【青野×北野】テレワークで、組織が“バラバラ”になる理由

2020/8/7
 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、リモートワークが急速に広まっている。問題なく移行できた企業もある一方で、苦戦を強いられる企業も。

 有事にも適応できる組織の特徴とは何か?withコロナ時代に必要な、チーム作りのマインドセットとは?

 10年以上前から風通しの良い組織作りを推進してきたサイボウズ代表の青野慶久氏と、『OPENNESS(オープネス) 職場の「空気」が結果を決める』を著書に持つワンキャリア取締役の北野唯我氏が、これからの時代を生き抜くオープンなチームビルディングの秘訣を語る。

カギは「自己検証」と「自己否定」

── 新型コロナウイルスの影響で、世界中が混乱しています。まずはこのコロナ禍において何を考えたか、率直な考えをお聞かせください。
北野 「経営者の本音が出た」と感じます。
 コロナ禍を機に、多くの企業でリモートワークが始まりましたが、表ではリモートワークを推奨しながら、「外出したら逐一報告しなさい」と社員を徹底的に監視する企業もあったようで。
 普段は「社員が働きやすい環境を…」と語っている経営者でも、有事では本心が滲んでしまうんです。
 僕は『転職の思考法』という転職本を出しているんですが、実は前年の同時期より、売上が好調なんです。
 緊急事態こそ、社員は自分のリーダーがどういう行動を取るのか見ているもの。「この会社はもうダメだな」と、見切りをつける人が増えたのかもしれません。
青野 企業のリモートワーク対応には、大きな差が出ましたよね。
 すぐに社員全員にパソコンを買い揃えて、リモートワークを導入した会社もあれば、「無理だ」と完全に諦めて、自宅待機にする会社もありました。
 サイボウズで制作した「ざんねんな情報共有ずかん」にもあるのですが、ハンコのために出社しなければいけない会社や、web会議を急いで導入したものの、リモートワークをうまくできていない会社も多い印象です。
サイボウズが制作した「ざんねんな情報共有ずかん テレワーク編」。うまくいかない情報共有の事例をコミカルにまとめ、SNSなどで共感を呼んでいる。https://garoon.cybozu.co.jp/lp/zannen/telework/
── リモートワークに問題なく移行できた企業と、そうでない企業。この差はなぜ、生まれてしまうのでしょう?
北野 「自己検証」と「自己否定」を繰り返してきたかどうか。ここに尽きると思います。
 普段から「このままで良いのか?」と自分を検証し、過去を否定して改善を繰り返す習慣があった会社は、「出社できない」という状況を前にしても、打開策を模索できたはず。
「こんなツールを導入したら解決できるのでは?」「オフィス以外で働く選択肢はないのか?」というように。
 一方で、現状に何も疑問を抱かずに、企業のありのままを肯定し続けてきた会社は、なかなか働き方を変えられなかったのではないでしょうか。
青野 変化する難しさは、ビジネス界の主流のツールが、いまだにEメールである事実が、顕著に物語っています。
 世の中には便利なツールが次々と生まれているにもかかわらず、コミュニケーション手段の主流は20年以上、Eメールなんです。チャットツールやグループウェアの利便性が広く知られ、使われるようになってきたのは、最近のこと。
 リモートワークでweb会議だけ導入しても、社内のやりとりがEメールのままだと情報の整理が大変ですよね。
 今使っているツールが本当にベストなのか。それを検証し続ける姿勢は、本当に大事だと思います。
北野 「ざんねんな情報共有ずかん」にも、「テレワークとりあえず全員CC」という事例がありますが、本当に“あるある”ですよね(笑)。
 でも僕は、全員CCに入れてメールを送ってしまうのも、最初はいいと思うんです。「これって無駄じゃない?」と思ったときに、やめられるかどうか。そういった点でも、自己検証と自己否定は活きてくると思いますね。

チームがバラバラになる理由

── リモートワークでは、「部下が働いているか把握できない」「チーム内の進捗が見えにくい」といった、チームとしての生産性低下を心配する声も聞きます。
青野 リモートワークになった途端にチームがバラバラになってしまうのは、組織のビジョンや目標が共有されていないからです。
 わかりやすくたとえれば、甲子園を目指そうという明確な目標がある野球部なら、個別練習になっても一体感は保てます。一方で目指すものがわからない野球部は、個別練習になると一気に疑心暗鬼になってしまうのです。
 同様に、企業が向かう先が経営陣からオープンに共有されていたら、物理的に離れていても、チームはバラバラになりません。顔が見えない分、ケアは必要ですけどね。
── 北野さんは、著書である『OPENNESS(オープネス) 職場の「空気」が結果を決める』の中で、組織がオープンであることの重要性を示していますね。なぜオープネスが今、日本企業に求められているのでしょうか?
北野 世の中全体が、「透明性」を求める時代になっていますよね。「Me Too 運動」然り、『アナと雪の女王』の「ありのままに」というメッセージ然り。
 その社会の流れに反して、ビジネスの世界では「組織をオープンにしよう」という視点が抜け落ちがちです。この事実が、日本企業の業績の低迷を招いています。実際に2,383社のデータを分析すると、組織のオープネスと業績には、相関関係が認められています。
 そもそもオープネスとは、組織の「風通しの良さ」。具体的には、「経営開放性」「情報開放性」「自己開示性」の3つの要素から成ると、定義しています。

