【斎藤祐馬×工藤拓真】大企業30代はどう生きるべきか?

2020/6/18
プロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」では、デロイトトーマツベンチャーサポート社長の斎藤祐馬氏による「大企業30代社長創出」プロジェクト、電通クリエーティブ・ストラテジストの工藤拓真氏による「ブランド・ストラテジー」プロジェクトをそれぞれ開校します。
開校に先駆けて、斎藤氏と工藤氏による特別対談を実施。テーマは「大企業30代はどう生きるべきか?」スタートアップ、大企業、イノベーション、戦略、ブランド…。それぞれの専門性から、大企業30代の「生存戦略」を話してもらいました。

両利きの人材を目指す

──今回は「大企業30代はどう生きるべきか?」をテーマに進めていきます。まず斎藤さんから、イノベーション戦略視点で考える大企業30代の生存戦略を聞かせてください。
斎藤 ポイントは2つあります。
1つはWill。つまり、やりたいことです。自分の人生で、社会にどのような変化を起こしたいかを持っているかどうかですね。
2つ目は、周囲の心に火をつけて、巻き込んでいくこと。このやりたいことと着火力が、30代が大企業で生きていくなかで何よりも大事だと思っています。
やりたいことであるWillに関しては、大企業の方は、自分のできるスキルであるcanを大事にし過ぎてしまうことが多くあります。
ところが、Willをベースにしていけば、必ず自分に足りていないcanが出てきます。そのときに、周りの優秀なcanの人材に火をつけることで力を借り、社会を変えていく。このサイクルこそが、最も重要な生存戦略です。
斎藤祐馬(さいとう・ゆうま)/トーマツベンチャーサポートをデロイトトーマツグループ内で社内ベンチャーとして27歳で立ち上げ、世界7ヶ国150名体制へと拡大。 ベンチャーと大企業を繋ぐ早朝ピッチイベント「Morning Pitch」発起人。 国内3000社のベンチャーネットワークを持ち、500社の大企業の新規事業立ち上げサポート、官公庁自治体のベンチャー政策の立案・実行などを手掛ける。2017年日経ビジネス 次代を創る100人に選出。 主な著書に『一生を賭ける仕事の見つけ方』。(撮影:遠藤素子)
多くの場合、「会社のやってほしいこと」と「自分自身がやりたいこと」を比率にすると、7対3ほどでしょう。しかし、目指すところは、自分のやりたいことをベースに会社にも貢献すること。そのためのチャンスが、新規事業です。
現在は、デジタルに強く大企業でも一定の信頼を得ている30代の人材こそが、次々とリーダーとして抜擢されていきます。
好例は、JR東日本で社内起業した阿久津智紀さんです。
彼はまさに30代で、JR 東日本スタートアップとベンチャー企業のサインポストによる、無人 AI 決済店舗実現に向けた合弁会社の社長を務めています。阿久津さんのように大企業に在籍していても社会を変えていく生き方も、生存戦略の一つでしょう。
──30代で大企業の社長になる人材に、共通の特徴はありますか。
斎藤 “両利き”や“H型人材”であることです。
かつては1つの分野が得意という“T型人材”が豊富でしたが、今は得意分野を2つ持っている人材が多い印象です。
彼らはやりたいことをやる、という強い意志を持ちながらも、社内における謙虚さも持っているため、社内調整もできます。
工藤 尖りつつも、周囲へのリスペクトも持つと。突き抜けすぎて、周りが敵ばかりではいけませんね。
──Willという、やりたいことが見つからずに悩んでいる30代も多いと思います。見つけ方はありますか。
斎藤 方法は2つです。
1つはこれまでの人生を振り返って、本当に苦しかったときを思い出すことです。苦しいときやつらかったときの社会課題は自分事として捉えられるので、自然と解決したくなります。
もう1つが、とにかく熱量の高い人材に会うこと。熱量が200度や300度を超えるような人材と出会うと、自分も影響されて気づいたらやりたいことも生まれてきます。
人間の熱量は日々会う人材の平均熱量まで高まっていくので、私自身、1週間に必ず3人は熱量100度を超える人と会うと決めています。

