【冨山和彦】「リアルCX」を支える次世代リーダーの条件

2020/6/24
NewsPicks NewSchool」では、7月から「コーポレートトランスフォーメーション」プロジェクトを始動。リーダーを務める、経営共創基盤(IGPI)代表の冨山和彦氏は、「今こそ"コーポレートトランスフォーメーション(CX)"を加速させるチャンスだ」と説く。未曾有の大変化を迎えようとしている状況で、なぜコーポレートトランスフォーメーションが必要なのか。冨山氏の真意に迫った(全3回)
【冨山和彦】求む。独裁者を作り、独裁者のクビを切る仕組み
20代から候補に目をつける
――2つ目のステップとして「次世代リーダー人材開発力改革」の話が出ていますが、どんな2、30代の人材を選べばいいのですか?
冨山 少なくとも本人にその意志がなければ駄目ですね。
日本の会社で偉くなる人は、だいたい調整能力に優れ、人の意見をよく聞き、ホウレンソウをきちんと行う人格円満なタイプですが、この手の人たちの多くは、本当に厳しい局面では優柔不断です。
でも、こういう時代の経営者は、先に述べた撤退戦にしろ、場合によっては極めて冷徹で厳しい判断を下さなければいけません。長い目で見れば感謝されるといえ、短期的には多くの人の恨みを買い、マスコミにも悪口を書かれるということが起こり得るわけです。
そうした軋轢を恐れずに、長い目で見て正しい判断を、その場で冷徹に行えることが、今後経営者に求められる要件になってくるでしょう。
冨山和彦/経営共創基盤(IGPI)CEO
それは「そういうことをやりたい」「そういうことを通じて良い仕事をしたい」「役に立ちたい」という思いがないと難しいので、やはり大切なのは当人の意志。それから性格ですね。性格的に向いているか、向いていないか。
ただし、ここは実際にやらせてみないとわからないので、早めにそういうアサインメントにあてていくということでしょう。
――ということは、新卒の頃から目星をつけるのでは早すぎますか?
遅くとも30代半ばかな。
逆に若い人へのメッセージとしては、もはや成り行きでは世界に通用するリーダーになれない時代になっているので、自分が将来リーダーというある種のプロフェッション(専門職)を選ぶのなら、20代からそこを意識したほうがいいでしょう。
そういう思いを持ちながら、自分自身のキャリアパスをどう描き、どんな仕事に就いていくべきなのか。たとえば、小さな単位でまず経営を勉強したい、あるいは大企業の後ろ盾がないところで経営をしたいのなら、ベンチャー企業が一番良いですよ。
あっけなく潰れてしまいますから。いかに会社が潰れることが悲惨かということがよくわかるので、そこで多くを学べます。仮に失敗しても、そのあと大きな会社に行ってもいいわけですよ。
経営者として本当に良い感じのバランスが取れるようになるのは40代以降の場合がほとんどですから、20代から40代になるまでの20年間をどう過ごすかが大事だと思いますね。
トップ自ら率先垂範せよ
――次世代リーダー候補者のプールの中に、日本人男性だけではなく、女性や外国人をうまく入れていくためにはどうしたらよいですか? たとえば、リクルートでは30代の女性取締役が誕生しました。
普通そうなるべきですよね。(次世代リーダーの候補者は)最初はおそらく会社の中にいる人材しかターゲティングできませんから、向いていそうな若手社員を選別し、ポートフォリオとしてきちんとバランスの取れたプールを作っておくことが大事です。
「アファーマティブ・アクション(積極的是正措置)」については、今の30代あたりから、男女半々ぐらいの人材をプールするクオーター制的な仕組みを取り入れてもいいのではないですか? 外国人についてもそうですよね。
――3つ目に「ガチンコ・オープンイノベーション」がありました。今ではオープンイノベーションを進めるためにCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が数多く設立されていますが、オープンイノベーションをガチンコにするためには、何を変えるべきですか?
