【WEEKLY OCHIAI】ポストインバウンドの観光経済を考える

2020/6/23
「WEEKLY OCHIAI」では、新型コロナウイルスについての最新情報の解説とコロナショックがもたらす新しい未来の可能性をめぐって、落合陽一と各界のプロフェッショナルによる“ハードトーク”をお届けしています。

この記事は、6月17日に配信された「ポストインバウンドの観光経済」のダイジェスト記事です。
番組本編の視聴はこちら(画像タップで動画ルームに’遷移します)

コロナは想定内か想定外か

落合陽一はこの日、スタジオとZoomの出演者の紹介がひと通り終わったところで、早速、議論の口火を切った。
落合 観光産業において、リスクマネジメントが大切だということは大前提として理解しているつもりなのですが、そもそも今回のコロナってみなさんにとって「リスク」だったのでしょうか。
つまり、想定してマネジメントできる程度のリスクなのか、それとも完全に想定外の「デンジャー」だったのか。
たとえば空港などは感染症を身近なリスクと捉えて扱うけど、今回のようなここまでひどい感染症が世界で広がった場合、国内外の観光業者がこのような状況をリスクとして想定していたのかしていなかったのか、という点が気になります。

第二波、第三波に備える3つのシナリオ

大阪観光局理事長の溝畑宏氏は、常に最悪の状況を想定しながら、第二波や第三波を視野に入れて3つのシナリオを考えていると語る。
溝畑 最悪なのは、来年9月のオリンピックが延期になったケースです。
健全な経営をしている人は少数派で、観光産業を支えている大半の人は現在倒産寸前の予備軍の人たちなんですね。
いま国内産業で我々が警戒しているのは、本来最もお金を使って欲しい65歳以上の高齢者の方々が動いていないことです。
国内資産の大半をもっている層がシュリンクしてしまっている。
ここで第二波第三波がきたとき、現在国が行っている家賃保証6ヶ月や雇用保障調整金あたりだけでは到底補填できなくなってしまう。そこまで想定して政策を考えていくべきです。

4月は売上が前年比10%を切る状況に

老舗温泉旅館「和多屋別荘」三代目当主の小原嘉元氏は、今回のコロナ禍に旅館内にサテライトオフィスを併設し、家賃収入を得るなど新たな試みに取り組む。
生き残り策として、いち早くワーケーション需要を取り込んだ先進的な「和多屋別荘」も、一時は資金繰りが相当苦しかったと話す。
小原 佐賀の嬉野には30軒ほど温泉旅館がありますが、今日現在で15件ほどまだ休暇をとっている状況です。
閉鎖者は3月の時点で前年比の50%を切り、4月の時点で10%を切りました。
近隣でクラスターが発生したことから、4月27日から5月末までの間休館という選択をとりました。
創業70年で初めてのことです。
資金繰りは、雇用調整助成金などの借り入れや、3月末までの現預金残と雇用助成などを合わせることで、年間の売り上げが3分の1程度でも向こう18ヶ月はもつような計算です。

ダンピングによる負のスパイラル

コロナ禍では、普段は高価な部屋を提供するホテルも客足の減りとともに値段を下げて提供するところが多くあった。
森トラスト代表の伊達美和子氏は、この状況が生む“負の連鎖”を危惧する。
伊達 たとえば武漢などではすでに観光業が復活していて、多少はホテルも値下げはしているけど、大幅にディスカウントしているわけではありません。
値段を下げたら来るのではなくて、需要があれば、それに見合ったお客様が来るというのが本来のあり方です。
3月くらいのダンピングの状況は、それによってブランディングが損なわれるリスクがありましたし、実際は売っても売っても赤字だったはずです。
多少の固定費を稼ぎたいのだろうけども、それによって逆スパイラルで事業がこの先立ち行かなくなってしまうリスクの方が大きいように感じました。

国内観光も楽観視はできない

しばらくは海外旅行に行けない状況が続きそうな現状の一方で、そもそも国内消費とインバウンドの規模は5:1程度と、国内消費の方が圧倒的に多い。
落合はその点をふまえて「国内の旅行産業は増えるのではないか」と言及する。
小西美術工藝社代表のデービッド・アトキンソン氏は、その問いにこう答えた。
アトキンソン 国内産業には問題がふたつあります。
まずひとつは人口が減っていること。2060年までに日本の人口は約30%減ると言われているので、衰退していくことはほぼ間違いがありません。
もうひとつは、そもそも日本人の方々が旅行に行きたがっていないということ。
これは今回感染者数が少ない理由と裏表でもありますが、神経質でリスクを好まない国民性が現れている。
実際にアンケートをとってみても、40%の人がリスクがあるならお金をもらっても行かないと答えています。

バーチャルで国内旅行する高齢者たち

リアルな場とVRコンテンツを掛け合わせたバーチャル旅行という新たなサービスを開発・提供を行っているFIRST AIRLINE代表の阿部宏晃氏は、新たな観光業の現場から今の感触をこう語る。
阿部 このサービスは、もともと2016年から始めた事業で、コロナに合わせて開発したものではありません。
そのため、ソーシャルディスタンスをとらないといけない今、半分の席しか使えないので、単純に売り上げも半減しています。
ただその一方で、常に予約はいっぱいです。
そしてそのうちの半分ほどがシニアな方々なのも特徴的です。足腰が弱くなって海外旅行に行きづらくなった人たちが利用されています。
番組本編の視聴はこちら(画像タップで動画ルームに’遷移します)
 <執筆:富田七、編集:安岡大輔>