Linda So

[ワシントン 15日 ロイター] - 全米に広がる抗議デモに対応するなかで、警察はゴム弾や催涙スプレー、催涙ガス弾その他、できるだけ死者を出さないことを念頭に武器を使用するようになっている。

だが、潜在的に殺傷力を有する武器を使う例も見られる。スタンガンの一種「テーザー銃」だ。ロイターが分析したところ、テーザー銃が使われ死亡者が出たケースでは、黒人が犠牲になる比率が不釣り合いなほど大きいことが分かった。

ロイターの記録では、警察のテーザー銃使用により死亡した例は、2018年末までで1081件ある。多くは2000年以降だ。死亡者のうち少なくとも32%は黒人であり、少なくとも29%は白人である。総人口に占める比率では、アフリカ系米国人が14%、ヒスパニック以外の白人が60%となっている。

米国自由人権協会の上級専属弁護士カール・タケイ氏は、「こうした人種間の格差がテーザー銃による死亡例に見られることは恐ろしいが、意外ではない」と語る。「警察による暴力は、米国の黒人の主要な死因になっている。黒人・有色人種コミュニティに対する過剰な取締りが、警察による不必要な介入、不必要な実力行使につながっている」

警察の報告書、検視報告書その他の記録において死亡例の13%はヒスパニック系だが、人種を確認することができなかった。また残りの26%についても、死亡者の人種が不明である。

警官による殺害への抗議を通じて、警察の対応に注目が集まるなか、米国の法執行部門が抱える難題が浮き彫りになっている。断続的な電流によるショックを与えるテーザー銃は、対象者を拘束するため数秒間の猶予を警官に与えることを意図したものであり、通常の火器よりも殺傷能力が低い代替策として、2000年代初頭からほぼ全国的に採用されている。全米約1万8000の警察機関のうち、約94%が現在テーザー銃を支給している。

12日にアトランタで発生したレイシャード・ブルックスさん(27)の死亡事件を受けて、テーザー銃に一層、関心が集まった。ジョージア州捜査当局によれば、警官ともみ合いになったブルックスさんが警官のテーザー銃を奪って逃走し、警官に向かって構え、その後、警官が拳銃を発射したという。ブルックスさんの遺族の弁護士L・クリス・スチュワート氏は、テーザー銃は殺傷能力のない武器であるというのが警察の日頃からの主張である以上、ブルックスさんがテーザー銃を構えたからといって発砲は正当化されないとしている。

だがロイターでは、一連の報道を通じて、警官が発射したテーザー銃による電撃を受けて死亡した例を2000年以降で1000件以上確認している。ただし、テーザー銃以外による実力行使も合わせて見られるのが普通だ。

テーザー銃に関する調査を行っている外部の研究者の大半は、適切に使用されれば死亡することはめったにないと述べている。だがロイターの調査によれば、多くの警官はテーザー銃の使用に伴うリスクについて適切な研修を受けておらず、誤った使い方をしていることが多い。テーザー銃は、ワイヤーで接続された2本の電極針を発射し、電撃を与えて相手の行動を封じるものだ。直接相手の身体に押しつけることもできるが、この「ドライブ・スタン」方式の場合は強い痛みが伴う。

近年テーザー銃が誤用された例をみると、この武器をめぐるリスクや混乱が浮き彫りになっている。

ミネアポリスにおけるジョージ・フロイドさんの死亡をめぐる抗議が全米に広がった5月30日、アトランタの2人の大学生、タニヤ・ピルグリムさん(20)、メサイア・ヤングさん(22)は食品を購入するために外出し、抗議行動に伴う交通渋滞に巻き込まれた。

小型カメラの映像によれば、警官の1人が運転手側のサイドウィンドウを警棒で繰り返し叩き、別の警官がテーザー銃を使ってピルグリムさんに電撃を与えている。黒人学生2人を車から引きずり出す際に、3人目の警官がヤングさんに対してテーザー銃を使っている。

