【冨山和彦】求む。独裁者を作り、独裁者のクビを切る仕組み

2020/6/23
NewsPicks NewSchool」では、7月から「コーポレートトランスフォーメーション」プロジェクトを始動。

リーダーを務める、経営共創基盤(IGPI)代表の冨山和彦氏は「今こそ"コーポレートトランスフォーメーション"を加速させるチャンスだ」と説く。

未曾有の大変化を迎えようとしている状況で、なぜコーポレートトランスフォーメーションが必要なのか。冨山氏の真意に迫った。(全3回)
問題の根本はガバナンス
――冨山さんの言葉の中で、「今必要なリーダーは信長タイプで、その後を継ぐのはカエサルかアレクサンダー大王のようなタイプがいい」という部分が脳裏に焼き付いているのですが、信長やカエサルやアレクサンダー大王が日本企業にいるのでしょうか?
冨山 いわゆる民族的に日本人がトップをやる必要はないわけですし、一括採用で入社した人がずっと会社にいる必要もありません。
だから中途で入社した人、日本人ではない人が経営者になったっていいわけです。会社は国籍フリーであり、それでこそ自由市場経済なわけでしょう。労働市場が開かれているわけだから。
一方で、アレルギーとか外国人社長ではうまくいかなかった例もありますが、それはガバナンスの問題でしょう。結局日産も、カルロス・ゴーンという人物をガバナンスする仕組みがなかったから、ああなってしまったわけです。
冨山和彦/経営共創基盤(IGPI)CEO
ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、IGPIを設立。 パナソニック社外取締役、東京電力ホールディングス社外取締役。 経済同友会政策審議会委員長。財務省財政制度など審議会委員、内閣府税制調査会特別委員、内閣官房まち・ひと・しごと創生会議有識者、内閣府総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会委員、金融庁スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議委員、経済産業省産業構造審議会新産業構造部会委員他。 近著に、『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』『選択と捨象』『決定版 これがガバナンス経営だ!』『AI経営で会社は甦る』他
だから、この問題の根本はすべてガバナンスにあるのです。
次の経営者、さらに次の次の経営者にふさわしい人材をプールし、然るべきアサインメントをして、きちんとしたプロセスを踏んでいけば、当然かなり力を持った経営者になるでしょう。
その代わり、それだけ強いリーダーを作るからこそ、その人がおかしくなったら首を切る仕組みが必要なのです。こういう時代のガバナンスの本質は、独裁者を作り、独裁者の首を切ることにあるのです。
――冨山さんがリーダーシップを取り、コーポレート・ガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードが広まりましたが、日本のコーポレート・ガバナンスはまだまだ未成熟なのでしょうか?
残念ながら、まだ道半ばも行っていないと思います。
結局は、社外取締役などのうち何人が真剣にコミットして強力な独裁者を作り、なおかつその独裁者がおかしくなったら首を切るという覚悟で、取締役会の椅子に座っているかという問題です。
コーポレート・ガバナンスのシステムはできたとはいえ、そこで実際に働く社外取締役たちの覚悟が大事なのです。
あとは逆に、(社外取締役への就任を)頼む側も同じですよね。そういうガバナンス体制をまず整えることが大事であって、外国人がどうのとか、そういう個別要因ではないということですね。
日立などにはそういう意識があるから、一流の外国人経営者をガバナンス・コード、要するに取締役会に入れているわけです。
世界の常識はそうであり、とくに一流の経営者たちはその重要性がわかっているので、会社側にそういう意識がなければ、彼らは社外取締役を引き受けません。日本人でそこまで本気で社外取締役をやってくれる人がいないのなら、真面目に世界中から探せばいいのではないですか。
サッカー日本代表チームの監督もクラブチームの監督も外国人ばかりです。それと同じようにすればいいということですね。ラグビー日本代表チームにあやかって「ONE TEAM」と言うのなら、自分の会社もあのように変えてしまえばいいのです。
これは仕方がありません。スポーツと同様に、グローバル競争をしているのですから。
――冨山さんは以前からずっとそういうメッセージを発信していましたが、少しは状況は改善してきていますか?
経団連会長の中西さんが、新卒一括採用は無理とか日本人だけでやるのは無理と発言をしていることからしても、この5、6年でやっと変わってきたところです。
結局、今まで米「フォーチュン」誌の「グローバル500社」から日本企業が軒並み消えたという不都合な真実を、すべて為替が円高だから、法人税率が高いから、国内の解雇規制緩和が進まないからだと人のせいにしていたのです。自分は悪くない、自分は良い経営をしているんだと。
