【脱・働かされキャリア】withコロナのいまこそ「働く意味」が問われる

2020/6/30
コロナで揺れる「働く価値観」
 コロナ・ショックとそれに伴う自粛期間は、多くの企業でリモートワークが推し進められ、従来からの「働き方」を見直す契機となった。
 その一方で、私たち一人ひとりが「働く意味」を問い直させられる機会でもあったといえるだろう。
 働き方の価値観がますます多様化していくニューノーマル時代において、「働かされている」キャリアから抜け出すにはどうすればいいのか。
 そのヒントのひとつに、変幻自在な「プロティアン・キャリア」がある。
 キャリア研究家の田中研之輔氏と、プロティアンなキャリアを歩むNewsPicks最年少プロピッカーの安田クリスチーナ氏に、「働く意味」について語ってもらった。
 今回の企画は、「人々に『はたらく』を自分のものにする力を」というミッションを新たに制定したパーソルキャリアの協力を得て実現した。

 本対談にあたって、田中研之輔氏と安田クリスチーナ氏のお二人に「Q.人々が『はたらく』を自分のものにするには?」という質問を投げかけ、その回答を「提言」としてフリップに掲げてもらった。
「プロティアン」はキャリア観の最新型
──キャリア研究家である田中先生は、大企業に所属しながら国際的なNGOの理事も務める安田さんのキャリアをどう分析していますか?
田中 早速、本題に入るようですが、安田さんのプロフィールを拝見して「探し求めていたプロティアンがいた!」と思いました(笑)。
Q.人々が『はたらく』を自分のものにするには?
「はたらくを自分のものにする、つまり主体的に働いていく上では、変化を恐れないことが重要です。 自分がどれだけ変化していけるのか、それ自体を楽しむことがプロティアンの条件でしょう」
田中 プロティアンとは、ギリシャ神話に出てくる“思いのままに姿を変えるプロテウス神”にちなんだキャリアのあり方で、変幻自在という意味です。VUCAの時代に合った、最新のキャリア理論とされています。
 安田さんのキャリアの最上位には、「政治とテクノロジーで世界規模の課題を解決する」という大きなビジョンがあって、そのビジョンに近づくために、様々な職域へと身を投じている。そして、自身を成長させながら環境適合していっています。
 プロティアンは、アイデンティティ(自分は何がしたいのか?)アダプタビリティ(自分は何ができるのか?)の2軸を大事にしながら、自己パフォーマンスを上げていくのですが、安田さんはまさにこれを体現している人ですね。
安田 ありがとうございます。簡単にキャリアを説明すると、私は新卒でアクセンチュアに入り、現在はマイクロソフトに所属しています。
 その仕事と平行して、大学時代にバングラデシュで難民のための電子証明書の発行を目指す「デジタル・アイデンティティ」事業を国際NGOの中で立ち上げました。
Q.人々が『はたらく』を自分のものにするには?
「やっぱり『働く意味』と向き合うことだと思います。自分が何をしたいのか、何が幸せなのか、動きながら考えること。その実現に障壁になりそうなものもシビアに把握しつつ、ときに我慢もしながら、最後は自分のために自由に進んでいく。それができれば、『はたらく』は自分のものになるんじゃないかと改めて思いました」
安田 いまはマイクロソフトで規格アーキテクトとして分散型アイデンティティなどの規格の国際標準化に取り組みながら、NGOの活動も続けています。
 たとえば、USBや充電器なども国際規格がなければパソコンを横断して使えませんよね。世界中のユーザーが電子証明を利用できるように、政府や民間企業など、様々な関係者に対してコミュニケーションをとっています。
田中 組織に属しながら、大きな視点で自分のテーマとも向き合っていますよね。そこが素晴らしいと思います。
 そもそもプロティアン・キャリアという考え方は、社会構造の変化によって終身雇用型の就業が揺らいだことで生まれました
 人々の働く価値観は、1つの組織にキャリアを預けるのではなく、自分のキャリア形成を軸に「心理的成功を得たい」という内的なモチベーションへと移り変わってきています。
 こうしたモチベーションを持ち、自らのキャリアを形成するプロティアンは、会社への帰属契約ではなく、自分が働く意味に重きを置いている。自己と契約をしているということです。
 これを実践している人は、どんな組織にいても内的幸福感が非常に高いことが特徴です。
田中 「自分は何をするべきか」を探し求めながら、自己との契約をしっかり結んで、変幻自在にキャリアを進んでいく。この在り方は、これからの時代において特に重要になると思います。
世代を問わず「コロナ以前」には戻れない
──とはいえコロナ・ショックが落ち着くにつれ、働き方やキャリア観も以前の在り方に戻ろうとする流れもあるのではないでしょうか。
田中 変化をどう受け入れるか、世代ごとのギャップや価値観の違いはあるでしょう。しかし、すべてが逆行して元通りになることは、もはや考えにくい。
 これからは若い世代だけではなく、シニア世代もプロティアンなキャリア観を身につけていく必要があるでしょう。
 安田さんのようなキャリアを「すごい!」と遠くから憧れるだけではなくて、世代を問わずに一人でも多く彼女のようなプロティアンを増やしていくべきです。
──働く全員が変わらなくてはいけない、と。
田中 まさに今、労働や雇用を取り巻く環境は大きく変わっています。これはパンデミックの前にも語られていたことではありますが、「組織に所属すること」自体に価値を見出すことはリスクだということ。
 緊急事態宣言下で、「いまの日常がこのまま続くという保証はどこにもない」という内的な気づきを持つ人が増えたはずです。
 われわれは今まさに、歴史的狭間にいるということを自覚しないといけないと思います。
「働く意味」は行動によって見つける
──安田さんは、ご自分の「働く意味」をどう見つけたのですか?
