シンディー・フリン氏は、法律事務所ハックラー・フリン&アソシエイツの創設者でマネージングパートナーだ。同法律事務所は、雇用関連の法律・契約を専門としており、雇用主の権利を守ることに注力している。

雇用法の専門家であり、起業家機構(Entrepreneurs' Organization:EO)ロサンゼルス支部の会員でもあるフリン氏は、EOのポッドキャスト「Wonder」にゲスト出演し、自らの見識を共有してくれたこともある。

そのフリン氏が現在大きな関心を持っているのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下で、働き方が今後どのように変化していくかだ。そして、そのタイムリーなテーマを取り上げたあるポッドキャストを紹介してくれた。

分散型労働がニューノーマルになる

新型コロナウイルスによる影響で、私たちは長期にわたる休業を余儀なくされてきた。事業の再開について熟考する事業主たちは、「未来の働き方」について大きな関心をもっている。
私たちは起業家として、事業の収益に目を光らせながら、従業員にとって正しいことをしたいと望んでいる。
私は、自分の事業をどのように再開し、クライアントの事業をどのように導くかを決める過程で、サム・ハリス氏のポッドキャスト「Making Sense」を聞いてみた。「分散」型労働の提唱者であるマット・マレンウェッグ氏をインタビューした内容だ。
分散型労働とは、私たちが「リモート」ワークと呼ぶもののことだ。マレンウェッグ氏のユニークな視点は私に、リモートワークとそれがニューノーマルになる可能性について、もう一度考えてみるきっかけを与えてくれた。

オフィス閉鎖のアーリーアダプター

マレンウェッグ氏はオフィスで働いていない。そのため、デスクにろうそくを置いて、その炎を見て集中したり、ミーティングとミーティングの間にスクワットや腕立て伏せを行い、血流を促進したりといったことができる。
同氏の会社オートマティック(Automattic)では、従業員1200人全員が「分散」し、世界中のデスクで仕事をしている。
マレンウェッグ氏の名前を知らない人もいるかもしれないが、同氏の仕事はおそらく知っているはずだ。彼は、オープンソースのCMS(コンテンツ管理システム)「WordPress」を開発した人物だ。オートマティックはWordPressのほか、Jetpack、WooCommerce、Longreads、Atavistを提供している。
新型コロナウイルスによる影響で、世界中のオフィスが閉鎖したとき、マレンウェッグ氏は予言者のような存在となった。多くの企業リーダーたちが、マレンウェッグ氏に仕事の未来を見出している。マレンウェッグ氏の分散型アプローチを導入すると決めた企業もある。
ツイッターは新型コロナウイルスとは無関係に、恒久的な在宅勤務に移行しようとしている。ショッピファイ、スクエア、スポティファイのほか、ビットコイン取引所のコインベースも同様だ。
ネイションワイド・ミューチュアル・インシュアランスは、ハイブリッド型のモデルを採用。主要な拠点を4つだけ維持し、ほかのオフィスは11月までに閉鎖することに決めた。
マレンウェッグ氏はポッドキャストで、分散型労働について「倫理的に不可欠なことだと思う」と語っている。労働者にとって、はるかに人間的な働き方だというのだ。子どもを学校まで迎えに行ったり、スクワットで健康を維持したり、デスクでろうそくをともしたり、さまざまな人間らしいことを自由にできるためだ。

分散型労働者のほうが生産的な理由

世間一般の通念とは異なり、分散型労働者のほうが生産的だと、マレンウェッグ氏は述べる。仕事に使える時間が多いし、たとえば匂いの強い食べ物を持ち込む同僚など、オフィス特有のいら立たしいことや集中力を乱されることと無縁なためだ。
また、モチベーションに関しても、オフィスで同僚から見られていることには、魔法のような力はない。「家で働くよりオフィスで働くほうが、むしろ怠けやすいと思う」とマレンウェッグ氏は語る。
「家にいる場合、成果が2~3日なければ、周りの人たちに気がつかれる。一方、オフィスにいる場合は、朝早く出勤し、身なりが良く、会議で賢そうな質問を投げかけ、酒を飲んでおらず、コンピューターの画面でFacebookを見ていなければ、3~4カ月はなんとか生き抜くことができる」
マレンウェッグ氏は、分散型労働についてたくさんのことを考えてきた。オートマティックの組織を構築する際は、ダニエル・ピンク氏の著書、なかでも『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(邦訳:講談社)を参考にした。
簡単に要約すると、私たちのモチベーションは金銭ではなく、自主性、熟達、目的なのだ。

