【新】「ドリーム・ハラスメント」が若者を潰す

2020/6/26
まるで預言者のように、新しい時代のムーブメントをいち早く紹介する連載「The Prophet」。今回登場するのは、多摩大学・事務職員の高部大問氏だ。
大学のキャリア支援課で、日々学生たちの就職相談に乗る中で、高部氏はあることに気づいた。「自分は夢を持っていないから、就職に不利なのではないか」という悩みを抱えた学生が、あまりにも多いのだ。
なぜ、若者は「夢」にそれほどのプレッシャーを感じているのか。強迫観念にも似た彼らの不安の背景を、数々のインタビューや文献調査などから掘り下げていく中で、高部氏が発見したのは、国を挙げて「夢」を連呼し、無自覚に若者を追い詰める日本社会の有り様だった。
そんな風潮を、高部氏は「ドリーム・ハラスメント」と命名。ずばり『ドリーム・ハラスメント』(イースト・プレス)と題した新刊の中で、その実態を告発している。そして、われわれの一人一人がすでに「加害者」であるかもしれないと警鐘を鳴らす。
若者の社会からのドロップアウトや機会損失など、さまざまな弊害をはらんだドリーム・ハラスメントは、日本の未来に深刻なダメージを与えかねない問題だ。就活最前線からの切実な訴えに、ぜひ耳を傾けてほしい。
高部大問(たかべ・だいもん)
1986年大阪府生まれ。慶應義塾大学商学部卒。中国留学を経てリクルートに就職。自社の新卒採用や他社採用支援業務などを担当。教師でも人事でもなく、子どもたちを上から目線で評価しない支援を模索すべく、多摩大学の事務職員に転身。現在は大学以外にも活動領域を広げ、自らが手掛ける中学、高校(生徒・保護者・教員)向けキャリア講演活動は延べ56回・1万3000人を超える。また、新聞やニュースサイトへの寄稿など執筆も多数。

夢がないと就職に不利?

──「夢」がそれほどまでに若者を追い詰めているとは、衝撃的でした。
高部 今日も学生たちとオンラインで面談してきたのですが、あいかわらず「やりたいことがない」「夢がない」という悩みをぶつけてくる学生が何人もいました。
彼らは「夢がないと就職できない」と考えているフシがあります。
というのは、昨今の企業はどこも判で押したように「ビジョン」という名の「夢」を掲げています。すると就活生は、自分たちもそのノリに合わせて夢を語れるようでなければ、到底内定をもらうことなどできないと考えてしまうのです。
これは決して、学生側だけの思い込みではありません。
私立大学の就職担当者に提供される『就職指導・支援ハンドブック』の最新版には「就職をとおして自己実現したいことを明確にしない限り就職活動はスタートも相談もできません」という一文があります。
つまり就活は「夢ありき」というわけです。
(jayk7/Getty Images)
若年層に夢を押し付ける流れは、大学から始まった話ではありません。
私はこれまでに、延べ1万人以上の中高生にキャリア教育の一環として講演を行ってきました。その際、匿名でアンケートを記入してもらっているのですが、その内容を見てみると、2000人を超える中高生が、「夢は必需品ではない」というフレーズに最も感銘を受けたと書いていたのです。
それだけ「夢は絶対に持たなくてはならないもの」と思い込んでいた子どもたちが多いということでしょう。
進路面談で夢を聞く学校は少なくありませんし、卒業文集に夢を書かせるのも定番です。小学校でも、5・6年生向けの道徳の教材では、元野球選手のイチロー氏を引き合いに出して「夢に届くまでのステップ」を考えさせるという課題があったりします。
まさに「洗脳」レベルで夢が連呼されているわけです。

夢がもたらす「生きづらさ」