自立するより、依存先を増やす

──工藤さんのブランド戦略視点から考える大企業30代の生存戦略はどうですか。
工藤 30代に自立し、40代で不惑になるといわれますが、僕自身は正直言うと全く自立できていません。今の30代をどう過ごすかを暗中模索している最中です。
私のように自立できていないと感じている大企業の人材に対しては、「もう自立しようとするな」と伝えたいですね。言い換えると、「自分のために生きている場合じゃない」「セルフブランディングに時間を使うなんてもったいない」ということです。
工藤 拓真(くどう たくま)/大分県大分市生まれ。早稲田大学法学部卒(知的財産管理士・ロンドン芸術大学留学)。電通で広告制作・PRに従事した後、クリエーティブ・ブティックに移籍。グローバル企業のブランド開発、老舗企業の事業再生戦略、官民協同の街づくり事業、スタートアップ上場前後のブランディング支援などを担当。18年11月より電通帰任し、「クリエーティブ・ストラテジスト」として活動。大学非常勤講師、日本広告学会クリエーティブ委員会委員、NewsPicksアカデミアプロフェッサーなど兼任。自著に『勇者に学ぶ「戦略思考」(日本経済新聞出版社)』『進撃の相談室-13歳からの戦略論(講談社)』がある。(撮影:大隅智洋)
私は、雑誌「WIRED」で小児科医の熊谷晋一郎さんの記事を読んだのですが、そこで述べられていた言葉にとても影響を受けました。
「アルコール依存症から自立しよう」というように、“自立”の反対語は“依存”とされがちです。ただ、熊谷さんは、「依存を超えるためには自立するのではなくて、依存先を増やす」と述べているんです。
斎藤 なるほど。
工藤 熊谷さんは、体に麻痺(まひ)を抱えています。東日本大震災の際には高層階にいて、体は自由に動かず、しかもエレベーターも止まってしまった。もう、どうしようもなくなったという経験をしたそうです。
一方、健常者はそのときに階段を使う、あるいは飛び降りてしまうといった、さまざまな選択肢があったそうです。
つまりは、「依存する先が複数あると自由になれる」「自立とは依存先を増やすことだ」ということです。
これはキャリアにおいても、ブランドにおいても通じる話だと考えています。大事なことは、いきなり自立を狙うのではなく、依存先を複数に増やしていくことです。
そもそも、大企業という何千人、何万人という社員と一緒に生きている環境では、自分のために生きている場合ではありません。
「それでは何のために生きるのか?」という疑問には、僕はブランドのために生きるという方法も一つではないか、と答えます。
自分と関係ない他人の物語でも自分自身の物語でもなく、自分でつくるブランドという物語を。ブランドのために生きていると、自然と関心が外に向いていく。関心が内に内にいきがちなセルフブランディングとは真逆の行為です。
セルフブランディングは「自分がどうやったらよく見えるか」といった考えです。それに対して、ブランドは自分の愛すべき対象で、依存先とも言えます。
(写真:takasuu/iStock)
自分が愛せる依存先をどれだけ見いだし、丹念に育てられるか。わが子を育てるようなものですが、ブランドのために生きるためには、そんな姿勢が重要になってくるはずです。
僕であれば、「この会社をできるだけ良くしよう」とクライアントのブランドについて考える時間は幸せで、外側に向いている行為です。
大企業でどう生きるかという話になると、「自立せよ」「大企業から離れろ」という流れになりがちですが、僕のように弱い人間は依存先を増やそうと頑張ってもいいのではないでしょうか。
斎藤 それも、一つの答えになりうるのではないかと。
工藤 やはり、生き方は人それぞれですから。心に火をつける「チャッカマン」がいれば、「オイル注ぎまくるマン」も必要なはずです。
僕自身はチャッカマンになる自信はありませんが、オイルの入ったバケツを運ぶ作業であれば、夜通しでもやれる自信はあります。そういう人間は、その役目を自覚し、近くにいるチャッカマンを見つけて、自らはオイルを運び続けることに限ります。
そうやって自分が依存できる先を探っていくことで、組織にとらわれずに生きていくことにもつながるものです。

世代交代が一気に進む

──今後リモートワークが増えると、組織や人間関係がフラットになる可能性があります。大企業における人間関係も変化していくのでしょうか。
斎藤 パラダイムシフトや世代交代が一気に起きるでしょうね。
これまでの大企業では、リアルな人間関係には経験のある年配社員の方が有利で、30代にはほとんど権限がありませんでした。
ところが、コロナ禍においてはリアルな関係性が止まってしまいました。そんななかでも、30代はZoomなどを駆使しながら普段と変わらずに仕事をこなしています。
(写真:SolStock/iStock)
会議でも、リアルな場では上座や下座といった座る位置も重要になってきます。しかし、Zoomでの会議では、たとえ偉かろうが発言しなかったら意味はありません。今後デジタルがメインになれば、立場なども限りなくフラットになるはずです。
そこで、大企業に在籍してデジタルにも強い、という掛け算が成立する30代であれば、今後の展望はかなり開けてくると思います。
工藤 同感です。
今までは集まること、会社に行くことが決められ、そこから「さあ今日は何をするか」という流れでした。
ところが、Zoomでの会議は「何かやろう」「そのために集まらなければいけない」という必然性がなければ、そもそも行われません。集まっているメンバーも、純粋に仕事をする人たちだけです。
ただ、これこそが本来あるべきで、ようやく環境が整った、と言えるかもしれません。
斎藤 コロナ収束後でも、デジタルに転換できているかどうかが勝負になってくるでしょう。
50代や60代が得意だった人間関係による仕事から、デジタルの価値による仕事に転換できるかどうか。関係性を重視すると、何十年も仕事先と付き合ってきた50代や60代には勝てないでしょう。
一方で、これまでZoomを導入できなかった企業がコロナ禍では1週間で導入しているように、デジタルに価値があれば圧倒できるはずです。
工藤 そうですね。Zoomでは価値ファーストになるので、何かやりたいことがあれば、会社にとどまらず、さまざまな立場の人材に声をかけられます。
今までであれば、「損益計算書上ではどうか」という考えが先に立ち、ミーティングにすらたどり着かないこともありました。
ところが、今ではセミナーでたまたま一緒になった知り合いに「こんなことをやってみたい?」と声をかけると、いきなりZoomで会議が始まり、企画書まですぐに作れてしまいます。

