コロナで大打撃を受けた欧州の航空業界が7月からの増便を目指すなか、ハンガリーの格安航空会社(LCC)「ウィズエアー」は、他社よりも早く再起の追い風を受けているようだ。
ブダペストを拠点とするウィズエアーの株価は3月半ばから40%以上も上昇している。3月中旬といえば、新型コロナウイルスの感染拡大によって欧州のほとんどの航空会社が運航を停止していた時期だ。
業績が停滞する航空業界を支援して雇用を守るために、各国の政府はエアライン大手企業に巨額を投入してきた。ドイツのルフトハンザ航空や、フランスとオランダの両政府が株主となっているエールフランスKLMなど国を代表する航空会社(フラッグキャリア)を中心に救済措置が取られていた。
だがそうした危機感とは裏腹に、投資家たちはウィズエアーについては楽観的な見方をしているようだ。同社の株価は今年、欧州の大手航空会社をしのぐ好調ぶりを見せている。
パンデミックの第一波が収束したとみられるいま、航空業界は空の旅の復活に期待する。欧州の多くの国は、7月1日までに飛行機での移動を再開させる見込みだ。規制当局は運航再開へ向けたルールを作り、観光スポットは観光客の回復に備えている。
次なる大きなステップは国際線の規制解除になるとモルガン・スタンレーは分析している。イギリスは現在、国外からの旅行者に入国後14日間の隔離を義務付けているが、ブリティッシュ・エアウェイズ、ライアンエアー、イージージェットはこのルールの撤廃を求めて英政府を提訴した。英政府は6月29日に隔離ルールの見直しを検討する動きだ。

LCCのほうが立ち直りが早い?

空の旅が再開するなか、運航停止中のキャッシュバーン(会社を経営するにあたって1ヶ月あたりに消費するコスト)をより低く抑え、コロナ禍の損失からうまく立ち直っているのは、ウィズエアーやライアンエアー、イージージェットなどのLCCだ。
UBSのアナリスト、ジャロッド・キャッスルは、LCCが「ローコスト」と呼ばれるには理由があると指摘する。
「そのオペレーションの規模と効率性に関係しているのです。LCCはキャッシュバーンを比較的早急に防ぐことができました」
モルガン・スタンレーによれば、いま「買い」なのは、ルフトハンザやエールフランスKLMよりもライアンエアーやウィズエアーの株だという。前者のようなフラッグキャリアは、ビジネス利用者や長距離フライトに依存しているため、回復に時間がかかる可能性が高いためだ。
さらに、政府から借りた資金の返済という大仕事も残っている。たとえば長距離を飛ぶLCC、ノルウェー・エアシャトルは、ノルウェー政府から2億7100万ドルの融資を受けたが、株価は90%以上下落してしまった。
「さらに大規模なフラッグキャリアは、政府融資を返済するために大規模な再編が必要になるだろう」と、モルガン・スタンレーは分析している。
フラッグキャリアへの莫大な支援は論争も呼んでいる。エールフランスKLMへの融資額は約110億ドル。ルフトハンザも、ドイツ政府による株式20%の取得を含む100億ドル規模(これはライアンエアを買収できるほどの額だ)の財政支援を受けた。
イタリア政府は、長年赤字に苦しんできたアリタリア航空の国有化を予定している。アメリカ政府は融資と補助金を合わせて250億ドルを航空業界支援にあてた。
ウィズエアーのヨージェフ・ヴァーラディCEOは、政府支援によって市場が「完全に」歪められると訴え、6月3日の収支報告の場でこう述べた。
「商業的にフラッグキャリアを利するために、そして競合の参入に障壁を作ってフラッグキャリアを守るために多くのことがなされています。安易な財政支援は、そうしたフラッグキャリアの非効率性の多くを維持させることにつながります」

支援すべきは「フラッグキャリアだけ」か?

政府支援の目的は、解雇を最小限にとどめ、業界全体の急落を防ぐことだ。雇用の面ではその効果が表れている航空会社もある。イージージェットとブリティッシュ・エアウェイズが約30%の人員削減を行ったのに対し、ルフトハンザとウィズエアーはそれぞれ16%と20%にとどまっている。
「各国政府がやろうとしているのは、業界と雇用の保護です」とキャッスルは言う。「フラッグキャリアは縮小することになるでしょうが、支援がなければもっと小さくなるのです」
とはいえ、LCCが政府からの支援を何も受けていないというわけではない。たとえばウィズエアーやイージージェット、ライアンエアーは、イングランド銀行(英中央銀行)による短期の借り入れ制度を利用している(イングランド銀行がコマーシャルペーパーを買い入れて資金を供給)。
こうした支援は、一定の基準を満たせばすべての企業が利用可能である点で、フラッグキャリアだけに巨額を投じる政府救済策と異なると、アナリストらは指摘する。英フラッグキャリアのブリティッシュ・エアウェイズは政府からの特別な財政支援は受けておらず、ウィズエアーなどのLCCと同じ支援制度を利用した。
ライアンエアーのマイケル・オレアリーCEOは、すべての航空会社にオープンであるならば、いかなる支援策も歓迎すると語る。彼が懸念しているのは、一部の大手がライバルを買収したり他社より安い運賃を提供したりできるだけの資金を得て、この危機を乗り越えることだ。
「今後4年あるいは5年間、大きく歪められた欧州市場に直面すると思います」とオレアリーは言う。
一方、多額の政府支援を受けた航空会社がコロナ後の経済で本当に繁栄していけるのかという問題もある。旅行客がコロナ前の状態にどれだけ早く回復するかはまだわからないし、それは利益率の高いビジネス利用者についても同じだ。
疫学者や当局は、第二波によって再度ロックダウンや移動規制が必要になってくるのではないかと不安げに見守っている。航空大手への政府支援が、避けられない大規模再編を遅らせてしまうリスクもある。
空の旅は再開してもしばらく混乱は続きそうだ。
元の記事はこちら(英語)。
(執筆:John Detrixhe、翻訳:中村エマ、写真:tupungato/iStock、月森恭助)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with KINTO.