「レガシーとの共存」でLINE経済圏8400万人の市場を動かせ

2020/6/30
米中IT企業を筆頭に「O2O(Online to Offline)」ビジネスが拡大している。「O2O」とは、オンラインからオフラインの行動へと促す施策や、オンラインでの情報接触行動からオフラインでの購買行動に影響を与える施策を指す。

コロナ禍の影響でオンラインサービスの需要も高まったこともあり、多くのサービスにおいて「O2O」ビジネスに移行する気運も高まっている。

そのような中で、LINEは月間アクティブユーザー数が8400万人と、国内では圧倒的な数を武器に、O2O事業に取り組んできた。

今後、どのようにしてO2Oを浸透させ、「LINE経済圏」を広げていくのか。LINEグループでO2O事業をリードし、2020年6月に出前館の代表取締役社長に就任した藤井英雄氏と、LINEのAIカンパニーCEOの砂金信一郎氏から事業の未来を探った。
“日常使い”の強みを生かしたLINEの「O2O」
──LINEのO2O事業では圧倒的なユーザー数を武器に、様々なサービスを立ち上げてきました。これまでの手応えはいかがですか。
藤井 O2O関連のサービスを本格化させて3年以上経ちますが、我々は当初から「Commerce Gateway」という理念を掲げていました。
 簡単に言うと「LINEのユーザーを様々な企業のサイトやサービスに“送客”する」ということです。
 これまで「ショッピング」「グルメ」「トラベル」という3つの軸で、オンラインへの送客を担う「Offline to Online」と、オフラインへの送客を担う「Online to Offline」の双方向サービスで動いてきました。
 例えば「LINEデリマ」と「LINEポケオ」はどちらもグルメの送客サービスですが、前者は宅配(オンライン)、後者はテイクアウトの事前注文(オフライン)という関係になっています。
 LINEが目指しているO2Oの形は「誰でも、いつでも、どこでも、欲しいものが何でも揃うマーケティングプラットフォーム」です。
 LINEは国内8400万人のユーザーが、日常的に使っていることが最大の強み。
 その強みを活かしながら、現在はユーザーが状況に応じて、オンラインとオフラインを比較しながら買い物を楽しめるような環境作りが、この3つの軸でようやく形になってきた段階です。
 正直なところ、かなり試行錯誤して、やっとここまで来ました(笑)。ただ、まだまだ助走段階。これからやりたいと思っていること、やらなければいけないことが山積みといった感じです。
──特にグルメの領域では、3月に出前館との資本業務提携が発表されて大きな話題になりました。
藤井 まだまだ日本には配送不可の飲食店が多いなかで、出前館には5~10倍の成長ポテンシャルがあります。
 今回の提携で、システム開発やマーケティングに力を入れ、配送代行・シェアリングデリバリーとテイクアウトを組み合わせながら、より多くのグルメの領域をカバーすることが我々の狙いです。
 現在運営している「LINEデリマ」と「LINEポケオ」も出前館に一本化し、今後O2O事業は、出前館事業に最も注力していきます。
「レガシーとの共存」が日本のO2O事業の課題
──とはいえ、まだ日本ではO2Oの成功事例が少ないと言われています。何が障壁になっているのでしょうか?
藤井 一番の要因は、クライアント側のオペレーション構築に大きなコストがかかってしまうことです。
 例えば、新しいオンラインサービスを導入して、実装する場合には、オフラインの店舗にオペレーションを周知させなければなりませんよね。1000店舗ある企業だったら、アルバイトを含めてスタッフはかなりの人数です。
 つまり実際に機能させていくためには、社長や取締役レベルが直接指揮を執らないと導入できないシステムということ。そこが一番の壁になっていると思います。
 企業のトップが、本当に変化の必要性を感じて、思い切ってジャッジメントしなければならないので、今後もO2Oのサービスを導入してくためには課題になってきますね。
 一方でコロナ禍の影響によって、デリバリーやテイクアウトに関しては追い風なのも事実。オフラインに人を集めるような施策は難しいのですが、そこは風向きが完全に変わってきた感覚がありますね。
──O2Oの先進国である中国では、コロナ禍以前からAIやビッグデータを活用したデジタルシフトが進んでいます。日本も同じような道を歩むと思いますか?
藤井 中国は完全キャッシュレスで、全てを一つのスーパーアプリが解決する世界が訪れていますし、我々もLINE Payを中心としたFintech系サービスとも連携を強化して、ユーザーを感動させるような買い物体験を作り出したい。
 しかしながら、日本では中国のようにはならないと考えています。
 特に“現金”での決済、“電話”での会話など、レガシーな文化と呼ばれるものは、中国や欧米と比べても根強く残っていくはずです。
 実際、フードデリバリーの現場でも、日本は現金による代金引換の比率が高い。だから、そこで強引にデジタル化を進めようとすると、O2Oのマーケットがすごく小さくなってしまう。
 ゆえに、今後LINEがO2O事業を拡大させていくには「レガシーとの共存」が重要なキーワードになります。
──「レガシーとの共存」ですか。
藤井 例えば、出前館でも電話での問い合わせをやめたいと思っているクライアントが多いんですよ。
 でも、やはり電話という文化は当分なくなりそうもないし、「そんなの全部チャットで済ませればいいじゃん」というわけにもいかない。これは地方に行けば行くほど、その傾向があります。