社内のいじめに負けないために

斎藤 現在でも、30代に大役を任せるのはまだ難しいと考える大企業は多くあります。
しかし、国内であればデジタルといった年配層がいない分野、あるいは海外向け事業などは、30代でもどんどん任せていきたい、という流れになりつつあります。
ただ、大企業の最大のリスクは、いじめられることですね。
工藤 確かに、いじめは必ず起こることですからね。
斎藤 何か新しいことを始めるときは、必ずいじめられたり、苦しい時期を迎えたりするものです。その後にJ字型の成長曲線を描くとしても、最初のうちは周囲も「どうせうまくいかないだろう」と、なかなか近づいてきません。
工藤 重要になってくるのは、やはり依存先の多さですね。
例えば、評価を下す人物が直属の上司だけだと、逃げ場はありません。
(写真:simarik/iStock)
ただ、横の関係、あるいは直属ではない重役など斜めの関係でも、信頼できる誰かがいるだけで、プロジェクトが失敗に終わったとしても次につながる可能性はあります。その方が、仕事をするマインドも健全に保てるのではないでしょうか。
斎藤 依存先は社内外で持っていた方がいいかもしれませんね。
工藤 大企業ほど部署は多く、それぞれで権限が分散して、サポート体制が整っていたりもします。つかず離れずの距離で応援してくれる部署があるといいですね。
直属ではないけれど、何か面白いことをサポートし、政治力も備えている部長と偶然つながれるだけでも、仕事のスピード感は全く変わってくるものですから。
そういったアンテナの張り方は非常に重要です。ただ、社内を敵だらけにしてしまうことが往々にしてあります。
大企業であればさまざまな部署がありますから、「周りは全員敵だ」とバリアを張るのと、「どこか自分を拾ってくれるかもしれない」という気持ちを持つのでは、可能性もかなり変わってくるはずです。