警官が2人に電撃を与えている動画は、全国的な批判を引き起こした。翌日、アトランタ警察のエリカ・シールズ署長は記者会見で謝罪した。「1つの機関として、また個人として私たちの振る舞いは許容できないものだった」と語った。ヤングさんは病院で治療を受けたが、傷口を縫う必要があった。13日、ブルックスさん死亡事件を受けてシールズ署長は辞任した。

5月30日の事件の後、ある警察官は報告書のなかで、学生たちが武器を所持しているか確認できなかったためテーザー銃を使用したと書いている。テーザー銃の製造元であるアクソン・エンタープライズは、各警察に配布しているガイドラインのなかで、運転中の人または拘束された人に対してテーザー銃を使用すべきではないと警告している。また法執行の専門家によれば、一般に、車内にいるなど身動きの取れない人に対してテーザー銃を使用すべきではないという。

この事件に関与した警察官6人(そのうち5人が黒人で1人が白人)は、過剰な暴力を振るったとして告発された。うち4人が免職処分となり、2人が処分取り消しを求めて市長・警察署長を訴えている。この2人の警察官の弁護士は、免職は政治的な動機に基づいたものだと確信していると述べている。

オークランド警察署でテーザー銃導入計画を担当した退役警官マイケル・レオネジオ氏は「警察が問うべきことは、『私はテーザー銃を使えるか』ではなく、『私はテーザー銃を使うべきか』だ」と語る。同氏はアクソンを相手取った不法死亡訴訟において専門家として証言を行っている。「テーザー銃は危険な武器だ」とレオネジオ氏は言う。「使用されることが増えれば、それだけ命を落とす人も増える」

アクソンは、自社が製造する武器について、リスクがゼロではないが、警棒やゴム弾などと比べても安全であると述べている。同社はロイターに送付したメールのなかで、「状況にかかわらず、命が失われることは悲劇だ。だからこそ私たちは、今も警官とコミュニティ双方を守るための技術開発と訓練に力を注いでいる」としている。

<「尻に食らわせろ」>

2017年7月、ある暑い日のことだった。ユーリ・マーティンさん(58)は水を飲みたいと思っていた。誕生日に12マイル(約19キロ)以上も歩いて親戚の家を訪れたマーティンさんは、ジョージア州中部にある人口約130人の街ディープステップで、ある家主に飲み水を求めた。相手は彼の願いを拒否し、追い払うために警察を呼んだ。地方検事によれば、マーティンさんは「黒人」と通報されている。

ワシントン郡の保安官代理が現場に到着し、道端を歩いていたマーティンさんに声をかけた。統合失調症の症状のあるマーティンさんは呼びかけを無視し、歩き続けた。保安官代理は応援を呼んだ。

地方検事によれば、保安官代理らは、マーティンさんが両手を後ろに回すよう求める指示を無視して「身構え」「拳を固めた」と供述したという。彼らの車両のダッシュボードに取り付けられたカメラの映像によれば、ある保安官代理が別の1人に向かって「尻に食らわせてやれ」と告げている。

保安官代理がテーザー銃を発射すると、マーティンさんは地面に倒れたが、腕に刺さったテーザー銃の電極針を抜き、徒歩で遠ざかった。3人目の保安官代理が到着し、自分のテーザー銃をマーティンさんの背中に向けて発射すると、彼は倒れた。

保安官代理らはうつ伏せに倒れたマーティンさんを囲み、体重をかけて押さえつけ、マーティンさんに対してテーザー銃を15回作動させた。マーティンさんが苦痛に満ちた声で「殺される」と叫んでいるのが聞き取れる。検視報告書によれば、彼は拘束中に不整脈が原因で死亡した。

マーティンさんの遺族の弁護士を務めるマウリ・デイビス氏は、「彼は『ウォーキング・ホワイル・ブラック』に描かれる状況の犠牲者だ」と語る。保安官代理らは告発された後に解雇されたが、テーザー銃使用の訓練に沿って行動したと述べている。