安田 田中先生がいう自己との契約、つまり「私が働く意味」は、特別なきっかけで「出会った、見つけた」という感覚はありません。
 そもそもは留学生時代に気候変動の問題に取り組んでいたのが出発点ですが、国際政治に関わるうえではビジネスを理解する必要があると思い、海外で複数企業のインターンを経験しました。
 その動きのなかで難民の課題につきあたり、それをテクノロジー的に解決する「デジタル・アイデンティティ」というテーマに関わり始めた頃は、自分がここまでのめり込むと思っていませんでした。
 言えるのは、「何も行動しない限りは一生見つからない」ということ。自分が働く意味は、動いてみないとわかりません。座って考えている中で「貧困をなくしたい!」なんてひらめくわけはないですから。
 学生さんに就活の助言を求められたときも、「とりあえず動いて!」と常々伝えています。
──学生に限らず、「本当にやりたいことが見つからない」と悩んでいる人は多い印象です。
安田 まず前提として、やりたいことは見つかったらずっと変わらないわけではなくて、一生模索するのかなと思っています。ずっと課題解決のプロセスにいるイメージです。
 私の場合には、政治とテクノロジーを掛け合わせて世界を良い方向に変えたいというパッションがある上で、今のキャリアを選択しています。
 でも、もし「ここじゃないかもしれない」と思うときがきたら、固執せずに別の領域にチャレンジする。振り返ってみると、ずっとそういうことを繰り返してきたような気がします。
転職は「他責」ではなく「自責」で
──「変幻自在」でも「固執しない」となると、一歩間違えれば、ただジョブホッパーのように転職を繰り返すことになってしまう気もします。
田中 ポイントは、「自らの主体的なキャリア形成」の中で、「転職」を捉えることです。ジョブホッパーとプロティアンの違いは、わかりやすく言えば「他責思考」か「自責思考」かによって左右されると言えます。
 「入社試験に受かったのだから立派に働けるはずだ」「自分が輝けないのは配属のせいだ」など、働くモチベーションを組織に委ねると、自分の課題を組織や環境のせいにすり替えてしまうことがありますよね。
 その結果、「この環境では自分の能力は活かされない」と考え、転職を検討し始めてしまう。
 転職は決して悪いことではありません。しかし、「他責思考」のまま環境だけを変えても、おそらく課題は解決しないでしょう。
 一方で、プロティアンは「この仕事に情熱を注ぐことは自分にとってどんな意味があるか」を考える。意味に従ってキャリアを転じる場合は、プラスに働く可能性が高いでしょう。
安田 私はついこの5月に社内転職を決めたのですが、3年ほどかけて様々な活動をしながらデジタル・アイデンティティについて勉強してきたことで、今の自分に足りない部分を強化しようと志望しました。
 自分の興味や強みを見つけ、試しながら進んでいるという感じです。
田中 その「自分の興味と強み」がポイントです。自分のためになるキャリア形成のためには、経験の資産化、つまりキャリア・キャピタルを貯めるということが重要です。
 経験をただ消費するのではなく、キャピタルとして増やし続けることで市場価値も高まります。
田中 また、プロティアンは自己と契約しているからこそ、所属にはこだわりがない。
 むやみやたらと転職を繰り返しても意味はありませんが、自分の働く意味が明確にあると、そのとき自分に必要なスキルをきちんと選び取って、様々に所属を変えることができます。
「ハイスペ」より「DIY的賢さ」が強みに
──一方で、自らの「働く意味」を問いながらキャリアを転じていくというのは、いわゆる「ハイスペック」の人だけに許された選択肢のようにも思えます。
安田 もちろん、働く全員がwebで会議できたりリモートワークできる職種ではないけれど、自分のためにキャリアを形成するとき、もっと他のポイントがあると思います。
 たとえば私の母はエステティシャンで、自粛中にはお店を営業することができませんでした。そんななかでもスキルを磨いたり、まったく別の技術を勉強して自分なりのチャレンジをしている様子を間近で見て思ったのは、どんな場所でも自分の働く意味に向き合える人が、状況を活かせるということ。