ところが第2次安倍政権になって円安になり、法人税率も下がったにもかかわらず、状況は変わっていません。だから、さすがに人のせいにできなくなり、やっと問題を直視するようになったという気がします。それは良い傾向ですね。
ROICツリーをまず創る
――冨山さんは「『リアルCX』を進めていく5つのステップ」を以下のように記していますが、タテ(事業)軸とヨコ(機能)軸のポートフォリオ経営力や事業構想力、競争力然り、もっと具体的に言うとどんな部分を強化すべきですか?
まず、事業の入れ替えは常態として取り組むべきことです。「この事業はもう将来の長期的成長に貢献しない」と思ったら、手遅れになる前に事業売却なり撤退をしなければいけません。
日本の会社も事業を始めることは比較的できていて、買収することもわりと好きなのですが、取捨ができません。
取捨を正しいタイミングで行おうと思えば、これはもうはっきりしていて、PLが赤字になってからでは遅いのです。だいたい赤字が3年続けば最後はミゼラブルな撤退になります。
実際、事業が会社の資本コストを下回り始めたら、PL上では黒字でも実際は赤ですよ。だいたい、資本コストを下回るレベルの収益しか上げられない事業に未来はないでしょう。それでは事業継続に必要な再投資ができませんから。
結局、短期的利益と将来の成長性のトレードオフがよく言われますが、そもそもファイナンスがまったくわかっていません。
未来投資はキャッシュであり、PLは単なる会計上の数字です。未来投資としてリスクのある投資をしていこうと思えば、そのリスクに見合った調達を行うべきで、リスクのある投資を借金で行うのは危険です。
昔のようなカラーテレビ工場の拡張は、従来の事業の延長線上だから借金で行っても構いません。でも新しい領域に踏み込み、まったく新しいアーキテクチャーで、たとえば半導体製造を始めるとか、あるサービスモデルの会社を買収するということを、借金で行っては駄目です。
だからこそ、将来の投資の原資となるROIC(投下資本利益率)が大事なのです。ですからROICをきちんと事業系の中にビルトインしなければ駄目で、当然そのROICが求めているハードルレートを何年間か続けて下回った事業は、売却しなければいけません。
ROICを上げるためには、いわゆるROICツリーのようにROS(売上高営業利益率)を増やせばいいのですが、利益率を上げようと思ったら、結局固定費を抑え込むか粗利を増やすしかないわけです。変動費にはそれほど手を入れられませんから。
また、粗利を増やすのはプライシングの問題ですが、逆に投下資本回転率で勝負するなら、在庫の回転を速くするのか、それとも工場設備の稼働率を向上させるために「コの字」型のラインを導入するのかということなのです。
そのようにしてROICツリーを展開し、現実の事業を行っている現場に近いところまでKPI(重要業績評価指標)がきちんと浸透して初めて累計になります。
――ROICツリーを展開してバリュードライバーをきちんと分析できている企業は少ないのですか?
少ないですよ。
だいたい、日本企業が事業から撤退するのは赤字がどんどん膨らんでいるからでしょう。しかも、黒字のうちに事業を売却しようとすると、「まだ黒字なのに、なぜそんな冷酷非道なことをするんだ」ということになるわけです。
だから、だいたい業績がズタボロになってから(事業売却の話が)取締役会に上がってくるわけです。実際に「なぜこの事業を10年前にやめなかったのか」という話がたくさんありますよ。
それで結局、最後の最後に大リストラをせざるを得なくなる。会社を売却するにしても社員が1000人いるのに200人しか引き取ってくれない話になってしまうので、800人に辞めてもらうことになるのです。
逆に、景気の良し悪しに関係なく、ROICが本来のハードルレートを下回っている成熟事業は売却するということを普通にやれば、景気が良い時で事業が黒字なら、買い手は高い額を提示してくれます。当然事業も引き取ってもらえるので、社員の人生も壊れないですみます。
これが、30年間のあいだに完全に証明された事実であり、今後の30年も変わりません。だから、まずタテ軸のポートフォリオについて言えば、それを前提に会社を経営しなさいということです。
これはヨコ軸のポートフォリオについても同様で、機能単位で組織能力をリシャッフルさせるわけですから、必要なくなった組織能力は、それを欲しがっているところに移ってもらったほうがいいのです。
そういう出入りが、大企業間やベンチャー企業と大企業の間、場合によっては大企業とアカデミア、もしくはわれわれのようなプロフェッショナルファームとの間で日常的に起き、それはまったく特別なことではないと認識されるようにならないと、日本企業はこの時代生き残れません。
※明日に続く
(構成:加賀谷貢樹、撮影:鈴木大喜)
「NewsPicks NewSchool」では、7月から「コーポレートトランスフォーメーション」プロジェクトを始動します。

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