[ロンドン 21日 ロイター] - 世界各国で財政支出と中央銀行の資金供給が爆発的に増えているため、いずれはインフレが長い眠りから覚めるとの懸念から、金から森林地、不動産株、物価連動債まで、幅広い資産を買って備える動きが広がっている。

今年の世界経済がマイナス6%成長に落ち込むと予想されている今、インフレの心配をするのは奇妙に聞こえるかもしれない。

しかも米国とユーロ圏の予想物価上昇率を示す指標はいずれも、インフレ率が10年後でさえ1%程度にとどまる見通しを示している。

つまり、国際通貨基金(IMF)が2013年に指摘したようにインフレが本当に「吠えなかった犬」だったなら、つまり世界金融危機時の中銀による莫大な資金供給にも反応しなかったのであれば、投資家が今回インフレに備えるべき理由はあるだろうか。しかも先進国全体で、人口動態と技術進歩もインフレ率を押し下げる方向に働いている。

一部の人々が今回こそ「犬は吠える」と考える理由は、金融危機後とは異なり、世界中で政府が新型コロナウイルス感染の世界的大流行による影響を抑えようと、巨額の財政支出に乗り出したことにある。

パインブリッジ・インベストメンツのマイク・ケリー氏は、「中銀がいつまでもいつまでも、ひたすら財布の紐を緩め続け、警戒も怠れば、3、5年後には(インフレの)犬が吠え始めるだろう」とし、金を買ってインフレに備えている。

「金はずっと前からこうした事態を懸念している。将来のリスクを念頭に、コロナ禍の中で上昇し続けてきた」

通常は財政規律に厳しいドイツ政府でさえ、中銀と歩調を合わせて数兆ドル規模の景気刺激策を導入した。

投資家は、長らくタブーだった財政ファイナンスが検討対象に入る可能性も見据えている。

資産運用会社DWSのクラウス・カルデモーゲン氏は「心配なのは、目下のところ財政刺激策に際限がないように見えることだ」と話す。同氏は金融危機後よりもずっと大量のインフレヘッジ資産を購入している。

インフレタカ派の見方では、国際貿易が縮小し、西側企業が自国内に生産を戻すという非グローバル化の流れも物価上昇につながる。

<何を買うべきか>

投資家はインフレからリターンを守るため、物価上昇が加速したときに価値が上昇する、あるいは少なくとも価値が維持されるようなヘッジ手段を必要とする。

最も好まれているのは米物価連動債と金のようだ。ロイターの調査によると、資産運用会社は顧客ポートフォリオの最大10%を、インデックスファンドや金関連株、金地金を通じて金に回している。

しかし金<XAU=>が3月末から18%上昇したのに対し、割安なまま推移しているヘッジ資産もある。

期間10年の米物価連動国債(TIPS)は、10年後のインフレ率をわずか1.2%と想定する価格で取引されている。

つまりインフレになるのは何年も先かもしれない。しかし銀行は顧客に対し、割安なうちにヘッジ資産を買っておくよう助言している。モルガン・スタンレーが買いを勧めるのは30年物TIPS、ナットウエストは30年物の英物価連動債と10年物のユーロ圏のインフレ・スワップだ。

BNPパリバ・アセット・マネジメントのコリン・ハート氏は「多くのヘッジ資産は極端に安く目に映るのに、今買わない手があるだろうか。待ってもよいが、その間に逃げて行くかもしれない」と話す。

事実、S&P10年物米TIPS指数は3月から既に12%上昇した。

<木材、森林>

金とインフレ連動債だけではない。DWSのカルデモルゲン氏は、新しい不動産の供給スピードが通貨供給量の伸びを下回ると予想し、ドイツの住宅関連株を買っている。

またリーガル&ジェネラルのクリス・ジェフリー氏は今年、5、10年単位で見て農地と森林地は実質価値を維持すると予想し、こうした土地に重点投資する上場企業の買いを加速した。

パインブリッジのケリー氏は、住宅ローン金利が過去最低に下がったことで初めての住宅購入が増え、建設ブームが訪れれば、TIPSよりも木材の方が早く恩恵を受けると予想。プライベートファンドを通じて森林地に投資している。

(Yoruk Bahceli記者)