冨山 2つポイントがあります。
1つは、オープンイノベーションで取り組むプロジェクトが、リアルな本業の技術にどれだけインパクトを与えられるか。
これは結局、本業に相当するような事業を構築できるかどうかを問うているわけです。ですから、やる側にも真剣勝負でやってもらわなければならない。いつまでも社会実装の実験と称してPDCAを回しているモードのまま、真剣勝負でビジネスを構築できますか、ということなんですよ。
となると、トップ直轄プロジェクト以外はあり得ません。実際、たとえば本当に良い案件があるシリコンバレーなどのピッチイベントには、経営トップが自ら足を運んでいて、場合によっては投資がその場で決まってしまうのです。
ところが日本の場合は、部課長が視察に行ってリポートを書いておしまいでしょう。トップは何をやっているのでしょう。おそらく社内調整や式典のスピーチなどに追われて、本来やるべき仕事をしていないのではないですか。
もう1つは、トップでありながら、イノベーティブな新領域に関して「俺はわからないからさ」と平気で言う人がいます。そういう人がトップになってはいけません。
――たとえばリクルートの峰岸真澄社長は、数年前からベンチャー関連のイベントなどに自ら足を運び、登壇もされていましたよね。
そうです。リクルートという会社は、ある意味でトランスフォームド・カンパニーなんですよ。
昔リクルート事件であれだけ大きなスキャンダルを起こして、普通はそこで会社が終わってもおかしくないのに、危機を乗り越えました。その後もバブルの痛手を被り、加えてデジタルトランスフォーメーションで情報誌が直撃を喰らったのにもかかわらず、発展し続けています。
――「リクルートだからできた」と言う人が多いのですが、トヨタでも豊田章男社長が前面に出て、さまざまな改革を進めています。そういう取り組みをどう評価されますか?
当然(経営トップが自ら)努力しなければいけませんし、章男さんも自分の顔が見える立場で取り組んでいますよね。
非常にリスクを取っていますが、世界最大の戦艦だった大和よりも巨大な船のような会社ですから、氷山が見えてから舵を切っても遅いのです。船の進行方向を簡単には変えられないからこそ、今のうちから舵を切ろうとしているわけで、僕は正しい姿勢だと思いますよ。
中西宏明会長、東原敏昭社長を始めとする日立の経営陣も、「もう大丈夫だ」とは到底思っていません。そういう世界なんですよ。
グローバル競争をしている企業が今置かれている環境は、長年野球をやっていた人たちが世界のチャンピオンズリーグにいきなり放り込まれ、「そこで優勝しなければ君たちは生き残れない」と言われているようなものなのです。
「深化」と「探索」を両立させる
――その意味で、トップは変わりつつありますが、4、50代の人たちが最大の抵抗勢力になっていますね。
一般的には静かな抵抗です。そのほとんどは既存事業のミドル周辺で起きます。
ビジネスにはストラテジックなピボットを行っていくレベルのレイヤーの問題と、既存事業の日常的なオペレーションのレイヤーの問題があるわけです。オペレーションは日々動いていて、日々モノを作り、日々電気を送り、日々バスを走らせるという世界があります。
この世界では、彼らがこれまで培ってきた「改良的イノベーション力」が生きるのです。つまり「そういうアサインメントの世界で、皆さんが活躍できる場所は数多くあります。ただしその上のレイヤーはありません」ということをはっきりさせたうえで、そのレイヤーで頑張ってもらうということですね。
――「深化」と「探索」で言うと、「深化」の方で頑張ってもらうということですね。
まさにそう。今、グローバル企業のトップは大変ですから。
結局、時差の関係で、1年365日、1日24時間休みなく世界のどこかでオペレーションを行っているわけです。とくに、成長途上の新興国を飛び回りながらマネジメントをする中で、戦争が起こるかもしれないし、疫病も発生したりするでしょう。グローバル級のストラテジックリーダーとして企業のトップを務めるのは、決して生やさしいことではありません。
ですから、それはそれとして、個々のローカルなオペレーションの中でビジネスをコツコツ改良・深化させていく仕事も多数あるわけです。そういうオペレーションマネージャーとして頑張ることに誇りを持ってもらうエクスペクテーション・マネジメントを、きちんと行うことが抵抗を和らげる方法の一つです。
それも嫌だというのなら、まだ余裕のあるうちに、彼らが定年退職するまでに手にする給料ぐらいのお金を払い、まとめて辞めてもらったほうがいい。
――その意味では、個人も企業側も仕事の内容について、深化型なのか探索型なのかをもっと意識したほうが、幸せになれるという気がしますね。
まさに個人の適性で、どちらかが上でどちらが下かという問題ではありません。そういう多様な選択肢を認めてきちんと評価し、尊敬し合う社会にしていかないと。
グローバリズムこそ価値があるもので、それだけが正しい戦いだということになると、変な格差社会になってしまいます。それも嫌いなので。
サッカーの世界一つをとっても、年俸何十億円の世界でチャンピオンズリーグで戦っている人もいる一方、ヨーロッパではむしろ日常的なスポーツで、個人でやるものです。その両方の世界があるから全体が栄えるんですよね。
――「両利きの人生」ということですね。
まさにそう。自分の人生のフェーズに応じて変えてもいいわけです。
(構成:加賀谷貢樹、撮影:鈴木大喜)
※明日に続く
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