【RPAの誤解】ロボットは全能じゃない。人と補完し合う「労働力」だ

2020/7/7
昭和の典型といえる「労働集約型」の働き方を解決すべく、ここ数年で導入が加速したテクノロジーの1つが、事務作業などを自動化する「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」だ。

労働人口減少の問題を抱える日本でも需要が高まるRPAだが、導入後になかなか成果を出せない、運用が軌道に乗らない、かえって煩雑な業務が増えた、といった声も少なくはない。

「脱・昭和型労働への提言」シリーズ第2回目は、ヒトと共存してこそ発揮されるRPAの本質的な価値について、企業のRPA導入支援を手がけるMAIA代表取締役の月田有香氏と、Peaceful Morning代表取締役 藤澤専之介氏に聞く。

コロナ禍が中小企業のDXを後押し

──新型コロナウイルスの影響でリモートワークが普及するなど、働き方に大きな変化がありました。RPAの役割や傾向には、何か変化はありましたか?
藤澤 コロナ禍をきっかけに、業務自動化の重要度が増したのは間違いありません。
正社員をリストラしにくい日本では、有事の際は特に、固定費化された人材を抱えているのはリスクになります。
一方で、RPAなどの“デジタルワーカー”は、変動費化しやすい労働力です。
社会状況の変化に合わせて組織体制を柔軟に変えていくためにも、ホワイトカラーの単純な事務作業を自動化するなど、労働力の配分を再考し始める経営者は多いようです。
月田 私はこれまで多くの企業をサポートしてきましたが、コロナ以前の、特に地方の中小企業では、デジタル化がまったく進んでいませんでした。
ITに抵抗があったり、そもそもパソコンを触らなかったりする場合が多く、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは程遠い状況。それを私は「DX 0.1」と呼んでいました。
ここ数年でRPAの導入が進んだのは、ほとんどが大企業です。本当にRPAを活用すべきは、属人的な業務が多いうえに人材不足問題も抱える中小企業なのに、紙がデジタル化されデータに変換されないとRPAは導入できない。そのジレンマをずっと抱えていました。
でも、コロナ禍の影響でやむを得ずWeb会議ツールを使ったり、リモートワークを取り入れたり、デジタルの恩恵を実感する中堅以下の企業が徐々に増えたので「やっとRPAがスタートラインに立てた」と思えたんです。

「RPAブーム」は去ったのか?

──RPAは大企業での導入が進んだ一方で、「導入したけれど活用していない」という声も聞きます。「ブームは去った」とも揶揄されますが、現状はどうでしょうか。
月田 RPAの活用がうまくいっている企業は、自社で運用できるようにコストをかけて組織を構築しています。
彼らはロボットの数を増やしながら、人とロボットが共存する「脱・労働集約型」の働き方を実現させています。
逆に、導入したけれど活用できていないのは、運用面でうまくいかなかった企業。
ロボットは、いつもと違う選択肢を与えられると判断できずに動かなくなったりするので、エラーが出たときに修復できる人がいないと、使えなくなります。
(※2)RPA導入率:社数ベース。回答企業全体(n=1,021)を分母、RPAを「利用している」と回答した企業を分子として計算。計算の関係上、構成比の合計は100%にならないことがある。
藤澤 そうなんですよね。状況に合わせて業務フローは変わっていきますし、想定外のことも起こります。
ロボットはAIと違って業務フローが変わったことも、予期せぬ選択肢への対処方法も判断できません。だから、しっかりと運用管理をする必要があるんです。
月田 RPAを導入すれば「なんでもできる」と誤解されることが多く、過度な期待を抱かれがちなのですが、導入直後は「新入社員と同じ」と考えるべき。
ひとつずつ教えて育てていく必要があるので、最初から完璧なロボットを作ろうとは考えないことです。
また、「全業務のプロセス改善」など、大掛かりにやりすぎると失敗するので、身近にある小さな業務から自動化の事例を作って、少しずつ広げていくと成功につながると思います。

コスト削減→顧客満足度の向上

──昭和的な「労働集約型」の働き方から脱却するために、RPAは有効でしょうか。
藤澤 僕はよく経営者に「労働力の定義が変わっている」という話をします。
働くのはヒトだけではない。デジタルワーカーも仲間入りしていると。
デジタルワーカーも含めた労働力を経営資源にできるのか、相変わらず人だけを経営資源として考えるのかで、企業には大きな差がつきます。
そもそもデジタルワーカーは文句を言わずに休まず働いてくれますから(笑)、労働集約的な単純作業は任せてしまった方が良いでしょう。
月田 単純作業で負担になりやすい作業、例えば入力や登録、検索、集計、データチェックなどをロボットに代替すると、社員は実践的な仕事に専念できますし、モチベーションも上がります。
以前、ある不動産会社にRPAを導入し、ユーザーからの問い合わせに対して「条件に合った物件を検索して返信する」という業務を自動化しました。
これにより実現できたのは、1店舗あたり月間120時間分の作業時間の削減と、返信の遅延による顧客満足度の低下防止です。
また、それまで大きな負担になっていた単純作業をロボットに置き換えたことで従業員たちはとても喜び、精神面にもポジティブな影響がありました。
2年ほど前はRPA導入の目的はコスト削減や効率化がメインでしたが、中堅以下の企業の導入が進んできたことで、社員満足度や顧客満足度を高めて売り上げにつなげるような活用方法が増えています。この傾向は大企業にも見られます。
ただ、RPAを導入すると働く人の仕事内容が変わるので、現状を変えることの覚悟と、変化を受け入れる土壌づくりがすごく大事になります。
藤澤 変化を受け入れられない現場に無理やり導入しても失敗するだけですよね。
まずは「うちの会社はデジタル化や自動化を進めることで、人間は人間らしい仕事と働き方をするんだ」という共通認識を醸成することが大切だと思います。

