オフィスと変わらない企業文化をつくる

3月からは、怒涛のような日々だった。そして、リモートワークへの移行がこれほどすばやく起きるとは、誰も予想していなかった。
私が経営するリアクター(Reaktor)は、フィンランドのテクノロジー会社で、創業以来20年以上、アジャイルなワークスタイル(臨機応変にどこでも働くスタイル)をとっている。われわれは、現場で顧客としっかり向き合うことで成功してきた。つまり、直接会ってやりとりすることを重んじ、優先している――。
少なくとも以前はそうだった。
今は、ほかの誰もがそうしているように、ビジネスのやり方をすべてリモートに変えなければならなくなった。それもほとんど一夜にして。
私が驚いたのは、この移行がいかに簡単だったかだ。リアクターは、フィンランドでは適応力とレジリエンスで有名な会社だ。そしてその社風通り、ほんの数日のうちに、大きな問題もほとんどなく、リモートワーク体制に入った。
わが社の自己管理的な組織には、特にリモートワーク向きの文化的特徴があることがわかった。もちろん、北欧人特有の気概と柔軟な回復力も大きい。だが、われわれがうまく移行できた原因を突きつめると、私があらゆる共同作業に欠かせない基本的要素と考えるものが重要だったと思う。
それは「信頼関係の構築」だ。
信頼関係はまさに、フィンランド社会全体を稼働させているものだ。そしてそれは、直接顔を合わせる場合よりもオンラインでのほうが、よりいっそう重要になる。
われわれは、リモートワークをするすべてのチームや組織が、信頼関係を築き、それを維持する4つのシンプルな方法があると考えている。実際に役立ったその方法をご紹介しよう。

1. 状況を認識し、理解できるようにする

コミュニケーションは何よりも重要だ。待っていてはいけない。そして、重要な情報を得たら、たとえ不十分なかたちではあっても、すぐに共有しよう。これは、財務状況や戦略的判断、将来の見通しなど、会社全体に関わる問題については特に重要だ。
人は、不確実な状況で何も見えない状態が続くと、不必要に不安を覚え、心配するものだ。われわれは誰でも、ストレスが少ない状態の方がよく働くことができる。
マーケティングから人事、セールスに至るまで、部門を越えて明確でタイムリーな情報を共有し、効果的な全体像をすべての人に示せば、社員は会社の未来が正しい方向に進むような行動を取ることができる。
何が起きているかを理解すれば、誰もがより賢い判断をするだろう。
情報が発信されるように、あらゆる策を講じよう。新しくSlackのチャンネルを立ち上げたり、社員が発言しやすいようにするのも一案だ。
また、問題や課題を率直に共有し、現在の作業負荷についてアップデートすることが当たり前になるような雰囲気を、チームの中だけではなく、会社全体でつくることも大切だ。

2. 自分で決断できるようにする

速やかに情報を共有するということは、社員がより素早くより賢い選択ができるようになることを意味する。
だが社員たちは、上司からの承認や何らかの許可を待っている間は、行動に出ないだろう。
会社のヒエラルキーは忘れ、社員それぞれが、自分の仕事について自分で決断できる自由を与えよう(社員の中には、私のように小さな子どもたちが走り回るブルックリンのアパートで、仕事に集中しようと頑張っている人がいることを忘れないようにしよう)。
家で仕事をする場合には、自分自身を管理する割合がかなり増える。仕事を上手に進められるようにするためには、それぞれに完全な自律性を与えることが大切だ。
ここで、1で述べた「状況を認識し、理解できるようにすること」が重要になる。さらに、目的と目標を共有することは決定的に重要だ。
わが社では、今の状況下ではこれまで以上に、重要な顧客に集中することが最優先だと周知徹底した。そうすることで社員は、今、何に力を入れ、何を後に回すべきかを自分で決めやすくなった。

3. 互いに教え合う

自己管理が増えると、社員は自分の仕事を効率化できないかと考えるようになる。それはつまり、社員全員を会社が再教育する必要性が減るということだ。
あるいは、リモートワークという新しい働き方を始める一人ひとりの社員を支援する必要性が減る。その代わりに社員同士が、よい方法や使えるツールを、ピアツーピア的なネットワーク構造のなかで自由に共有する。すべての社員が、互いに協力して学ぶわけだ。
これはわれわれにとって、プロジェクト管理や企画、リモートワークなどに関して共に学ぶ「実践共同体(Communities of Practice)」と言える。誰かが新しい状況に苦労していたとしても、社内の別の部署の誰かが、すでに同じ問題にぶつかったことがあり、もう解決しているかもしれない。
そうした問題とは、たとえば「リモートで効果的にペアワークをするにはどうしたらいいか」とか「IKEAで一番よいスタンディングデスクはどれか」など、さまざまだろう。そして、ネットワークは常にそこにあって、手を差し伸べてくれる。
互いにアドバイスし合うネットワークがあれば、無駄なことに時間をかける手間が省ける。
そしてそれと同じくらい重要なのは、誰もが自分の仕事を自分で管理しながらも、誰かに支援されていると感じることだ。このようにして、より効果的な新しいワーキングスタイルが生まれる。

4. 社員同士の交流を促進する

全員がリモートで働いているという理由だけで、職場で休憩時間に同僚とおしゃべりした時間が消えてしまうべきではない。世間話や社員同士のつながりが、いかに重要かを理解しよう。
24時間いつでも使えるGoogle Meetで、コーヒーブレイクやランチタイム、仕事の後の飲み会を楽しむのもよいだろう。Zoomを使ったオンライン会議で、仕事の話をしながら、コミュニケーションを取るのもいいだろう。
コミュニティを育む方法はいくらでもある。さらに踏み込んで、社員同士のつながりをつくるクリエイティブな方法を、みんなに考えてもらおう。どんな案が出てくるだろうか。
リアクターでは、社員同士でミュージカルのパフォーマンスや料理ショーを観たり、Zoomを使って自分のペットやアパートの部屋を披露したりしている。とても有意義な時間を共有し、社員同士がつながっている。
社員の様子を確認し合うことも大切だ。パンデミックの最中で、人は普段より不安を感じがちだろう。しかし、人事部が全社員の面倒を見ることはできない。
社員同士が互いの状況をわかっていれば、孤独は減り、信頼が増す。仲間と一緒なら、誰もが素晴らしい仕事を続けることができ、大きなことを成し遂げられると感じることができる。しかも、自分のアパートでくつろぎながら。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Eetu Blomqvist/CEO, REAKTOR、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:SolStock/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.