植竹知子

[シドニー 19日 ロイター] - 日本の3月期決算企業の株主総会シーズンが来週ピークを迎える。今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、企業側は開催規模の縮小や時間の短縮化、オンライン開催への切り替えといった対応を迫られているが、変化がみられるのは開催の形態だけではない。これまで企業に株主への利益権限を強く迫ってきたアクティビスト(物言う株主)の提案にも、変化が生まれている。

<コロナ禍でも株主提案は活発>

株主総会の運営を支援する三菱UFJ信託銀行によると、今年の6月総会で株主提案を受けた企業数は19日時点で54社と、過去最多となった前年実績に並び、新型コロナの影響による勢いの衰えはみえない。

しかし提案内容を精査すると、増配や自社株買いなど株主還元を求める提案から、取締役選任など広範囲なガバナンス(企業統治)改善を求める提案にシフトしている実態が浮かび上がる。新型コロナの影響で多くの企業の売り上げが急減するなか、事業継続のために手元現金の重要性が増しているからだ。

同行の調べによると、今年の6月総会シーズンに剰余金処分に関する株主提案を受けた企業は計9社、うちアクティビストから剰余金処分の提案があったのは3社で、昨年6月総会の全体で17社、うちアクティビストからの提案が6社だったのと比べて半減している。

法人コンサルティング部の中川雅博次長は「今年は配当を求めるものに代わって、ガバナンス系の株主提案が増えている印象だ。新型コロナの影響により、剰余金については配当で吐き出すより内部留保で持っておく方が今後の事業継続の観点から有効だとの理解が提案株主側にあるのだろう」と指摘する。

<提案を変更したアクティビストも>

「コロナ禍が事業に深刻な影響を及ぼしており、今は自社株買いを行う時期ではないと考えている」─JR九州<9142.T>に2年連続で株主提案を提出した米投資ファンド、ファーツリー・パートナーズのティム・ローリー氏(在ニューヨーク)はロイターに対し、今年の提案内容から自社株買いを除いた理由をこう説明した。

その上で、「しかし経営陣が掲げる社債発行による資金調達や成長投資の延期・抑制の実行にあたっては、適切なスキルを持つ社外取締役を招き、投資家への情報開示を行うことがこれまで以上に不可欠だ」として、独自の社外取締役候補3人の選任を求める株主提案に注力するに至った背景を明らかにした。

香港拠点の投資ファンド、オアシス・マネジメントのセス・フィッシャー代表も、フジテック<6406.T>に行った株主提案について、「新型コロナ危機のもと、あえて控えめな提案に変更した」と語る。

それによると、当初は自社株買いを通じた資本配分改善を提案する予定だったが、パンデミックの影響を考慮し、「会社側のコスト負担なしに資本効率を改善できる」として、全ての金庫株(企業が市場から買い戻したまま保有する自社株)の消却を求める提案に切り替えた。

海外勢だけではない。国内アクティビストのストラテジック・キャピタルは、「今年から特にガバナンスに関する提案にシフトしたわけではない」としつつも、京阪神ビルディング<8818.T>の常勤取締役の大半が三井住友銀行出身者で占められていることをガバナンスの観点から問題視し、ファンドの丸木強代表の社外取締役選任を求める株主提案を行った。

16日の総会で同提案は否決されたが、丸木氏は「我々の目的は株主提案を通すことではない。提案内容はもちろん株主価値向上に繋がるものだが、その趣旨を経営陣が理解して考えを変えれば株主価値は向上する。提案が通っても通らなくても、結果として投資先企業価値が上がればハッピーだ」と話す。

<変化は一過性か、プレゼント開けるのは後>

香港の証券会社CLSAの日本担当ストラテジスト、ニコラス・スミス氏は「企業は新型コロナの感染第2波への懸念から、キャッシュを余分に持つことで安心感を得ようとしている」と指摘。

「今年の6月総会で自社株買いを求めるのは酷で、他の提案に専念する方が望ましいだろう。しかし、そのキャッシュは恐らく使われない。(アクティビストにとっては)プレゼントを開けるタイミングが先送りになるだけだ」と述べ、日本企業が保有する潤沢な現金について、アクティビストが手綱を緩めるのは一時的なものになりそうだとの見方を示した。

(編集:石田仁志)