新型コロナウイルスの危機が広がる中、企業は顧客へのアクセスや、サプライチェーンの維持、売上の捻出などに関して、新しい戦略を大胆に開発してきた。そうした戦略の多くは非常に革新的なものだった。
しかし、ホワイトカラーの労働環境に関するあらゆること、つまり、いつ、どこで、どのように働くかに関しては、まさに私が予想してきた通りの変化が起きている。これはホワイトカラーの人たちが変革的でないという意味ではない。
いわば、ホワイトカラーがコロナ危機のおかげで、年々少しずつ近づきつつあった未来、いわゆる「フューチャー・オブ・ワーク(働き方の未来)」に飛び込んだということだ。
コロンビア大学プロフェッショナル・スタディーズ大学院の学長として、また人的資源マネジメントを専門とする教授として、私は研究でも講義でも、「働き方の未来」の領域にフォーカスしてきた。
そして、リモートワークに適した職場、データを根拠とし、社会的インパクトを重視する職場に転換するためには、どんな推進要因が必要なのかを長年考えてきた。
パンデミックが推進要因となることなど願ってもいなかったが、パンデミックによって突然に訪れた新しい働き方は、このまま定着するだろうと考えている。
ここでは、企業のリーダーがこの状況に適応していくために、特に注意を払ってほしい「働き方の未来」の4つの柱を提示する。
1つ目の柱:柔軟な勤務時間
パンデミックの発生以来、「オフィス」の定義が大きく変わった。会社の机やコワーキングスペースだけでなく、キッチンのテーブルやソファ、バスルームさえもオフィスに含まれるようになった。
「勤務時間」の定義も変わった。いまや、すべての従業員が定められた同じ時間に勤務するのではなくなっている。
オフィスや勤務時間が明確に定められないため、従業員は自身のスケジュールや生産性をベースとして、自分自身がどれだけ働けるかを定め、それを表明せざるを得なくなっている。こうした変化が、「働き方の未来」でもいずれは起こっていたはずだ。
企業のリーダーの中には、こうした柔軟性は生産性の低下につながると懸念している人がいるかもしれないが、私にはその逆の心配がある。
オフィスでの生活と自宅での生活の区別が曖昧になると、従業員が働き過ぎてしまう可能性がある、ということだ。
たとえば、開発者やテクノロジー系の従業員4500人以上を対象としたある調査では、リモートワークをしている人の66%が「疲れ切っている」と感じていると訴えた。その理由として、半分以上の人が、労働時間が長くなっていることを挙げた。
リーダーはこの点を心に留め、部下を細かく管理したいという気持ちを抑え、新たにリモートワークを始めた従業員の支援者として行動するべきだ。
明確な境界線を引き、リモートワークで燃え尽きないよう、従業員がみずからを守ることを促すのである。
2つ目の柱:データを根拠とした評価指標
より柔軟な環境であっても、リーダーは従業員の業績評価を止める必要はまったくない。反対に、行う必要があるのは、新しい評価指標を作成することだ。
というのも、従業員の仕事ぶりをオフィスにいた時間で評価するという(愚かとも言える)やり方は、もう使えないからだ。
ホームページ作成ソフトの「ワードプレス」を開発したテクノロジー企業、オートマティック(Automattic)では、1180人の従業員全員がリモートワークである。
CEOのマット・マレンウェッグによると、個々人の成果を測る上で、同社はインプットよりもアウトプットに注目しているという。つまり、何時間を仕事にあてられるかではなく、「実際に何を生み出したか」を問う。
パンデミックの最中でもそのあとでも、リモートワークを成功させるためには、リーダーはマレンウェッグにならう必要があり、また個々人の成果を評価する測定可能な指標を新たに開発する必要がある。
それは、たとえば営業担当者であれば電話をかけた本数かもしれないし、人事担当者であれば従業員の離職率かもしれない。こうした指標は職種ごとに変わってくるので、リーダーはためらわずに自分の部署のメンバーと相談して、指標をともに作成するべきだ。
そして、いったん評価指標を定めたら、従業員にこの先何を期待するのか、リーダーはきわめて明確に示さなければならない。
