【10分読書】トマ・ピケティの原点は「この1冊」にある

2020/7/4
本の要約サイト「フライヤー」とコラボし、毎週土曜日に話題のビジネス本の要約をお届けする「10分読書」。今回は、『不平等と再分配の経済学』(明石書店)だ。
ぜひ、週末のひとときで新たな知識を手に入れてほしい。(4698文字)

解説:右派と左派の違い

不平等と再分配の問題は、二つの立場の対立となって表れる。
右派の自由主義的立場は、市場の力、個人的なイニシアチブ、生産力の発展が、長期的に不利な状況にある人々の生活条件を改善できるとする。
したがって、再分配に対する公的機関からの介入は、できるだけわずかなものに制限されなければならない。市場と価格のシステムが自由に機能するままにする。
一方、左派の立場は、資本主義社会によって生み出された貧困を軽減するために、社会的かつ経済的な闘争を求める。再分配に関して公的機関は、生産過程にまで入り込まなければならない。
賃金労働者の間の不平等を問題とし、生産手段の国有化などが政策として示される。
このように、右派と左派の対立は、再分配への考え方と、それに関連した手段の違いが特に大きいことを示している。
経済学者はこの対立を、〈純粋な再分配〉〈効率的な再分配〉との違いで表現する。
前者は、市場均衡の考え方に基づき、より恵まれた個人がそれほど恵まれていない人に資金を再分配することを求める。後者は、市場の不完全性を前提に、介入によって資源配分の公平性を改善しようとする。
フランスの世帯の所得を階層ごとに分析してみると、年金や各種手当て、あるいは投資や不動産などの資産と比較して、大部分の層で賃金所得が全所得のうちの大きな割合を占めていることがわかる。
資産から大きな収益を得ている5%の最富裕層でも、賃金所得の割合が63・6%と最も大きい。
2000年におけるフランスの賃金の中央値は1400ユーロであったが、平均賃金は1700ユーロであった。
(写真:Santje09/iStock)
これは、一部の富裕層が受け取る非常に高い賃金が、平均賃金を引き上げるからである。最も裕福な10%層と最も貧しい10%層との間には、平均賃金に3倍の差がある。
ちなみに1990年におけるOECD(経済協力開発機構)諸国の調査によると、同様の貧富に関する国際比較では、ノルウェーの2・0倍から米国の4・5倍までの格差があった。
この格差は、19世紀や20世紀初頭と比べるとかなり縮小している。
その理由は、所得や相続税に対する累進税といった20世紀を特徴づけた租税革命に加え、戦争、インフレーション、大恐慌といった資産保有者が被ったショックが、大きな資産の蓄積と再編を防いだことであると考えられる。
しかし1970年代以降、先進諸国で不平等が再び増大し始めた。例えば米国では、最富裕の10%と最貧困の10%の賃金格差が、1970年から1990年までの期間で、およそ50%拡大したのである。

Q.どちらの「再分配」が良いか