新しいことをする3つのステップ

斎藤 Jカーブで言えば、短期的な底にあたる時期に社内ではいじめられやすかったりしますね。一番苦しい時期であり、いじめられているうちに、何が正しいかわからなくなる瞬間もあったりします。
しかし、やっていることに価値さえあれば、外部からは反対に評価されるものです。なぜならば、外部にはしがらみがないので、“良いものは良い”と言ってくれますから。
個人的にも、社内で苦しい時期にメディアに取り上げられ、その記事を見た役員と命綱のようなつながりができたことで、ギリギリ生き延びられた経験もあります。
面白かったのは、底打ちして反転しはじめると、いじめてきた先輩たちが「実は応援していたよ」と手のひらを返してきたことです。ただ、「そんなものだ」と割り切るべきでしょうね。
工藤 いじめられることが前提だと。
斎藤 その通りです。
大企業の若手にとって大事なポイントは2つあり、1つは社内でパトロンを見つけること。2つ目が社内でいじめられても心が折れないよう、外部の起業家など熱量をわかちあえる同志を見つけることです。
新しいことをするためには3つのステップがあり、まず1つ目がビッグマウスです。
日本人は基本的に苦手ですが、はじめに周りをわくわくさせて協力しようと思わせなければいけないので、「社会を変える」など、大きなことを言うわけです。
次のステップとして、大きな発言をした際にメディアに取り上げられたりすることで、社内でも「なんかうさんくさそうだったけど、実はすごいんじゃないか」と錯覚が起こります。その錯覚によって、今度は社内でも人材や資金を投入してもらえると。
(写真:Tero Vesalainen/iStock)
そして、最後のステップが、発言がウソにならないように結果を出すことです。
ビジョンを描き、期待値を上げ、リソースをもらって結果を出す。これこそが、新しいことを成し遂げるサイクルになります。
工藤 ベンチャー企業ではリリースを発表した瞬間が期待のマックス値だと言われたりもしますが、そう疑われるくらいでいいでしょうね。
「こんなすごいことをやるぞ!」と言ってしまうことで、自分もチームも追い込んでいくと。
一方、弱い自分自身に重ねると、斎藤さんのようなチャッカマンにどれだけコバンザメできるかも大事だと思います。
志を持ち、Willで動くような人材は輝いて見えますが、彼らにも足りない部分はあります。例えば、マーケティングスキルや広報センス、数字に弱いなどいろんなケースがありますが、その欠点を補おうとするコバンザメ戦略も、大企業だからこそできるはずです。
もちろん、欠点を補う以外にも、いじめられているときにかばえるかどうかなど手法もさまざまあります。チャッカマン型の人材が世の中をより良くするためにと奮闘しているすぐそばでは、何もできないのび太ではなく、腕っぷしの強いジャイアンとしてかばうのか、あるいはおカネを持っているスネ夫であるべきかと。
斎藤 苦しいときに助けてくれた人のことは絶対忘れませんからね。起業家の世界では、「自分のプロジェクトを支援してくれた人は絶対に出世させる」と、命懸けでやってくれたりもします。
そんな貸し借りのバランスをしっかり持っているかどうかも重要です。そこがズレていたら誰も応援してくれません。誰もが「あの人ならサポートすれば絶対返してくれる」と思う人材をサポートするわけですから。
基本的に、互いの熱量が100度超えて高め合う関係ですから、その輪に入っていくためには、まずは「恩を受けたら倍返し」というスタンスを持つことですね。
(構成:小谷紘友 )
2020年7月に開校する「NewsPicks NewSchool」では、
斎藤祐馬氏による「大企業30代社長創出」プロジェクト
工藤拓真氏による「ブランド・ストラテジー」プロジェクト
をお届けします。詳細は以下をご覧ください。

大企業30代社長創出

「大企業のリソース」と「スタートアップのスピード」の掛け合わせこそが日本経済にイノベーションを起こす。コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)やアクセラレータープログラム、ジョイントベンチャーなど、協業の仕組みが整う中で今後もっとも重要な存在が「大企業の若手社長」である。

JR東日本とベンチャー企業の「サインポスト」と合弁会社「TOUCH TO GO(TTG)」の社長はJR東日本出身で、39歳の阿久津智紀氏。三井住友フィナンシャルグループと弁護士ドットコムが出資した新会社「SMBCクラウドサイン」の社長、三嶋英城氏はグループ最年少の37歳。(いずれも就任当時)

「2025年までに、大企業の30代社長を300人作る」をビジョンに掲げ、自らもデロイトトーマツベンチャーサポートで37歳で社長を務める斎藤祐馬氏と、未来の大企業内30代社長になるために集中講義とワークショップ、オンライン合宿を通じて参加者から実際に事業を社内提案し、事業化もしくは関連企業の社長になることを目指す。

優秀者はプロジェクトリーダーのメンタリングや継続的なフォローアップを実施します。
斎藤祐馬氏「大企業30代社長創出」プロジェクトのお申し込みはこちら

ブランド・ストラテジー

ブランディングという言葉は、様々な誤解を生んできた。短期的な獲得マーケティング施策の対義語として「儲からないけど大事」と語られるブランディング広告や、欧米風でカッコいい写真を並べたデザインへのホームページ刷新は、ほんとうのブランディングとは似て非なるもの。
そうではなく、売る人と買う人の間に、豊かな関係性を築き、事業成長(稼ぎ)を実現しながら、世界を彩る経営手法。それこそ「ブランディング」である。
他の経営手法が数字に裏付けされた「再現性」を第一に求める中、ブランディングでは単に「再現性」を高めるだけではダメ(コモディティ化のジレンマ)。ましてや、情報はスマホですぐに見つかる時代。求められるのは、数字や論理だけでは創れない「独自性」を磨き上げ、世界のどこにもない、唯一の存在として、商品やサービスを彩ること。
そのため、この講義では、まず発想力の強化に徹し「アイデア体質」になることを目指す。その上で、資生堂やユニクロ、トヨタといった大企業やNewsPicksやSHOWROOM等のベンチャー企業といった、様々な成長ステージのブランド育成に参画した経験をもとにした「ブランド・マーケティングの型」を徹底演習する。
3か月の間、講師や仲間と並走し続ける長期講座だからこそ、ロジカルにもクリエーティブにも偏らず、右脳左脳を何度も行き来しながら、双方の思考の型が身につく。
前半では「実在するブランド課題」、後半では「自身のビジネス課題」に挑戦。講師陣からの直接コンサルティングを受けながら、実務や副業へのフィードバックも実施する。
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