 輝かしい功績を重ねるのもよいことですけど、そうでなくても自分自身の「働く意味」に向き合って、毎日がハッピーならそれは素晴らしいことだと思います。
田中 大賛成です。「ハイスペックだから幸せになれる」という時代はもう古い。価値観や生活環境が多様になったいま強みになるのは、学歴的な頭の良さではなくて、環境に合わせて自分で工夫していくDIY的な賢さです。
 環境に不平不満を言うのではなく、自分で考えて行動する。安田さんのお母さんのように、非常事態や危機に直面したとき、自分のキャピタルを見つめ直して、新しいチャレンジをできる人が、より幸せに働くことができる時代になっていくと思います。
──組織のなかで「自分で考えて行動する」ことのコツを教えて下さい。
安田 私自身は、与えられたミッションをしっかり果たして、その上でプラスアルファをつけていくことを大切にしてきました。若手がいきなり「私はこれがしたい」って言っても通じるわけがないですよね。
 まずは会社の方針や上司の指示に従った上で、「こんな方法でも解決できます」とか「このやり方だと早くできました」と自分の強みを活かして提言する。私は案外実力主義なところがあるので、ずっと成果で勝負しています。
──正攻法、真っ向勝負なやり方ですね。組織のなかで義務を果たしながら、個人の思いを示す、と。
安田 どんな場所に身を置いても我慢は大事だと思います。我慢をしながらも組織にきちんと貢献して、成果を上げてから個人のやりたいことをさせてもらうという両立です。
 一方で、自分の「働く意味」の核心に反するような場合は、どんな環境だろうと辞めていい、とも思っています。
チャレンジとスキルが幸福度を左右する
──「働く意味」を考えるとき、何に喜びを感じるかは人それぞれに思えます。
安田 働く環境を選ぶうえで、私は金銭的な報酬よりも自己実現ができるかどうかを重視しています。
 今回の転職も、年収が上がることより、すでにスキルを獲得し終えた仕事から、自分がチャレンジしたかった新しい職域に移れたことが重要なんです。
田中 それはチャレンジとスキルの相関関係ですね。人はどういうときに楽しいと感じるかというと、実は法則性があるんです。
 自分の持っているスキルに対して、チャレンジ(=負荷)が低ければつまらないと感じる。チャレンジが低い中でそれなりの金銭報酬を得ても、あまり喜ばないものなんですよ。
安田 とてもよくわかります。
田中 スキルとチャレンジが適正な相関関係にあると、人はいわゆるフロー状態に没入していく。「え、もうこんなに時間過ぎてたの?!」というくらい熱中して働くことができます。
 これが幸福感を大きく左右する。
──なるほど。しかし、慣れた仕事をひたすら繰り返すような仕事ではチャレンジが難しいですね。
田中 仕事内容は一定だとしても、チャレンジを高めることは可能ですよ。
 たとえば「3日間でやるべき仕事」を数時間で仕上げるというチャレンジです。余った時間は自分の好きに使えばいい。
 こんなふうに自分で働く時間をタイムマネジメントできない人ほど、「働かされている」と思う傾向にあるようです。
 逆に言えば、自分で働く時間をマネジメントできることが、幸福度を大きく左右するとも言えます。
──「働かされている」と感じるマイナス状態から抜け出すために、何が重要でしょうか。
田中 「働く」を自分のものにする、つまり主体的に働いていく上では、変化を恐れないことが重要です。
 自分がどれだけ変化していけるのか、それ自体を楽しむことがプロティアンの条件でしょう。
安田 やっぱり「働く意味」と向き合うことだと思います。自分が何をしたいのか、何が幸せなのか、動きながら考えること。
 その実現に障壁になりそうなものもシビアに把握しつつ、ときに我慢もしながら、最後は自分のために自由に進んでいく。
 それができれば、「働く」は自分のものになるんじゃないかと改めて思いました。
「脱・働かされキャリア」について、さらに理解を深めたい方はこちらもチェック!
(構成:伊勢真穂 取材:呉琢磨 編集:安西ちまり 撮影:稲垣純也 デザイン:板庇浩治・月森恭助)
パーソルキャリアでは、ミッション《人々に「はたらく」を自分のものにする力を》を推進するため、Venture Cafe Tokyoと共同でこれからの"はたらく"を考える対談イベント「脱・働く─Power to the People─」を月1回開催しています。