ラインのマネジャーや上司は、部署のメンバーとのミーティングを設定して疑問に答え、障害を取り除くべきだ。加えて、今後は一対一の面談を定期的に実施することを決める。
というのも、リモートワークになると、従業員はより頻繁なフィードバックを欲するようになるからだ。
しかし、リモートで働く従業員のマネジメントで、最も重要なカギとなるのは信頼である。リーダーは、自分が優れた従業員を雇ったと信じ、その優れた従業員たちが、自らが報酬をもらっている仕事をし続けると信じなければならない。
こうした信頼があってこそ、パンデミックの最中もそのあとも、リーダーは優れたリモート文化を育むことができる。
3つ目の柱:社会的インパクト
新型コロナウイルスが襲来するや否や、企業はさまざまに援助の手を差し伸べた。蒸留酒の製造所で手指の消毒液を大量生産したり、医療従事者にホテルの部屋を提供したり、資金やマスクやポンチョなど、あらゆるものを寄付したりした。
こうした行為は単に宣伝のためだと言う人がいるかもしれない。実際、宣伝の部分もあっただろう。しかし、いずれにせよ結果は同じである。
すなわち、企業は社会的善と言うマントを身にまとい、パンデミックが消え去ってもそれを捨て去りそうにないということだ。
実際、企業はもともとその道をたどりつつあった。2019年8月に、主要企業181社のCEOが名を連ねる団体、ビジネス・ラウンドテーブルが、企業の目的の定義を拡大し、「事業を行っているコミュニティをサポートする」ことを含めることとした。
今日、従業員や顧客は、みずからと関わり合いのある企業の価値観に深い関心を持っている。言い換えると、「働き方の未来」には、その中心部に社会的善が組み込まれているということだ。
先進的なリーダーは、企業の社会的インパクトを重視し続けるだろう。彼らは非営利団体と長期的な関係を築き、経営資源や資金やボランティアの機会などを提供し、利益以外の部分にも投資する文化を育むだろう。
4つ目の柱:裏表のない人間関係
私は数十年ビジネスの世界にいるが、形式や儀礼といったものはかなり消えていったと認識している。
上司に対して丁寧な呼称を使ったり、姓で「~さん」と呼びかけたりする人はほぼいなくなり、たいていはファーストネームで呼ぶ。現代の職場のコミュニケーションには、絵文字や略語など、10年前なら許されなかった会話的要素があふれている。
世界的な危機をともに経験している現在、最後に残ったフォーマルさもはぎ取られつつある。お互いが文字通りお互いの家の中を見るようになり、配偶者やペットや子どもたちとも顔を合わせる。その中で、「ビジネスカジュアル」という言葉は新たな意味を持つようになった。
以前は「プロらしくない」と見なされた「ちょっとした事故」も、いまでは「ホームオフィスでの日常」である。
これによって、職場でのやり取りがより裏表のない、リラックスしたものになっている。これが「働き方の未来」の一つの要素である。
ここで重要なのは、職場でのやり取りが、カジュアルではあるが事務的なものだけにならないようにすることだ。
従業員は、冷水器の周辺やオフィスでの雑談がなくなり、同僚は用がある時だけしか連絡して来ないような気がしている。
その中でリーダーができるのは、たとえばヴァーチャルなランチや親睦会、オンラインでの読書会、エクササイズやクッキング・チャレンジなどを通じて、もっと意味のある関係を築くよう促すことだ。仕事以外のことについて、従業員たちが会話できる機会を提供するのである。
現時点においては、新型コロナウイルスによって生活の大半が左右されることのない日々など、想像することも難しくなっている。
しかし、私はその日がやってくると確信している。そしてその日が来たら、不要なフォーマルさや、固定のオフィスや通勤といった制約にすぐに立ち戻ることは賢明ではないと考える。
そうではなく、「働き方の未来」がすでに到来したことを受け入れ、そうすることによって、リーダー自身もそのチームも、次に来るものが何であれ、それに備えるのである。
(執筆:Jason Wingard、翻訳:東方雅美、バナーデザイン:月森恭助)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.