在宅勤務は従業員の生産性が低くなるという神話は多くの研究によって打破されたが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が多くの人々の集中力に影響を与えたことは間違いない。
PwCが米国企業のCFO(最高財務責任者)約300人を対象に実施した最新の調査では、翌月にリモート機能の欠如により生産性が低下すると予測した人は34%だった。63%だった約8週間前に比べ、著しく向上している。
CFOの43%は一部の職種を恒久的にリモートワークにする計画だと答えており、実際にそうなる可能性が高い。
しかし、多くの企業でリモートワークが近い将来のニューノーマルになるのであれば、ビジネスをできるだけ早く軌道に戻し生産性を向上させるための施策に、ビジネスリーダーは真剣に取り組むべきだ。
来年以降も不確実な状況が続く可能性が高いことを踏まえ、リモートワークの従業員の健康に配慮しながら、彼らの生産性を向上させる3つの戦略を紹介しよう。

①危機が去っても「共感」は失わない

今回の危機の中でも、多くのリーダーが従業員の安全と健康を決断の中心に置いていることは喜ばしい。
リモートワークのチームを指導する上では、共感的なリーダーシップは今後も欠かせないだろう。共感を持って導くことが正しい行動であるだけでなく、従業員が積極的に関与し、支持されていると感じると生産的になる傾向が強い。
リモートチームが特に必要としているのは、次の4つだ。
自律性:仕事と他の責務を両立させるためにすべき行動は、部下に任せよう。
研究によれば、リーダーがリモートワークの従業員に真の自律性と柔軟性を与えると、彼らの生産性は向上する。
コミュニティ:在宅勤務は、人との交流や関係構築の機会を減らしかねない。チームの育成を奨励し、メンバーが同僚としてだけでなく、人としてつながり、互いを知る方法を模索しよう。
一体感:取り残されたり、見過ごされたりしていると感じる従業員は、貢献や生産の意欲を感じにくい。残念ながら、リモートワークの環境は、先入観が入りやすく、自分の存在が見えなくなっていると従業員が感じがちだ。
全員に貢献する機会を与えることで、敬意を高め、全ての人を受け入れる行動の手本を示そう。
サポート:生産性を低下させる大きな要因が燃え尽きだ。多くの人はパンデミック前よりも長い時間自宅で働いており、休暇を奨励することが重要だ。
企業が従業員を解雇しているときに、自分の価値を示したいからと仕事を休みたがらない人もいるかもしれない。
試してほしいのが、チーム全員を同じ日に休ませる方法だ。私たちのクライアントである大手IT企業がこの方法を検討しているのは、誰もが確実に休暇を取ることができ、罪悪感を感じたり乗り遅れたことを心配したりする必要がないからだ。

②スキルアップを継続する

多くの企業にとっては、リモートワークに突然移行したことで、従業員が高いデジタルスキルを身につけ、新しい働き方に適応する必要性が浮き彫りになった。
多くの従業員は、技術的な問題への対処から対面せずに共同作業をする方法を見つけることまで、リモートワークをうまく乗り切る術を身につけるのに多くの時間を費やしている。
職場への復帰に伴ってオートメーションを促進し、新しい働き方を採用する計画であると米国のCFOの37%が答えた。そのためには、従業員が新しいスキルを身につける時間を設けることが大切だ。
リーダーがビジネスの強化を重視している時は、従業員の能力開発やスキルアップが脇に追いやられることがある。
しかし、リモートチームにおいては、メンバーが技術の変化や新しいコラボレーションツールに遅れまいと苦悩していると、生産性が低下してしまうのだ。

③生産性の課題に個別に対応する

リモートワークの従業員の生産性を向上させるには、妨げになっているものを把握し、彼らと1対1で問題を解決することが最も簡単なときがある。
人間工学に基づいた椅子、優れたヘッドフォン、ノートパソコンのアップグレードなど、技術的な問題があるのかもしれない。子供がホームスクールであるとか、介護が必要な家族がいる可能性もある。非常時に際して、不安を抱えているのかもしれない。
個人の生産性に影響を与える要因はたくさんあるが、コミュニケーションの手段をつくらなければ、一人ひとりがどんな問題に直面しているかを把握することはできない。
チームが選択した場合には、各々の状況や課題を共有できるようにすれば、彼らが必要なサポートを受けることができる。
また、勤務時間の短縮、スケジュールの柔軟化、メンタルヘルスのためのリソースの拡充、育児支援など、福利厚生の充実も検討すべきだ。
こうした対象を絞った福利厚生は、従業員が自らの障壁に対処し、仕事に集中する助けとなる。

非常時にも生産性を落とさないために

生産性は一夜にして向上するものではない。リモートワークに慣れていない従業員の生産性を向上させるには、長い時間がかかると想定するのが現実的だ。
しかし、パンデミックの最中でも、従業員が責務のバランスを取り、ストレスを管理し、仕事に集中することを容易にする方法で導くことは可能だ。
状況に即した方法を柔軟に取り入れることで、リモートチームがコラボレーションと問題解決の能力を持ち始める。そして最終的には生産性を着実に向上させるのに役立つのだ。
(執筆:Bhushan Sethi、翻訳:中丸碧、写真:Nadezhda Fedrunova/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.