 ということは、全てをデジタル化するよりも、レガシーの文化を残しつつ、ピンポイントでデジタル化を進めるほうが良い。
 例えば、電話での問い合わせならば、音声応対AIサービスを導入することで、電話を残しながらデジタルの力によって業務効率を推進する。それが日本独自の考え方かなと。
──となると、砂金さんが率いるLINE AIカンパニーとの連携が大事になってきそうです。
藤井 そうですね。実際、LINEでは「LINE AiCall」という音声応対AIサービスを開発しました。
 ユーザーがスタッフと会話する感覚で飲食店の席を予約したり、メニュー予約に自動で対応したりするサービスです。
砂金 我々としては、O2O事業との連携によって、大量の実運用事例などが得られ、結果的に音声性能などのAI自体の改善にも繋がると考えています。
 どんなジャンルの要求にも応える万能型の音声システムはまだ存在しませんが、用途を特定すれば急速に性能を改善させることが可能となります。
 グローバルジャイアントだと、なかなか日本語対応のAI開発にリソースを注げませんから、LINEこそが注力できる。
 一つのサービスや領域の精度を徹底的に上げることが、我々AI事業にとっても成長の鍵になります。
 「LINE AiCall」を介して予約などのコミュニケーションが便利になれば、お店のスタッフは料理や目の前の接客に集中できる。利便性の向上によって、企業に利益が生まれるはずです。
フラットな組織とコミュニケーションで、イノベーションを生み出せ
──O2O事業はLINEグループの将来的な成長を担う主軸サービスになることが期待されています。どのような方に仲間になってほしいですか?
藤井 「レガシーとの共存」って、先ほど思いつきでお話ししたのですが、我ながらなかなかいい言葉だなと思って(笑)。
 というのも、我々のミッションはユーザーと世の中のサービス・企業との距離を近づけることです。
 そのためには必ず「レガシーとの共存」が必要になる。もちろん障壁はありますが、LINEだからこそチャレンジできる土台があることに、面白さを感じていただけたらなと。
砂金 「研究のための研究」というか、理想ばかり語って全然浸透しないサービスは、AIを研究する我々も飽きているんです(笑)。事実、まだ全知全能のAIは存在していませんし。
 自分が作ったものが、日常的に使われて、誰かの役に立って、感謝してもらえる姿が目に浮かぶ。
 そんな手触り感のあるサービスを作りたいっていう人に来てほしいですね。これは宣伝文句じゃないですよ(笑)。あらゆる開発やサービス展開など、実際にそういう方針で意思決定していますから。
藤井 砂金がお話ししたように、オンラインサービスを提供する会社で働く人のモチベーションって、自分が作っているサービスが社会に影響を与えていることを、自分の目で確かめられることだと思います。
 僕自身、デリバリーのスタッフが走っている姿を見ると、嬉しさがこみ上げてきますし。
 特にLINEの場合はオンラインの会社なのに、オフラインでもユーザーを確認できる。珍しい感覚を味わえますよね。
Photo:Getty Images
──ITのサービスは複雑で、実態が見えにくい。そういう意味では「手触り感」に共感を持てる人は、楽しめるかもしれませんね。
藤井 この業界ではありがちですが、面接で横文字を連発するような評論家タイプの人は理想と現実のギャップに面食らうかもしれません(笑)。
 僕たちのビジネスは本当に手探りで、暗雲の中に突っ込んでいくような案件がすごく多いです。どんどん知らないことを学びながら、自分の成長を楽しめる人には向いていると思います。
 実際に、O2O事業には、成長意欲が高くて、チャレンジマインドが強いメンバーが多く集まっています。モチベーションサーベイを使った社内調査でも、「自己成長」の項目が全社平均よりも突出して高かったんですよ。
 僕自身も、やる気やスキルがある人にはどんどん仕事を任せています。いつも、新しいメンバーが入社するときには「成長にコミットします」と話しているくらいなので。
 ただ、トップダウンだとイノベーションが生まれにくい環境になってしまうので、年齢や社歴などに関係なく、フラットなコミュニケーションをする雰囲気も意識的に作っています。
──具体的にはどのようなことでしょうか。
藤井 特に組織作りにあたっては、フレキシビリティをかなり持たせていますね。例えば、リーダークラスの人でも、もっと新規事業にコミットしたいと希望するなら、肩書きを外した上で、それにフルコミットしてもらうことも日常茶飯事。
 会社に長く在籍しているから高いポジションにいるような人も、あまりいません。
 流動性が高くなっているのは、チャレンジを選ぶ人が多いからかもしれません。マーケティング一つをとっても、一般的なウェブマーケティングで通用していたことが、LINEでは通用しないことも結構あるんです。
 それに対応するには、知らないことを学び、成長し続けないといけない。すごく大変だし、ストレスもかかるんですけど、みんな主体的にファイティングポーズをとってますね(笑)。
 だからこそ、肩書きやこれまでの常識に縛られずに、事業をリードしていきたいと思う、勇気のある人材を求めています。
 LINEには挑戦しがいのあるチャンスがまだまだたくさんある。ぜひ、この暗雲の中を一緒に走れる人と働けると嬉しいですね。
(編集:海達亮弥 執筆:浅原聡 撮影:依田純子 デザイン:堤香菜)