうことができる。
僕は今、スタートアップ向けのファンドも運営していますが、スタートアップはストーリーが大事。とくに“初め”と“終わり”なんですよ。
立ち上がるときに、「私たちはこういう物語で世界を良くしていきたい」と言うと、メディアが注目してくれるし、株主も集まってくるし、初期の強固なユーザーが集まってくる。
何のためにこの会社は始まって、何を達成できたらミッションコンプリートなのか。そのストーリーこそが大切です。
今、多くの日本企業は踊り場に立っているだけに、もう一度、新たなストーリーをつくり出すべきなんです。
(写真:遠藤素子、デザイン:九喜洋介)
*対談のフルバージョンは『動画の世紀 The STORY MAKERS』に掲載しております。