昨年11月、マーティンさんの死をめぐる殺人容疑の裁判が始まる数週間前、裁判官は保安官代理3人(すべて白人)に対し刑事免責を認めた。

アクソンは各警察に配布したガイドラインのなかで、同時に複数のテーザー銃を使わないよう警告している。法執行の専門家によれば、スタンガンを繰り返し作動させる、また継続して使うことは死亡リスクを増大させるので避けるべきという。

ワシントン郡保安官事務所に複数回にわたりコメントを求めたが回答は得られなかった。

裁判官は、保安官代理らの行為は正当防衛であり、テーザー銃の使用は「正当」であり「当該の状況のもとでは合理的」だったと判断した。裁判官はジョージア州の「スタンド・ユア・グラウンド(正当防衛)法」を引用しつつ、あらゆる人は「死または深刻な負傷」から身を守るために合理的な範囲で実力行使する権利を有する、としている。

地方検事はこの判決に対して控訴し、8月に州最高裁で審理が行われる予定になっている。州最高裁が下級審の判決を覆せば、保安官代理らに対する殺人容疑での裁判が復活する。

マーティンさんの姉であるヘレン・ギルバートさんは、「彼はジョージアの太陽に照りつけられて、水を求めたせいで命を落とした」と言う。「常識のある人なら、彼が死に値するようなことを何もしていないことが分かるだろう。正義を求める長い歩みが終わるまで、安らぎは得られない」

<検証>

テーザー銃絡みの死亡例は、通常ほとんど社会的な注目を集めないし、テーザー銃の使用頻度やその使用が死につながった件数を調査している政府機関もない。テーザー銃と死因との関わりを評価する際の基準も、検視官や監察医によってさまざまだ。警察によるテーザー銃の使用を規制する全国統一基準も存在しない。

2009年末にはテーザー銃が心臓に与えるリスクの証拠が集まったことで、製造元のアクソンは重大な方針変更を行い、警察に対し、相手の胸部を狙ってテーザー銃の電極針を発射しないよう警告した。

だが3月3日のワシントン州タコマでは、この警告が守られなかった。

新たに公表された映像、音声記録には、タコマの警察官が「息ができない」と叫ぶ黒人の男性にテーザー銃を用い、殴打する様子が残されている。3月25日、ミネアポリスで白人警官に膝で首を圧迫されたジョージ・フロイドさんの必死の叫びとそっくりだ。

警察は、マニュエル・エリスさん(33)が誰も乗っていない車のドアを開けようとしているのを発見したところ、彼がパトカーと2人の警察官に攻撃を加えてきたと述べている。遺族の弁護士によれば、エリスさんがコンビニエンスストアから自宅に徒歩で戻る途中、警官ともめごとが生じたという。

検視報告書によれば、警官はエリスさんの胸部に向けてテーザー銃を発射した後、彼に手錠をかけ、足をキャンバス製のストラップで縛ったという。エリスさんは意識を失っており、蘇生の試みは成功しなかった。検視官はこの件は殺人であると判断した。検視報告書では、死因として、身体拘束の結果として生じた低酸素症による呼吸停止を挙げている。

事件の映像が公表されたことで、タコマでは6月5日、エリスさんの死に対する抗議行動が発生した。ワシントン州知事は新たな調査を求め、タコマ市長は、事件に関与した警察官4人の免職・訴追を求めた。警察官のうち2人は白人、1人は黒人、もう1人はアジア系である。彼らは休職扱いとなっているが、まだ訴追はされていない。

警察官の1人、クリストファー・バーバンク氏はコメントを拒否している。ロイターでは他の3人とも連絡を取ろうとしたが、うまくいかなかった。タコマ警察署は、郡・州の調査担当者に協力していると話している。

(翻訳:エァクレーレン)

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