オープネスは生産性を上げる

── サイボウズは、以前からオープンコミュニケーションを掲げ、風通しの良い組織づくりを進めていますね。青野さんは、何がきっかけで“オープンな組織”を重視するようになったのでしょうか?
青野 新卒でパナソニックに入社したときの経験が、きっかけですね。先輩がとにかく忙しそうなんだけど、当時は情報共有ツールがなく、なぜ忙しいのかわからない。手伝いたくても、何をやっているのかわからず、手伝えなかったんです。
「もし先輩の1日のスケジュールやタスクがオープンになっていたら、新人でも手伝えることを探せたんじゃないか」と。そのときのもどかしい気持ちが、今の組織作りにもグループウェア作りにも、活きています。
 今となってはサイボウズは、経営会議もオープンです。起案事項は事前にグループウェア上にアップロードして、議事録も公開。誰がどの議案に対してどういうコメントをしたかも記録されるので、会議に参加しなくても話の流れを追うことができます。
サイボウズでは、全社員が経営会議のスケジュールを見ることができ、スケジュール上には経営会議のアジェンダも掲載されている。
── 制度や仕組みを作っても、定着するまでには時間がかかるはず。サイボウズの場合、どんなプロセスを経てオープンな組織を実現できたのでしょうか?
青野 それはもう、一歩ずつです。たとえば1万人の社員がいる企業が、いきなり「全ての会議をオープンにする」というのは厳しい。心理的に耐えられない人が、たくさん出てくると思います。
 まずは、チーム単位で始めるのも良いでしょう。サイボウズも10年かかって、今がありますから。
北野 サイボウズさんのそういうところ、実はすごく好きなんです。
 なぜオープネスが今まで浸透してこなかったかといえば、クローズドな方が既得権益の人が得しやすいという構造があるから。
 たとえば経営会議をクローズドに行うことで、情報の非対称性が生まれ、「知っている人」「知らない人」の間に権力の差が生じる。それを乗り越えるために必要なものってやっぱり、経営者の思想なんです。
「オープンな組織の方が、世の中のために良いじゃん」と言い切れて、行動できること。これが、これからの会社には問われていると思いますね。
 青野 ありがとうございます。僕がオープンな組織を目指すのは、思想の問題だけでなく、「効率の良さ」の観点もあって。
 誰が何をやっているかわからないと、「サボっているのではないか?」と、疑心暗鬼になってしまいますよね。また、チームメンバーの負担もわからず、助け合いもできなくなってしまいます。
 経営者の思想がオープンになっていれば、その理想に向かって社員が主体的に行動できるし、他部署の人が何をしているかがオープンになっていれば、部署を超えて連携できる。明らかに効率が良いと思うんです。

それを「情報共有」と呼べるか?

── オープンな組織づくりの第一歩として、「情報共有のオープン化」が挙げられると思います。具体的にどんなアクションを取るべきでしょうか?
北野 僕は、情報共有にはパターンがあると思っていて。1対1と1対N、N対Nの3つのパターンです。
 特にリモートワークで必要とされるのが、N対Nのコミュニケーション。対面だと個別に閉じても成り立っていたコミュニケーションを、N対Nのオープンなものに開放していく。この姿勢がポイントになってくるのではと、考えています。
青野 僕は長年訴えていることがあるんです。それは、メールやメッセンジャーを使ったコミュニケーションを、「情報共有」と呼ぶのはやめよう、ということ。
 メールは送られた人と送られていない人の間に、情報格差が生まれてしまうツール。まさに北野さんのおっしゃる、1対1もしくは1対Nのコミュニケーションなんですね。それは「情報共有」ではなく、「情報伝達」と呼ぶべきだろう、と。
 一方で、N対Nのコミュニケーションを実現できるのが、グループウェアだと考えていて。グループウェアを使えば、共有すればするほど、情報格差が埋まっていくのです。
── その点でサイボウズのグループウェアは、ユーザーにどんな価値を提供できるのか、教えてください。
青野 サイボウズは、Garoon(ガルーン)とサイボウズ Officeという2種類の国産グループウェアを提供しています。ざっくり分けると、ガルーンは大企業向け、サイボウズ Officeは中小企業向けで、合計7万社以上の企業に導入されています。
 両者とも、スケジュール管理から資料共有、社内コミュニケーションから勤怠管理など、全社の情報共有を、ワンプラットフォームで一元化できるクラウドサービスです。
 グループウェアの良さの1つはもちろん、生産性が上がること。たとえば、新しい方針を発表する前にグループウェアに資料をシェアすれば、事前にみんなが把握できて会議がスムーズに進む。情報格差がなくなり、オフィスに紙の資料があるから出社しなきゃ、なんてこともなくなります。
北野 ガルーンのウェブサイトを拝見したのですが、導入企業の興味深い声を見つけて。「ガルーン導入を機にペーパーレス化を宣言したところ、最初は反対されたのに、今では紙の資料を渡すと突き返されるようになった」というものです。
 とりあえずやってみる、って本当に大事だなと思いますね。とりあえずツールを導入してみる。紙の資料をやめてみる。やる前は面倒くさがっても、人間やってみれば、意外に適応できてしまうものなんです。
青野 本当にそうですね。さらにグループウェアのもう1つの特長は、社員の主体性を高められることなんです。
 情報が社内でオープンに共有されていることで、一般社員も社長と同じ情報に触れ、社長が何を考えているのかわかる。お客様の声も、それぞれの部署の仕事もわかる。
つまり、目の前の自分の仕事と会社が目指すものを、ひもづけて考えられるようになり、仕事に主体性を持って関われるようになるのです。
 リモートワークでチームの状況が見えずに疑心暗鬼になってしまう状態も、情報がオープンになっていれば改善できる。さらにグループウェアを使えば、リモートワーク中でも困っている同僚を見つけて、手伝いに行くことだってできるんです。
「情報伝達」から「情報共有」の考え方にシフトする。ぜひグループウェアを活用して、風通しの良い組織作りを進めていただければと思います。
(編集:金井明日香、構成:田村朋美、北野氏の写真:田中由起子、青野氏の写真:サイボウズ提供、デザイン:小鈴キリカ)