ロボットにも「働き方改革」の波が

──大企業のようにコストをかけて運用体制を構築できない中堅以下の企業は、RPA導入のハードルが高いように思います。それはどう回避できるでしょうか?
藤澤 ひとつの業務を自動化するロボットを作るところまでは難度が低いのですが、エラーが出たときにロボットを修正するのが難しいんですね。
エラーのパターンはたくさんあるし、最初からエラーが起きたときの対応まで想定してロボット開発するのも難しい。
特に中小企業はRPA開発の専任担当がいない場合がほとんどなので、社内の誰かが兼業でやるくらいなら、導入時から専門家の力を活用するといいと思います。
開発時にアドバイスをもらうのはもちろん、エラーが出たときにオンラインで対応してもらえたら、低コストでの運用が可能です。
もちろん大企業に関しても、組織変更などで引き継ぎがうまくできなかったり、業務の属人化は起こり得るので、運用面で外部アドバイスを取り入れるのは有用だと思います。
最近では、業界や職種特化型のRPAサービスが増えているので、それを活用すると導入ハードルはさらに低くなります。
たとえば不動産向けのRPAなら、どの不動産企業にも必要な作業ができるロボットが作られているから、それを月額課金で導入すればいい。
月田 特化型RPAサービスは、「ロボット派遣」と同義ですよね。活用する分だけ対価を払えばいいので、導入も運用も手間がかかりません。
特化型のRPAでなくても、外部企業に月に10〜20時間程度のリモートによる保守を委託する方法などもあります。
RPA導入後のお困りごとに対して伴走するカスタマーサクセスのサービスは増えているので、特定の業種に特化している大企業や、中堅以下の企業も導入ハードルは低くなっていると思いますよ。
©NicoElNino/iStock
──RPAを取り巻くサービスやツールは進化しているのですね。
藤澤 ロボットを簡単に開発できるツールや、何を自動化するかを見極めるための業務可視化ツールなど、新しいものがどんどん増えています。
月田 2年ほど前とは随分変わってきましたよね。
最近は「ロボットを開発するのが面倒」と言われるケースが多いので、開発を請け負ってロボットを派遣することが増えました。
また、これまではフルタイム常駐型の“正規雇用ロボット”が当たり前のように考えられていましたが、今はロボットにも「働き方改革」の波が来ていて、繁忙期だけの「派遣ロボット」として使われる場合もあります。
自社の目的やゴールに適したロボットを選べる時代になりました。

ひとつのワークフローを、人とロボットが行き来する

──人とRPAの役割分担について、改めて教えてください。
藤澤 ブルーカラーとホワイトカラーに、「ロボットカラー」の働き方が加わりました。つまり、ホワイトカラーの定型業務が「ロボットカラー」に置き換えられているという意味です。
ルール化された業務はRPAがこなし、人は人にしかできない本質的な仕事をする。
それが「ヒトとロボット」の最適な役割分担だと思います。
月田 1つのワークフローのなかで、人とロボットは補完し合う関係です。
単純作業や、人がやるとミスをしそうな細かい業務はロボットに担当してもらい、認知や判断が必要な仕事は人が担当する。1つのワークフローを人とロボットが交互に担当するケースは、よくあることです。
誤解してほしくないのは、「すべての業務をRPAに置き換えられない」ということ。
人はロボットに代替されるのではなく、共存するものなので、その特性をうまく利活用して最適な労働スタイルを構築してほしいです。
──RPAを取り巻く環境やツールは、これからどのように進化すると思いますか?
藤澤 RPAツールはかなり機能がリッチになってきていますし、いろんな企業がツールを提供し始めたことで、全体の価格が下がってきました。導入する企業の裾野はこれからもっと広がると思います。
月田 私は自社に合ったロボットを能動的に選べるような、もっと自由な市場になるのではないかと思っています。
RPAによってどのようにデジタル化を進めたいのか、働き方をどう変えたいのかなど、目指すゴールを明確にした上で、選択をする。
いずれにしても、ロボットを一緒に働く人材と捉え、人が人らしく働けるようになってほしい。ひいては昭和型労働から脱却し、誰もが自分らしいワークアンドライフを実現できる世の中になればいいなと思います。
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昭和の典型例ともいえる「労働集約型」から脱却し、ヒトが充実した人生を送るためにも、デジタルレイバーは重要な資源となる。特に働き方の再定義が注目されるアフターコロナの世界では、中小・中堅・大企業もふくめ、業務自動化の波は高まるだろう。
RPA導入だけでなく、その後の運用も並走してくれる支援サービスも選択肢のひとつとして持ちながら自動化を実装できれば、人間の働き方にもスピーディーな変革がもたらされるに違いない。
(取材・編集:川口あい、構成:田村朋美、撮影:小池大介、デザイン:板庇浩治)