分散型労働の実現度「5つのレベル」

企業の変化を手助けするため、マレンウェッグ氏は分散型労働を5つのレベルに分けて説明している(レベル0を含めると6つのレベルになる。レベル0は、外科医、建設作業員、消防士、フライト・アテンダントなど、その場にいなければ成立しない仕事だ)。
レベル1は悪い。「会社の設備や空間を使い、会社の時間で」行われる仕事だ。在宅勤務を支援するインフラは皆無、または皆無に等しい。このような企業は、新型コロナウイルスに対してほぼ無力だった。
レベル2は少し良い。Microsoft Teamsなどでビデオ会議を行っているが、いまだにすべてが同期されている。つまり、全員が同時に働いているということだ。
マレンウェッグ氏によれば、これは重大な間違いだという。人々が異なる時間、異なる時間帯、あるいは夜に働くことができるようにすれば、企業にとっての1日が長くなる。「基本的に、24時間体制が手に入る」とマレンウェッグ氏は説明する。
レベル3はかなり良い。分散型、非同期型の労働が本格的に始まるのはレベル4からだ。従業員は強力なホームオフィス環境を持ち、管理者は、いつ、どのように生み出されるかではなく、何が生み出されるかを重視する。
「本当の意味でインクルーシブ(包括的)な組織だ。基準が客観的で、自分のやり方で仕事を遂行する主体性が与えられるためだ」
レベル5は楽園だ。「あらゆる対面型の組織よりも、確実に良いパフォーマンスを実現できる。従業員は苦もなく力を発揮する。全員が心身の健康を維持するための時間を持つことができる。そして、最高の自分、最高レベルの創造性で、キャリア最高の仕事を成し遂げ、それを楽しむことができる」
パーティションで仕切られたオフィスより良さそうではないだろうか。

分散型労働がすべての人に力を与える

分散型労働の長所の一つが、内向的な人に力を与え、対面型の会議を支配する「口先だけの人」をおとなしくさせることだ。
マレンウェッグ氏によれば、誰かが交通ルールを無視して道路を渡り始めたとき、その人物がみすぼらしい服を着ている場合よりスーツを着ている場合のほうが、人々が追随する確率が高いという研究結果もあるという。会議も同様で、やはりスーツは強い。
「ほとんどの会議はひどいありさまだ」とマレンウェッグ氏は断言する。高給取りの意見が最も重要で、思慮深い人々は発言を控え、騒々しい人々が支配する。
一方、分散型の環境では、会議はシンプルな電子メールになり(電子メールは誰でもできる!)、じっくり考えてから貢献できる。とくに、内向的な人は議論に加わりたくなるはずだ。
意思決定に時間がかかるかもしれないが、その価値はある。しかし、電子メールのような文字の場合、重要なメッセージを見逃したり、誤解が生じたりすることはないだろうか。上司が怒っていると勘違いすることはないだろうか。
マレンウェッグ氏は、ある社内ルールをつくった。API(Assume Positive Intent)、つまり相手には前向きな意図があると考えることだ。シンプルなメッセージの裏を読まないようにする。そして、何かを書くときは「親切で人間味のある」メッセージを伝える。
それでも効果がなければ、電話をかければいいとマレンウェッグ氏は言う。「電話をかければ、状況が悪化することを防ぎ、事態をうまく収拾できるだろう」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Entrepreneurs' Organization、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:Aslan Alphan/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.